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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その五百二


―――乱世においては、さまざまな種類の野心が顕在化するものでね。

メイウェイは王さまになれない自分に、もう一度エリート軍人としての地位を与えたい。

すでにその実力は証明されているものの、結果として『イルカルラ』を奪われたからね。

政争で負けた結果だとしても、歴史はそうやさしい評価を下さないだろう……。




―――『負け犬』として歴史に描かれる可能性があり、それは耐えがたい屈辱だ。

歴史家はともかく、多くの市民はアインウルフの影に隠れた男を気にしなくなる。

アインウルフは大きな転換点となったが、メイウェイは状況に応じただけだ。

現代においてはメイウェイの影響力も十分なものだけど、きっと歴史には埋もれる……。




―――それが何よりも悔しいことだとは、自意識過剰ではない彼は思わないまでも。

屈辱的な末路だと、考えられるほどには天才だった。

誰しもが『自分の実力に相応しい評価』ぐらいは、欲しがるものだろう。

メイウェイの軍才も統治能力も、複数の国の恐れられる能力はあるのだからね……。




―――彼が王族の血を一滴でも引いていたら、もっと大きな力を持てただろう。

それは悲しいかな現実的な評価であり、メイウェイはその事実も腹立たしい。

貴族でなかった庶民に過ぎない男は、血筋の力に負けるという当然の力学が嫌いだ。

どこかで『それをくつがえしたい』という願望があって、それは野心の機会を得た……。




「私はね、自分を歓迎しない者たちとだって、仲良くやれる自信がある。そんな選択を、幾度となくしてきたのだから」

「見知らぬ連中を束ねる力量が、自分にはあるってか」

「まあね。君なら、よく分かっているだろう」

「……ふん。調子に乗っていると、戦場で後ろから刺されるぞ。マイク・クーガーの弟は、帝国軍のキャンプ内で殺された」




「腹心だったからね。嫉妬や、警戒もある。血筋に守られていないと、暗殺のリスクが増える日もあるさ」

「グラム・シェアが、マイク・クーガーの成長を恐れて、暗殺させたというウワサもある」

「ウワサなんて、気にするほどの価値があるとでも?」

「アインウルフが、あんたに嫉妬を抱くとか」




「それはないね。英雄らしい人物だから、私の活躍を喜んでくれるだけ。おそらく、グラム・シェアも……」

「弟を暗殺したりはしなかったかもしれないが、冷遇はしていただろう」

「『適切な距離』を保とうしただけ。第九師団ごと、敵視されないように」

「ん。ああ、そうか……『外様』のグラム・シェアが、マイク・クーガーみたいな天才と仲良くなれば……」




「ユアンダートは考えていたはずだよ。自分が敗北するとすれば、どういうシナリオなのか。『自由同盟』なんて、気にしちゃいなかった。今はともかくね。しばらく前までは、唯一のシナリオが」

「十大師団が、反乱を起こす」

「その通り。最強の武器が、主を討つ。とくに珍しくもない現象ではあるよ。歴史においては、非常にありふれている」

「マイク・クーガーの弟を暗殺したのは、皇帝?」




「さてね。私は当事者でもなければ、探偵でもない。兵隊は若者が多く、治安がいいとも言いがたい側面がある。非戦闘時には、ヒマに耐えなければならない。そこでは酒に酔った男もいれば、カード遊びで負けをこじらせて、借金を抱えた者もいる」

「ああいうクズどもに、刺されたと?」

「君も知っているはずだ。軍規が最も緩むのは、休息のなかにいるときさ」

「……クズ行為するにも、余裕がいるのは確かだろう」




―――アーベルは、どこか安心していた。

マイク・クーガーの弟を暗殺した犯人が、ライザ・ソナーズだと言われなかったから。

可能性がゼロだとも、言いがたいところがあるからね。

策略家ではあるし、政治的ライバルにはとても苛烈な女性ではあった……。




―――暗殺は、騎士道からすれば美徳とは言いがたい。

ライザ・ソナーズが美徳のかたまりとまでは、アーベルも思っていない。

だが、義理の両親が敬愛と忠誠を捧げていた相手だとは知っている。

だから、自分も盲目的な態度でそれを信じるのが義務だと決めた……。



「アーベル……ちょうどいい」

「何に、ちょうどいいと言うんだ?」

「君は、私の護衛になりたまえ」

「……はあ?アホなのか、あんた……」




「『プレイレス』の民はね、異常なまでに『ハーフ・エルフ』への態度を改めようとしている者たちがいる。これまでとは、ずいぶんと変わった」

「……アリーチェの、おかげで」

「それと同時に、あまりに強烈な変化を好まない保守的な者たちもいる」

「当然だな。『ハーフ・エルフ』を、ゴキブリ以上に嫌っていたのに。変わり過ぎだ」




―――世界は変化を好みもするし、嫌いもする。

人それぞれだよ、『変わった』という事実に対しては怒りもあるものだ。

差別というのは、そうたやすく消えてなくなるものじゃない。

『自由同盟』に属しはしものの、人々全員から差別感情が消えたわけではない……。




―――差別というものは、間違いなく一種の文化だ。

少なくとも、文化的な価値観に基づいている行いだよ。

文化というものは、それぞれの集団の特性だ。

『他とは変わっている』という力が、それぞれの文化だね……。




―――人種というものは、まさにそれだった。

文化を根底から支えている、変えがたい根拠のひとつ。

異文化に対して抱く嫌悪感が、人種差別の土台でもあるよ。

『我々とは違う連中』を、愛せるか憎悪するかは人それぞれだ……。




―――法律なり、権威なり。

あるいはソルジェという『圧倒的な大魔王/暴力』がいることで。

人それぞれである自由意志を、統制したりするわけだ。

ソルジェ本人にその考えがあるかはともかく、ボクらはそれを利用してはいる……。




―――ソルジェが『亜人種びいきの大魔王』だから、人々は差別できなくなった。

そういう面も、今という現実をちゃんと支えているんだよ。

この暴力的な強制がなければ、人々が差別を乗り越えられるわけないからさ。

戦争での活躍や暴力というものは、精神に対しての劇薬にはなってくれる……。




「君だって、暗殺されるかもしれない。『ハーフ・エルフ』は、象徴になりつつある。私のそばにいれば、ちょっとは安全だろ」

「……どっちが、護衛だ」

「助け合うのさ。フェアなハナシになる。君は数年後には、立派な剣の達人になれるよ。戦場を生き抜き、あるいは……戦場ではない、一見おだやかなキャンプの片すみで、おかしな兵士や、差別主義者に刺されなければ」

「生き抜くさ。利用する。復讐も、果たさねばならんから」




「よろしい。では、君は私の護衛としても雇おうじゃないか。裏切らないでくれたまえ。護衛にしたという意味は、目をかけてやるという意味だ」





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