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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百九十八


―――メイウェイの立場は、複雑だった。

イルカルラ砂漠から南進してきても、居場所がないと感じている。

カール・エッド少佐のいる『ぺイルカ』に、全軍を受け入れてはもらえない。

それは野戦に慣れた彼にとっても、一種の屈辱ではあるものだ……。




―――『ぺイルカ』の人々は、イルカルラも帝国軍人も恐怖しているからね。

慎重な対応になるのは、当然ではある。

徐々にカール・エッド少佐たちの態度も、軟化してはいるのだけど。

そもそもの居場所の欠如を、彼は感じていたんだ……。




―――自分がなりたかった者に、なれていない。

それは有能な男にとっては、耐えがたい苦悩をもたらすものだ。

メイウェイは優秀だし、天才軍人だった。

だが太守の座に甘んじて、今ではどこか機能不全の軍を率いている……。




―――イルカルラの『雇われ将軍』になれば、満たされるというわけでもない。

ここはマイク・クーガーが討たれた土地、自分よりも天才がいるとすれば。

そういう問いを、天才であるメイウェイは多くの者たちから受けてきた。

才能を比べるには、戦って競う必要があるとは思うものの……。




―――その種の問いに、すぐさま思い浮かんだ人物のひとりがクーガーだ。

マイク・クーガーとは何度か会ったこともあるし、その著作も読んだ。

自分も学業で苦労した身である、帝国の侵略戦争がなければ。

軍功だけで出世することなど、なかった身である……。




―――貧民の子に生まれたら、一生涯に一度の本を読む機会もない。

歴史上の軍隊の多くが、そうであったように。

軍隊は一定以上の貧乏人や、社会から受け入れがたい乱暴者にとって。

とてつもなく『ありがたい場所』であり、おかげでメイウェイは知識を得られた……。




―――殺し合いが上手なだけでは、限界があるのだとやがては思い知る。

ヒトを動かすときには、天才的な野生の勘だけではなくて理論も必要だからだ。

そういったものがあれば、ヒトは納得してくれるから。

せめて文字が読めないと、そういった知的な指揮官にはなれない……。




―――マイク・クーガーも、似たような立場だろう。

この九年間に及ぶ、大陸全土への侵略戦争で出世した『庶民』の大半は無学な者だ。

子供のころに、ろくな教育を受ける機会もなかったはずなのに。

帝国軍が『教育』をくれた、読み書きや基礎の数学まで……。




―――ユアンダートの軍事改革のひとつであり、その結果として世の中は賢くなった。

多くの帝国兵が、自分の村にいては学ばなかったはずの読み書きや計算まで。

必死に覚えた、それがやれると給料が跳ね上がるというエサにつられて。

帝国軍を除隊した連中は、読み書きがやれる帝国人となった……。




―――侵略戦争がもたらした、ひとつの大きな変化だったのは事実だよ。

メイウェイは、自分たちがどれだけ貧乏で無学な立場だったか知っている。

マイク・クーガーも同じだったが、彼も個人的な努力で道を切り開いた。

庶民が本を書き上げるなど、まして歴史的な名著を遺すなんて……。




―――歴史を探しても、そんな不思議な現象は多くない。

マイク・クーガーと戦う状況になれば、メイウェイは勝てたと自己判断する。

だが、それはマイク・クーガーが少佐だからだ。

将軍としてもっと大勢の兵力を率いてぶつかれば、どうなっただろうか……。




―――合戦では勝てても、季節を幾度も越えるような戦いをしては。

とてもじゃないが、勝てるわけもない。

持って生まれた天賦の種類は、人それぞれになるものだ。

マイク・クーガーの死を、悼む気にはなれる……。




―――同じような生まれで、同じように帝国軍で出世し合った。

ライバルとも語られるようになり、こちらは太守となりあちらは名著を遺した。

似たような立場だったが、分かり合えないことも多々ある。

その最大のものは、最終的にマイク・クーガーは謀反じみた行動に出た……。




―――『ぺイルカ』を捨てて、グラム・シェアの軍と合流すれば良い。

それがソルジェの率いる『奪還軍』が近づいたときの、最善策だった。

全軍ではなく、少数を『ぺイルカ』に残して防衛戦をしつつ。

グラム・シェアの本隊を強化するように合流すれば、学生軍など物の数ではない……。




―――それをやらなかった、それは結局のところ。

グラム・シェアという主君を、マイク・クーガーが裏切ったからだった。

グラム・シェアを守るよりも、『ぺイルカ』という『自分の王国』を守ろうとした。

領主気取りどころか、王さま気取りになっていたのだろう……。




―――心は複雑だから、すべてが欲に染まっていたとまでは言わない。

だが、軍人らしく野心を持ったのだ。

自分が第九師団全体を掌握するチャンスを得るために、将軍を見捨てていた。

