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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百九十九


―――乱世の戦場では、悲劇がありふれているからね。

人種に対しての差別も、当然のように行われていた。

アーベルがボロボロなのは、その結果である。

手酷い裏切りに遭ったせいで、彼はずいぶんと多くの戦友を失ってしまったらしい……。




―――ありふれたことに対しても、メイウェイは鈍感ではいられなかった。

庶民出身者だからこその共感というものもあって、それはアーベルに対しても及ぶ。

すべての兵士に、メイウェイは少なからずの共感を持っていた。

傭兵に対しての偏見もなく、亜人種に対しても比較的寛容な太守でもあったのだ……。




―――それゆえに、政治的な争いに負けてしまったとも言えるのだが。

それが心の傷になっていたとしても、彼はまだやさしい男でいられる。

甘さは弱さだと誰かに言われたところで、きっと変われない男もいた。

メイウェイは弱者に対して共感を持てる自分に、限界を感じながらも労った……。




「よくぞ生き抜いたな、少年。同じ側で一度でも戦った者として、戦場により長く生きてきた先輩として、君の生存を祝う」

「……うるさい。祝って欲しいわけじゃない。祝福なんて、『ハーフ・エルフ』に与えられるはずもないだろう」

「どうかな。私たちは、夢を見たぞ」

「アリーチェの、夢か。赤い竜に……あれが、どうしたと言うのだ!」




「人々が『ハーフ・エルフ』に対しての認識を、改める結果にはなっているらしいよ。ストラウス卿たちも、応援しているようだ」

「政治的な策かよ。『蛮族連合』は、亜人種たちをそそのかしたがっている」

「そういった策を好むような人物でもない。結果的に、そうなったとしてもね。より素直な発想だよ。あの少女は、笑顔だった」

「バハルさまたちの娘だ。とっくの昔に、死んでいるはずの……」




「不思議なことも起きるものだ。古王朝の祭祀呪術とやらのおぞましさは、私もイルカルラ砂漠で遭遇した。とても強く、おぞましい。死者の魂さえも、呼び覚ます」

「どうして、アリーチェだったのか……」

「ふむ。君であって欲しかったのか?」

「そういう、こじらせた劣等感は持っていない」




―――真に受けてはやれない言葉だと、メイウェイは理解する。

養子と死んだ実子のあいだに、どういった感情が働くものか。

とくに義理の両親に対して、目に見えるほどの忠誠心を抱えた少年というものは。

戦場では物事が単調になってしまう、戦いにさらされた心は素直になるのだ……。




「それで、君は私に何の用がある?……帝国軍の裏切りを報告する相手としては、適切ではないよ。知っているとは思うが、私はとっくの昔に帝国軍から離脱してしまった身だ」

「愚かなヤツだな。自分から、滅びの道を選ぶ」

「裏切るつもりも、なかったのだがね。政争に負けると、軍人は脆いものだよ」

「『蛮族連合』の将として、働くつもりなのか」




「アインウルフさまも、こちら側についた」

「親玉がついたら、お前もついて行くと?」

「総合的な判断の結果だ。帝国に弓を引いた者は、許されない。ユアンダートはしつこい。反乱分子をしっかりと始末するだろう。私は、少しばかり誤解していたよ。君の訪れを」

「安心しろ。暗殺者じゃない」




「だろうね。本気で私を狙うのならば、もう少し戦力が要る」

「オレを、弱いと?」

「いいや。君よりも、私の方が、ずっと強いというだけさ。一対一で、君はまだ私に勝てない」

「試してみるか?……ガキだと侮られて、退いてやるほど、オレは素直じゃない」




「やめておけ。話し合いに来たんだろう。それに、死にたくもあるまい」

「……傷が治ったら、戦ってやってもいい」

「決闘を受けるのは、貴族たちだ。私は、ただの軍人に過ぎん。それで」

「オレを、雇え」




―――予測はしていた言葉だった、戦場で傭兵が近づいて来るときの半分はこうだから。

部隊や兵団を率いる者に、自分を売り込もうとする。

慣れたものだったよ、『ハーフ・エルフ』からの売り込みは珍しかったけれどね。

メイウェイは、査定してやるために剣を抜いた……。




「打ち込んで来たまえ。私が、戦場で使うとすれば、まともな一撃を放てる者だけ。年齢も問わない。性別も。人種もだ。必要なのは、十分に敵を殺せるかどうか。そして、忍耐強い者も好む。騎士は気高さを要求される。戦士は生き様だ。だが、兵士に必要な最大の素養は、忍耐力のみ。地獄の行軍の果て、飢えと渇きと痛みと疲労。それらに襲われながらも、仲間のために剣を敵へと叩き込めるか。それだけが重要だ」




―――アーベルも剣を構える、その動きは実によどみがないものだった。

エルフの血が半分流れているおかげで、男であってもしなやかだ。

疲れ切っているズタボロな現状であっても、アーベルは見事な斬撃を放つ。

養父のように豪快な彗星の強打ではなく、流星のようにきらめく一閃だ……。




―――鋼がぶつかり合い、もちろんメイウェイが勝者となった。

アーベルだって、この結果は想定内のはず。

それでも、剣が弾き飛ばされた事実に顔をゆがめた。

剣を追いかけず、ナイフを抜こうとしたのは傭兵らしい……。




―――そのナイフを抜く動作を、ちゃんと途中で止められたのもね。

もしも完全に抜いていたら、メイウェイに斬り殺されていただろう。

ふたりの間に、信頼するほどの絆はないのだから。

信じられる情報はどこにもない、それでも抜かなかったから殺されない……。




「十分な一撃だった。強さには欠ける。だが、兵士に最低限必要な耐久性はあった。君は、傭兵としては悪くない」

「……雇ってくれるんだな?オレは、帝国軍に……復讐しなければならん」

「事情を聴きたいところだね。君は、少なからず帝国にゆかりを持つ。忠誠心も感じられる。裏切り者にはなりたくないはずなのに」

「話す必要なんか、あるのかよ。オレは……」




「『ハーフ・エルフ』であっても、構わないから雇う。私は、可能な限り自分の部下について知っておきたい。君だって、『使われたい戦場』のひとつぐらいはあるから、そんなに荒んだ目をしているはずだぞ」





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