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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百九十四


―――とても苦しくて、とても悲しくもあったから。

無神論者のはずのリサ・ステイシーでさえ、今は神さまに頼りたくなる。

とても危険な偶然だったよ、運命なんて言いたくはないほどに。

となりにいる『トリックスター』に、願い事の言葉は聞かれてしまう……。




「生き残るために、殺せますように。あの子たちが、ひとりでも多く。戻ってきてくれますように」




『うん。見守ってあげるから、安心していいよ』




―――その言葉が聞こえたわけではなくて、ただ海からの風が鼻をくすぐったから。

リサ・ステイシーはじんわりとあふれた涙を、ほほから伝わせる。

人肌に近しいほどのあたたかな潮風は、安心感をくれるときもあった。

大きな投石器についてもね、カモメたちが歌ってくれたらなおさら良かったかも……。




―――リサには、たくさん気にすべき方角があったものの。

遠くに年配の学者が歩いている姿が目に入ったのか、『西』に視線を向けてしまう。

彼女の祖母がいたわけではないけれど、祖母からの命令を思い出させたらしい。

『西』についての情報を、まとめておきたいと考えてのさ……。




「サー・ストラウスからの、依頼だもの。彼は、直接、受け取りに来るのかしら……」




『『オルテガ』から『西』に行くなら、ここを通るかもしれないね!そっか、そうか。ここにいると、ソルジェとゼファーが飛んでくるのが見えるかも!!』




「まとめておかなくちゃね。『殺したがらない本能』について、考察したい部分は山ほどあるけれど。『西』……『トゥ・リオーネ』……と、ゲリラどもだった」




『ゲリラがいるの?昔ね、みんなでね、滅ぼしたコトがあるんだよ!!』




―――騎士の家系らしいかも、ストラウス家もゲリラや山賊を血祭にするのが好きだった。

ファリス王国の騎士たちや、傭兵部隊も似たようなビジネスをするらしい。

アリーチェの言葉は聞こえないから、リサは歩き始める。

ついて行かなくてもいいのに、アリーチェはその後ろをニコニコしながら追いかけた……。




「ゲリラね。ゲリラ。うん。それなら、あのお方がちょうどいいかもしれない。どうして、思いつかなかったのかしら……ああ、うん。何だかなれなれしいひげ面の人間族の中年男が、嫌いだからね」




『誰かな?』




―――ツイスト大学の構内を歩き、学生用の酒場へとたどり着いた。

リサも学生時代から使っている酒場で、それは男女用の寄宿舎のあいだにある。

ロマンスと決闘が生まれる場所であり、ツイスト大学卒業生の物書きたちは。

この酒場から処女作の着想を得ることも多く、実に俗物的で良い空間だったよ……。




「はあ。ほんと。最高……昼間っからのビールってのは、いいよなあ。これほど、罪がねえものはない。ああ、美味い、美味い」




『海賊がいる。ならず者だ。もしくは、ゲリラ!』




―――アリーチェがそんな評価をしてしまうのも、しょうがないかもしれない。

傭兵という肩書きに生きるような男は、あまり洗練された美しさを持たないものだ。

レイ・ロッドマン、帝国軍第九師団に雇われ大尉として参加していた猛者。

経験豊富のベテラン傭兵であり、ケットシーのクーナを妻に持つ男……。




「大尉さん。あまり太陽が沈まないうちからお酒なんて飲まないでくださいよ」

「いいじゃないか。オレは、あれだよ。非番ってもんでねえ。いやあ。うん。いいねえ。ケットシーの美人を見ると、酒がすすむわ」

「はあ、奥さんに似ているとかいう口説き文句はナシですよ」

「嫁さん一筋。ソルジェ・ストラウス総大将閣下と同じでね」




「あれは、特殊な文化の方々ですから」

「まあ、冗談だよ。クーナしか愛していないのは事実だ。君を口説こうってわけじゃないよ、こんなおじさんがね」

「はあ。大尉殿なのに、こんなだらしなくていいのかしら」

「ヒマだからだよ。帝国軍の海上戦力の残党の駆逐……いそがしかったけど、船、壊れちまってね。修理のためにツイストの港に寄ったら、ちょっと冷たい対応。元・帝国軍だからかな。大学半島に手を出したのは、オレたちじゃねえのに。ライザ・ソナーズ公爵令嬢が悪い。中佐殿がね。死んだから、階級上がったかな。国葬になるかも」




