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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百九十七


―――貴族が指揮官に命じられるケースが多い理由に、向いているからというものがある。

子供のころから他人の生殺与奪の権利を、貴族は持っているからね。

慣れているわけだ、他人の人生を破滅させる命令をすることに。

それは悪いことではないよ、少なくとも機能的だから……。




「指揮官をやるヤツには、特殊な友情がいるものでね」

「特殊な友情、というのは?」

「戦友を愛している。君は、オレとメイウェイのあいだに冷たい何かを感じているかもしれないが、それは多少の誤解の結果だ。オレたちは、おそらく仲が良いよ。お互いのために死地に赴いてやれるほどにはね」

「それは、分かりやすい友情に思えるけれど」




「戦場という空間は、とてもおかしいものだ。仲のいい部下、見の上話を聞いて共感している部下にも、死ぬような行為を命じなければならない」

「それが、特殊な友情?」

「死に赴く彼らに対して、敬意を持っている。だが、同情はしていない。しないようにする。そうでなければ、成果が悪くなる。犬死にさせるということだ。無意味な死ほど、やり切れんものはないだろ」

「たしかに、そうね」




「でもね。オレたちぐらいの立場になれば、冷たい命令をしなくちゃならない。グラム・シェアも、腹心であり、彼自身が出世させた天才軍事家である貧乏少佐殿と、距離を保っていた。もしものときに、非常な命令をさせるために……下手すれば、自分を裏切らせるためにだ」

「う、裏切らせる?」

「グラム・シェアが敵に追い詰められたりしたとき、普段の貧乏少佐殿なら自分や部下を死なせてもグラム・シェアを救助したがるからだ」

「美談のようにも聞こえるけれど。それは、部下たちを死なせてしまうことでもある」




「その通りだ。戦士だとか、兵士という立場はね。ときどき、自分を見捨ててもらう必要もあるんだよ。グラム・シェアは、捕虜になって生き延びられる。でも、兵士は、そうじゃない。消耗品だから、それほど大切にされない」

「冷たさが、適切な行動をさせる」

「そうだ。それこそが、オレたちのあいだにあるべき、特殊な友情だよ。馴れ合いではなく、ただただ酷薄かつ合理的な選択を、選ぶために適した関係性だ。階級というものは、それぞれに属している者同士で集まり、上下のあいだでは距離があった方がいい。長年、傭兵をやってきたオレの経験則では、そうだよ。貴族は……その点、向いている。生まれからして、オレたちとは違うから」

「……勉強に、なるわ」




「だとすれば、良かったよ。ここの学生たちを、学者先生たちはもっと鍛えておくべきだ。戦友の死体に、過度な反応をしなくなるように」

「……そういうの、苦手かも。みんな、若いもの。私たちだって、教えてあげられない。何か、コツはある?」

「魔法の言葉を。『ちゃんと、帰って来るように』。これがあると、気持ち良く死にに行けるぞ。オレは、少なくともそうだ」

「……奥さんからの、言葉なのね」




「そうだよ。恩師からでも、かけてやっていい」

「それは、とっくにやっている」

「なら、十分だ。戻るための場所があるほど、しぶとく戦える。あきらめなくもなる。相手を殺してでも、生き抜けるようになるんだ」

「……興味深い、視点よね」




―――リサの理論が、また実践的な経験値を帯びていく。

『殺したがらない本能』を、抑止するためのアイデアをまた手に入れた。

それはすぐにフィードバックされて、より完成度の高い理論武装を作っていくよ。

より攻撃的で、たくさんの敵を殺せる学生たちの群れを作るために役立つ……。




「とにかく。メイウェイを、『西』に引きずり出してやればいい。あいつも、喜ぶさ。戦場でこそ、生きられる種類の男なんだから、けっきょくのところ」

「不器用そうな堅物ってこと?」

「そうだな。オレなんかよりは、ずっと、堅物だ。貧乏少佐にも似ている。だが、貧乏少佐からは嫉妬されていたな。グラム・シェアは、少佐に金や地位を優遇することはなかった。でも、メイウェイに対して、アインウルフ将軍はある意味では自分より高い地位を授けちまった。砂漠の土地とはいえ、太守だからな……」

「男性も、嫉妬するのね」




「女の嫉妬と、どっちが怖いかを比べてみても、そう負けるもんじゃないだろう。上官への不信感ってものは、本当に恐ろしいよ。戦場で、いきなり裏切られるかもしれない。そんな疑心暗鬼に囚われたら、ろくに命令だって聞けなくなる」

「アインウルフは、どうしてメイウェイに甘かったの?」

「優秀だからだよ。それに、似ているからだ。戦略的な芸風が……騎兵を育成させるために、教官役にもなる引退したベテラン兵士といっしょに、イルカルラに置いていたところもある。アインウルフ将軍が戦場で使い勝手のいい騎兵を、砂漠で作らせるためだ」

「貧乏少佐こと、マイク・クーガーとグラム・シェアのあいだには『芸風』不一致があったの?」




「第九師団の四傑は、それぞれに芸風が違っていた。貧乏少佐は兵站と、守りだ。軍を支え、生き残ることに長けていた。グラム・シェアは、攻撃的だったな。外様貴族とはいえ、オレたち下のものを残酷に消費するセンスがあった。彼の命令は、実に妥当で反論の余地はない。冷たいが、最良の選択をしてくれるってことさ」

「えらく、ほめるのね」

「客観的に見ても、それぐらいの実力はある。あった、だな」

「経済担当が、令嬢中佐殿」




「外交も担当だった。グラム・シェアよりも、はるかに帝国内に顔が利いた。彼女が第九師団に貢献してくれたおかげで、『プレイレス』を征服しやすかったのは確かだ。貧乏少佐の兵站ルートも、かなり助けられた……オレは、反乱分子やゲリラ狩り担当。少数の敵を駆除する、治安維持係」

「いいメンバーだったわけだ。負けちゃったけど」

「仲が悪かったからね。令嬢中佐がいなければ、きっと、もう少しストラウス卿を苦戦させただろう……」

「どういう感情で、言っているの?」




「戦士としては、無様な戦いをするのは嫌だね。仕事の出来ないダメな男になった気持ちで、心苦しいものがあるんだよ」

「貴方も、けっきょくは戦いが好きなところがある」

「そうだな。だからこそ、限界が見えると悔しくもなるんだ。オレやメイウェイは、王さまを目指せていない。メイウェイは、チャンスがあったのにな……政治的な振る舞いでしくじり、けっきょくは帝国の敵になった」

「おかげで、私たちは助かる」




「ああ。いい結末ではある。だが、悔しがってもいるんだ」

「特殊な友情の、一側面かしらね。メイウェイに、活躍の機会を与えたがっているようにも見えるんだけれど」

「さすがは、賢者だね」

「学者です。でも、当たったのなら、喜んでみる」




「『西』にいる帝国軍は、非エリートだ。太守にもなったメイウェイに嫉妬もするし、メイウェイが現れた時点で、心理的な揺さぶりにもなるぞ。アインウルフ将軍の伝説の前に、不安になる。メイウェイは、アインウルフ将軍と似た『芸風』を持っている。敵に回せば、死ぬことになると、連中は怯えるんだよ」





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