マイク・クーガーがそんなことをするとは、たぶん本人だって思っていなかった……。




―――歴史は戦争で作られているが、多くの軍人が野心のために暴走している。

マイク・クーガーは自著でそれを示していたはずで、たしなめてもいたのに。

まるで逃れられない本能であるかのように、暴走してみせた。

それを反面教師として見るべきだが、メイウェイは野心が疼くのを感じる……。




―――王さまにはなれない、そういう種類の天賦はない。

支配者には向いてはいないが、それでも野心が疼いている。

もっと大物になりたいと願うのは、乱世で男が抱く普遍的な願望ではあった。

それなのに、メイウェイは『ぺイルカ』近くの野原にいる……。




「私は、もっと役に立てるはずだ」




―――アインウルフと合流したい、それが難しいのならば。

『プレイレス』の東の守りにでも、つけさせてくれたなら。

どれだけ活躍してやれるだろう、長年所属した帝国軍の動きは理解できる。

『プレイレス』の指揮官たちよりは、自分の方がいい守護者となれるのに……。




―――『プレイレス』の支配者たちは、それを認めはしないだろう。

自分を侵略者の一部として、ずっと見ているからだ。

『イルカルラ』という所属のせいで、『ぺイルカ』人からも警戒されている。

たまったものじゃない、こんな草原にいても何の役にも立たないのだ……。




―――思えば、ありがたい奇跡があった。

酒場での対話に、アリーチェが聞き入ってくれたおかげでね。

この『トリックスター』が、興味を引かれる出会いを見過ごしていた。

メイウェイに会いに来ていたら、鉢合わせするところだったよ……。




―――傷だらけの少年が、メイウェイに向かって歩いている。

武術の才もある男は、その気配に数分前から気づいているが。

興味があったのか、政治的な意図を探ろうとしていたのか。

接近を許していたよ、危険な領域の一歩手前までね……。




「そこで、止まるといい」

「……っ。知っていたのか」

「音を消す歩き方。魔力を消す呼吸法。実に伝統的な動きだよ」

「知っているのか。オレは、帝国軍より少し古い軍の伝統を継いだ」




―――振り返ると、そこにいたのは少年だった。

平凡な武装と、負傷したのか包帯だらけの姿。

特徴的な要素に乏しいが、メイウェイの目はそれに気づく。

アーベルという名の少年の耳は、ハーフ・エルフのそれだったから……。




「君は、ハーフ・エルフの傭兵か」

「そうだ。帝国側のな」

「奇遇だね。私も、そうだった。今は違う」

「オレは……オレも、もう、違うんだ。君主を、失ったから」




「君主、誰だろうね。第九師団は、大勢を失った。グラム・シェア?」

「違う。そうじゃない」

「マイク・クーガーか。すぐそこに、彼の本拠地があった」

「いいや。オレたちはマイク・クーガーのように、裏切りはしない」




「……少し遠いが、君は……」

「オレたちの『いちばん上』は、ライザ・ソナーズ中佐だ」

「彼女の部下か。なるほど、帝国軍よりも……ファリス王国軍の流れをくむ……」

「バハルさまが、オレの……養父だった」




「……バハル。なるほど。ライザ・ソナーズが運用していた、騎士崩れの傭兵……ああ、言い方が、悪かったか」

「構わん。正しい言い方だ。だが、バハルさまとセリーヌさまこそが、最高の騎士だった。君主のために、裏切らず。戦い抜いた。死んで、呪われたあとでも……」

「討ち取られたと聞く。その、ソルジェ・ストラウス卿に」

「いい戦いだった。それならば、十分だ。オレは、恨みはしない。恨むべきは、他に出来たから」




―――アリーチェが気づくまで、もうしばらく猶予がある。

アーベルという、義理の兄弟の存在に対してね。

ボクは刺激したくないんだ、『トリックスター』の介入に関して恐怖感があるから。

彼は間違いなく、気を引くだろうからね……。




―――女神に肩入れされる人物が、『不安定』だと困ったものだよ。

失敗しかけの暗殺者のように、今のアーベルは不安そうだし行動が謎だった。

何をするために、メイウェイのもとに現れるだろうか。

バハルの名で語り合えるほどの仲ではないし、初対面だった……。




「私に、何のようだね」

「分からん。迷っている。依頼が、あった。いくつか。だが……ダメだった。バハルさまとセリーヌさまの遺された部隊は……瓦解した。東の帝国軍に、合流しようとしたけど。拒まれた……ライザ・ソナーズさまは、被害者なのに。まるで、レヴェータに好き好んで呪術を受けたみたいな扱いで……とにかく、オレたちは合流を拒まれたんだ」

「正規軍ではない。巨大な呪術の怪物が現れたあとでは、警戒も深まるだろう」

「西に向かうしか、なくなったが……そのとき、何人かが離脱した。それを皮切りに、裏切りと、負傷した者たちの死があった……西に向かう流れに乗っても、拒絶された。オレが、ハーフ・エルフだったからだ」




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