『おしゃべりな、おじさん』




「ああ。うんざり顔するなよ。アウェイ感ってのは、あるんだよ。差別されがちなんだ。オレたち、そんなに活躍していないように思えるかい?がんばってるけど、船が壊れちゃ、しょうがねえ。そもそも。オレって、海上が得意なんじゃないんっだぜ」

「海賊と、ゲリラ担当」

「そう。反乱分子こと、今じゃ英雄となった者たちを、追い回していてね。それが、港周りのおじさんたちに嫌われている理由かな。だから、ちょっと、大学寄りの酒場にいるんだよ」

「助かりますね。聞きたいことがあったので」




「妻との出会いについては、熱く語ったばかりだ。昨夜というか、今朝もね。勢いで人種間結婚をしていく者たち、万歳だ。オレは、恋の請負人ってところだぜ。うちの子みたいな、かわいい『垂れ耳』の『狭間』がどんどこ生まれる!」

「戦いについて、真剣な話題なんです。サー・ストラウスからの依頼よ」

「おお。それは、それは。ちょっと、マジメにならなくちゃな」

「それと、学生たちの結婚を急かせないように。当人たちの問題です」




「若者の背を押してやる。それも、おじさんたちの仕事なんじゃないかって。最近は、思えるようになったんだ。成長だね」

「はい。仕事モード」

「おうよ。んで。傭兵崩れ、元・帝国軍、第九師団の四傑のひとりにして、そいつらの最後の生き残り、このレイ・ロッドマンおじさんは、どうすればいいんだね?リサちゃん」

「『西』のならず者たちについての情報を、サー・ストラウスは求めています」




「ほう。『西』か……ああ。あれか。西から帝国軍が戻ってきて、せっかく取り戻した『オルテガ』を挟撃されないようにと」

「もう知っていたんですね、さすがです」

「おじさん、第九師団の四傑のひとりだったんだよ。ハブられ気味だったけど」

「つまり、情報網は健在」




「グラム・シェアが生きていた時代に比べちゃ、崩壊しているけどね」

「『西』にくわしい方を、知っている?」

「オレが、そこそこ詳しいよ。令嬢中佐殿に、左遷させられるとすれば、そっちの方だと考えていたからね。一応は、下調べもしていた」

「左遷される先を、下調べ……ですか」




「酒飲みながらもね、情報収集とかしていたのさ。階級が高い連中は、こういうの嫌いで。第九師団じゃ、受けの悪い立場だった……文化の違いって、大きいよ」

「感心しましたよ。見かける度に、酔っぱらっていなければ三倍は尊敬します」

「そうか。それなら、酒を控えるのもいいかなあ……でも、海のせいでね」

「海上では、ラム酒漬け」




「そうだ。それが、良くなかった。酒の量が増えて……脱線させるなよ。勘繰りたくなる」

「何を、でしょうか?」

「知りたくないのかなって、あるいは知るのが怖いのかなと」

「……私は、戦争が好きではないだけです。でも、乱世ならば、状況に応じなければ。学生たちでさえ、戦うのですから」




「まあ、無理ないように」

「いいえ。無理します。時代の、義務でしょうから」

「マジメだね。さて……地図、地図……マスター!壁にはってる地図、もらっていいか!」

「地図なら、私の用意したものを」




「おお。用意がいい。さてと……書き込むよ。『西』の連中ってのは、ちょっとキナ臭くてね」


「帝国軍側のことですか?それとも、反帝国側の?」

「どっちも。胡散臭い土地ってことだ。オレみたいなのを追放するには、令嬢中佐殿にはちょうどよく思えたのかも」

「スキャンダルを使いこなすのも、ロビイストの手腕だと?」

「そうだよ。ほんと、性悪だった。美人だったし、古い騎士道も理解していたが……それだけに政敵にはしつこい。クーナを守るために、オレ、離婚を偽装していたんだぞ。毒蛇の八十倍ぐらいは、厄介な女だ。死んでくれて、良かった!おそらく……『西』の連中も、そう喜んでいる」




「『ライザ・ソナーズがしていた商い』の、後釜を狙っていると?」

「奴隷制度は、しつこいからね。困ったことに、金にはなる」




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