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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百七


―――アリーチェは『ツイスト』大学に、出かけることを選んでいたよ。

しかめっ面の学者さんと、くすぶる野心に身を焦がされる傭兵から離れてね。

この『プレイレス』がどんな方向の『未来』に行くのか、それを支える学生たち。

アリーチェは若者たちを、屋根の上から見ている……。




―――屋根に上がった方法なんて、ボクには分からない。

でも、幽霊みたいに壁でも歩いて登ったんじゃないだろうか。

女神さまの一種だから、もはやどんなことでも起こせてしまう。

夏の風を浴びて、細い首をのけ反らせた……。




―――猫のように気ままな態度で、地上をゆっくりと見回していく。

学生たちには、かつてない迫力が宿りつつあったんだ。

リサ・ステイシーがかけた、『殺したがらない本能』を外すための策略。

それはゆっくりとだが確実に、しかも驚くべき速度で学生たちに伝わっていた……。




―――帝国兵の武装を模したカカシに対して、学生たちは殺意をぶつけている。

リサの教えの通り、文化的な価値観で帝国兵を憎んだ。

「人種の境界を越えるんだ」、「あいつらはオレたちとは違う」。

自己洗脳をするように、槍と剣をカカシに打ち込んでいるよ……。




―――リサの教えは、さらに続いている。

倫理的な価値観で、敵を罰しようとしている。

「侵略者には容赦なく反撃するんだ」、「我々こそが正しい!」。

敵を罰する自分たちを、神聖化していく行いだ……。




―――社会的な価値観でも、結束しようと試みる。

「ボクたちの居場所があるとすれば、ここだけだ」。

「周りを信じてはいけない、大人たちはいつもみたいに理想を捨てるかもしれない」。

自分たちの『特別さ』を頼りにして、『かつて世界を変えられなかった者』を罵った……。




『みんな、すごく心が……刺々しいけど。強くなっているね!とても、いいコトです!』




―――騎士道ではなくて、兵士道というべきものが完成しつつあった。

アリーチェはそれらの違いには、まだまだ疎さがあるよ。

哲学的な違いよりも彼女が重要視しているのは、若者たちの力強さだけ。

夏の風よりも熱く、若者たちは兵士へと変わっていく……。




―――それを評価するのは、帝国軍と戦って勝利すべき我々としては正しい。

我々を応援してくれているはずのアリーチェにとっても、正しいはずのことだ。

この教化が進めば、若者たちは戦場で『殺したがらない本能』を克服してくれる。

世にも珍しい殺人に対して良心の呵責をもたない、2パーセントが量産されるんだ……。




―――筋肉や武術を鍛えるよりも、非常に有効なトレーニング方法だろう。

短時間でそれらを一流にするのは困難だけど、心理的な変異は一秒でも可能だった。

若い心は良くも悪くも柔軟だからね、すぐに理想的な兵士に近づいてくれる。

洗脳じみていたとしても、実用性は高いから全てが許容されるかもしれない……。




「ハハハハ!どうしたのかな、『ツイスト』大学の生徒たちは!!『レフォード』大学も、かなり熱心な反帝国活動をしていたはずなんだが……それ以上だよ。サー・ストラウスの戦勝の報が入ったのかな。いやいや、そんなハズはない……最新のニュースを届けるのは、オレからって形にする予定だし……




―――姑息な政治術ではあるが、それもまた許容すべきが乱世であろう。

学生たちのリーダーの一人として、忙しく『中海』のあちこちを移動している青年。

カイ・レブラートも、じつに素直な態度で学生たちの熱狂的な訓練を喜んでいた。

特別仕様の高速商船を乗り回しながら、つい先ほど『ツイスト』に入港したのさ……。




―――妻帯者になったばかりの男の新婚生活は、ずいぶんと軍事的ではある。

大商人である実家の太さを使いながら、カイは組織の拡張に腐心していた。

学生たち一万人で作られた軍団の長がいるとすれば、カイの予定だ。

元から学生たちの連合のリーダーのひとりだったし、他に適当な者はいない……。




「サー・ストラウスから、任されているような気もするしな」




―――『プレイレス奪還軍』の総大将、カイがそれになれるかはともかく。

学生たちの指揮官としては、今のところ最も地位が高いんだ。

戦に参加したという実績もあるし、今では政治的な立ち回りもがんばっている。

将に求められるのは軍才だけでなく、ときにはそれより政治的才能も必要だから……。




「政治家が誰かの前に立つときは、『手土産』がないとカッコ悪くてしょうがない」




―――母校である『レフォード』大学で教わった歴史において、それは絶対だった。

成功した政治家というものは、ほとんど例外なく。

民衆の前に立つときに、ちゃんと『手土産』を携えていたものだ。

それは露骨な金品でもある、不正な手段もときには好まれる……。




「かの職業に、賄賂と収賄がなくならないのは、心をつかむための『手土産』として、最も手軽な選択肢が金だからだよ。でも、でもね。サー・ストラウス。ここにいる学生たちには、金よりもあんたの英雄譚の方が有効だろうぜ。オレだって、槍を振り回す訓練をしたくなっているんだ。スゲーよ、あんた。あんたの奥さんたちもだ。山ほどの勲章では足りんぞ!」




―――若く、そして幼さを帯びた魂には特権があった。

まだカイは、本当の意味での『嫉妬』を知らないでいる。

自分が比べられるという恐怖に、いくらか鈍感なフリをしていられた。

猟兵ほどの活躍を戦場で求められたりすれば、どれだけ追い詰められるのか……。




―――器用な彼は、そのリスクだけは理解していたんだ。

学長殿からの教えもある、「商才と弁論術に逃げ込め」。

才能はそこにあるから、戦場での槍働きがイマイチであっても問題はない。

結婚したのも大きいかもね、彼は生き残ろうという意志が強くなっていた……。




「いろいろと、複雑になってくれているが。うん。それが、オレを救ってもくれているよな!さて……いい報せを伝えに行くとしよう!政治家ゴッコだぜ!!」




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