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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百十二


―――とどのつまり、彼は父親だったのだ。

どれだけ狂暴なところがあったり、優れて傭兵であったりしたところで。

レイ・ロッドマン自身が、混沌とした乱世の片すみで定義した自分は。

夫であり父であること、それはとても明瞭な真摯さだったよ……。




―――フラビア・ステイシーという人物は、そういった明瞭さを好んだ。

彼女の書いた著作のなかで、フラビア自身も己の定義をしている。

『私は定義が好きなのだ。その物事の本質が何であり、何のためにあるのか』。

『自らを自らで定める瞬間、それは生き方を背負わせる行為だ』……。




―――『この不確かな世界のなかで、一度たりとも信念に基づいて生き始めたなら』。

『心が朽ち果てない限り、己は変わらないものだ』。

『私が信じられるものは、家族想いの人物である』。

『利他的な行いのなかでも、何処か利己的なそれ』……。




―――『今後、どれだけの失望をするかは分からないが』。

『この永続する信念は、揺らぐことはない』。

フラビアにとって、レイ・ロッドマンは最高の交渉人だったわけだ。

それを彼自身は利用していないし、もちろんリサだってそうだよ……。




―――ただの偶然であるし、あるいは必死な者たちが手繰り寄せただけの運命だ。

どっちでもいいけれど、ボクは詩人なのだから後者を推薦するとしよう。

このろくでもなく現実的な世界にはね、ちょっとは詩的な運命論が要るよ。

ヒトはそういった瞬間を見つけて、表現し続けるべきだと信じている……。




―――そうじゃないと、あまりにもこの世は悪意が支配的であるように思えちゃうからね。

ボクもそれほど楽観主義者というわけじゃないし、『あくどい人物』だろうけど。

運命も奇跡も、じつのところは大好きなんだ。

ヒトの意志がたどり着ける最果ての場所は、神さまさえも超越した場所だと信じる……。




―――『ゼルアガ/侵略神』のたぐいには、とくに負けたくないところだよ。

今日は、女神イースという試練を越えられた記念すべき日だ。

祝いたいから、たくさんの良い報告がやって来るのを待ってもいる。

フラビア・ステイシーの結論は、そのひとつだったのは確かだね……。




―――彼女は、レイ・ロッドマンに船を与えたんだ。

運命の引き金のひとつになる、レイ・ロッドマンの読みの通り。

メイウェイは『西』に向かおうとしていたし、その意志は承認される。

カール・エッド少佐と、ドゥーニア姫によってね……。




―――この二人もメイウェイを理解しつつあるんだ、誠実かつ『軍事的な天才』。

正直なところ、カール・エッド少佐とドゥーニア姫よりも戦は上手だし。

潜在的なカリスマ性では、二人よりもあるかもしれないね。

巨大な才能というものは厄介のところがあり、周りを従わせる力を持っている……。




―――乱世において、最も重宝される才能のひとつが『軍才』という点においては。

さほど議論の余地はないと信じているよ、あったとすれば次点で血筋だけれど。

これも『軍才』に殺されて来たから、歴史書の多くのページで王朝が交代している。

どっちが強いかを決めるのは、野暮ったい行いだよね……。




―――メイウェイはソルジェほど奪われてもいないし、与えられてもいない。

マルケス・アインウルフよりも『下』だし、王にも貴族にも向いていないかもね。

だけど、荒野を歩きながら作戦を練り始めているこの男は。

『兵士』としての才能だけなら、世界でトップかもしれないんだ……。




―――王や貴族や騎士とは異なり、自分のために戦えない。

つまりは、フラビア・ステイシーも気に入りそうな男だったよ。

利己的な男であり、『家族』という概念で彼が連想するのは自分の所属部隊だけ。

『兵士』であり『兵隊』を『家族』と呼ぶ、一種の昆虫めいた忠誠心があった……。




―――けなしているわけじゃない、本能のレベルでメイウェイは兵士だってことさ。

敵に回したい人物のはずもなく、彼の才能が戦場を求めているのなら。

カール・エッド少佐も引き留めることはないし、ドゥーニア姫もうなずいた。

メイウェイの望みに従い、『猟兵を首輪にする』ことにもね……。




「イエス。了解したであります」




―――我らが猟兵、キュレネイ・ザトー。

『西』にいる帝国兵どもを、遊撃しながら狩っていた彼女。

今日の『戦果』も著しくてね、76人の帝国兵を殺して29人捕虜を取っていた。

単独行動の結果ではなく、ククリとククルのストレガ姉妹もともにね……。




―――賢くて判断力の高いトリオは、『西』から帝国軍がやって来ないように。

『プレイレス』の西端部で暴れ続けていたわけだよ、過度に刺激しないようにね。

だから、『手加減して殺している』わけだ。

カール・エッド少佐はその報告を、冗談だと思ったかもしれないけれど……。




―――キュレネイが猟兵で、ククリとククルが『ソルジェの義妹たち』だと知れば。

すぐに納得してしまう、カール・エッド少佐もソルジェへの評価は高いんだから。

竜を乗り回す北方野蛮人の部下と、その義妹たちは。

ソルジェに対して抱いた印象に比べると、不釣り合いなほど知的で冷静だったはず……。




「メイウェイを自由にするわけにはいかないのだよ。彼を信じていないわけでもない。忍耐強い人物ではあるが……」

「『メルカ』と違って、『外』の人たちは一丸じゃないもんね」

「キュレネイさんが認めるなら、ソルジェ兄さんが認めたと同じこと。メイウェイ氏の首輪として、しばらく同行いたします」

「少佐、私たちの仕事を信じるであります。メイウェイが裏切れば、ちゃんとその首。少佐のもとに転がしてあげるであります」




―――いつもの無表情で、キュレネイはそう語るからね。

人生経験が豊富かつ、故郷で政治活動にも揉まれて成長盛りの中年男性も。

さすがに額のすみっこの方には、冷や汗のひとつだって浮かばせる。

巨大な戦鎌を抱えたキュレネイに、伝説の死の神々でも見たのだろうさ……。




―――実際のところ、伝説の存在よりも実在の死神の方が嫌だろうからね。

キュレネイの無表情な視線は、慣れていない者からは『冷たく』見えるんだ。

ちょっとは怖いよ、本当はチャーミングでユーモアのある乙女なんだけれど。

床をチラ見した赤い瞳に、少佐はメイウェイの生首をちゃんと想像していた……。




「正直なところ。メイウェイが裏切るとは、私は思わないでありますが。保険は、ないと。常人の神経では、安心できない」

「常人か、そうだな。その通り」

「気に病むことはないであります。それは、『マトモ』という誉め言葉。傷つくべきでは、ありません」

「フォローしてくれているのなら、その必要はない」




「やれやれ。大人は強がりであります。そして、誰もが本音を隠したがる」

「だよね。私とククルは、『外』についてあまり詳しくないから」

「キュレネイさんの判断に、任せます」

「イエス。そうするといい。私は、賢くってキュートなチーム・リーダーでありますからな。間違いは、万に一つも犯さない」




―――無表情のまま、床をまた見つめていたよ。

ああ、カール・エッド少佐をからかうためにね。

賢くてキュートなチーム・リーダーらしく、悪趣味なジョークも楽しむ。

つまりは、いつも通りのキュレネイだった……。





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