第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その五百十三
―――キュレネイの態度はボクたちとしては好ましいものだが、万事に有効とは限らない。
傭兵という立場はね、じつのところ過小評価されがちなんだよ。
戦争においては、傭兵たちはいつだって消耗品あつかいにされる。
『挽き肉機のなかにぶち込まれる存在』と、表現した者もいた……。
―――戦死する確率は、正規軍より多いなんてことも少なくない。
歩合制が採用されることだってあるからね、激しく戦わなければ稼げないんだ。
国家に対して忠誠心を持っている正規軍とは異なり、『捨て駒』として使われやすい。
軽んじられやすく、猟兵の場合も例外には漏れないものだった……。
―――『パンジャール猟兵団』の『番犬』として、キュレネイは考えている。
舐められるべきではない、ソルジェが英雄扱いされるのであれば。
『パンジャール猟兵団』も、スペシャルな存在であるべきだ。
ククリとククルは気づけないが、キュレネイは理解している……。
―――『ぺイルカ』の市民たちからなる市民軍は、どうやら傭兵を舐めていると。
ソルジェを将軍として評価していても、傭兵として見なしてはいない。
『番犬』からすれば、由々しき事態ではある。
商品価値を保つ必要を感じるのさ、評価は適切にしてもらうべきだからね……。
―――『ぺイルカ』の市民たちよりも、猟兵の指揮能力の方が高い。
政治家たちが軍事に口出しないように、分からせてやりたがっていた。
どこか威圧的な態度を取ったことで、罠にかかった間抜けがいる。
カール・エッド少佐も英雄扱いされているが、やはり政治的な闘争は粘りつく……。
―――議員たちの息のかかった戦士たちも、この会議の場に多数見受けられた。
『王無き土地』は知的かもしれないし、先進的かもしれない。
でもね、どんな政治体制であったとしても。
権力の取り合いというものは、絶対に起きるのがヒトの社会というものさ……。
「キュレネイ・ザトー殿。武器の携帯を所持してはいますが……その巨大な鎌は、どうにも挑発的な気がしてなりませんな」
―――若くて偉そうな男だったよ、かなりの筋肉質な人物。
議員たちが送り込んだ男であり、カール・エッド少佐の首につけられた鈴だ。
議員たちは危機感を募らせてはいてね、少佐の支配権が心配なんだよ。
臨時の首長も兼任しているけど、本来の支配者は議会であるべきだったから……。
「ふむ。そうでありますかな。大した武装では、ないつもりでありますが」
「まるで、戦場で用いる装備だ」
「……武器を持ち込むコトが、そんなに悪いかな。あちこちで戦闘をしているだけなのに」
「仲間同士なのだから、不安がる必要もないのに」
―――ククリとククルは、まだ世慣れはしていない。
悪意や侮蔑を、偽りの態度の下に隠してしまう者も多いものさ。
とくに権力者の手下には、よくいる。
この男が『キュレネイに挑みたがっている』とも、理解できないんだ……。
―――すべてはキュレネイの計算だよ、議員たちの勢いを折っておきたい。
議員たちは政治のエキスパートかもしれないが、我々に必要なのは軍事力だ。
『王無き土地』の軍人であるカール・エッド少佐は、議会に刃向かいたがらない。
それが悪いとは言えないけれど、軍事力だけに着目すれば弱体化してしまう……。
「警備に対して、ご不満でもおありかな。そうでなければ、それほどの武装をしないでしょう」
「ノー。悪くはない警備。完璧とまでは、言いがたいけれど。まあ、及第点と言ったところであります」
「ほう!及第点と。音に聞こえた、猟兵殿に評価されるとは……」
「皮肉のつもりではないであります。ただの客観的な評価。及第点であります。それ以下でも、それ以上でもない」
―――ケンカを売り合っているのは、お互いにだった。
この男は間違いを犯そうとしているんだよ、猟兵の能力を見誤っている。
キュレネイたちはね、『あまりにも活躍し過ぎている』からさ。
『戦果を水増しして報告している』、彼はそう信じてしまっていたんだ……。
―――しかも、キュレネイは『魔力を抑えていた』。
武術の腕も『弱く見せるように』、鋼の重さに体の動きが乱されるように演技している。
ククリとククルにも、自分を真似るように指示を出していたからね。
この男ほどの『ちょっとした武術の達人』なら、誤解させられる……。
「我々の腕前を、疑っておられるようですな!『パンジャール猟兵団』の猟兵殿よ、それはあまりにも失礼ではないでしょうかね!」
「ふむ。本当に悪気はないのでありますよ。ただの、事実を述べている。あなた方は、及第点止まりだと」
―――挑発すれば、ケンカを買ってくれる者も出てくれる。
この男は、議員たちの勢力拡大のために命令を下されていたからね。
隙があれば、カール・エッド少佐に『恥をかかせろ』というものさ。
猟兵が失態を見せたなら、猟兵を重用する少佐に対しても注文を出しやすくなる……。
―――組織内の権力争いというものは、どこか滑稽じみていて陰湿なものさ。
達人殿はキュレネイの罠を、半ば知りながらも自ら飛び込んでくれる。
自分ならば勝てるだろうと、大きな誤解をしたままね。
キュレネイはそこまで計算し、弱さを演じていた……。
「少佐。彼女たちは、私たちの腕前を、過小評価しておられるようだ!『ぺイルカ』の正規軍として、黙っておられませんよ!!」
「弱い犬ほど、よく吼えるでありますな」
「……っ!!小娘め……っ!!」
「上司にチクるのではなく、戦士であるのなら、その鋼で私に示してみればいいであります。評価が不服なら、力で、私に示すといい」
―――カール・エッド少佐も、ため息を吐いてはいたけれど。
キュレネイの計算については、しっかりと見抜いてくれていた。
『練習試合』を求めて来た達人殿に対して、あっさりと承諾を出す。
少佐は権力志向ではないものの、メイウェイが動く現状では軍事に集中したかった……。
「恥を、かかせてやるぞ、小娘」
「こちらのセリフでありますよ。及第点」




