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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百九十三


―――血を吐くような、不快感を伴う発明の時間だったけれど。

リサ・ステイシーのおかげで、学生たちは死傷者を最小限にするだろう。

彼女の考え方は、たしかに正しかったのだから。

『殺したがらない本能』を、心理操作で弱体化すれば効率的な軍隊にはなる……。




―――リサは望ましい『未来』への道に、大きな貢献をした。

学生たちの戦闘訓練は、半日のうちに刷新される。

ただの武術訓練と古くさい伝統は削ぎ落とされ、効率的な心理学が始まったのさ。

軍に参加しなかった学生たちからは、リサの想像以上に怖がられる始末だ……。




「みんな、何か……変わったわ」

「帝国軍に対して、こんなに……殺意を……持っていたかな」

「……戦うのは、怖いことだ。みんな、おかしくなっていく」

「勉強だけに、集中したかったのに……」




―――リサは考える、新しいトレーニングを受けた学生たちの暴走だ。

従軍しなかった学生たちに、今までもわずかながら嫌悪感を抱く者たちもいた。

それが強化されてしまうと、内紛になってしまうかもしれない。

帝国人を口汚く罵るようになった彼らは、平和主義者も『裏切り者』と叫ぶかも……。




―――その懸念は、ありがたいことに否定された。

友愛や理性の勝利ではなくて、たんなる貢献度合いである。

従軍しなかった学生たちも、『兵器』を作ってくれるのだから。

錬金術学部の実験棟の煙突からは、どす黒い煙が青空へとのぼっていく……。




「そうだ。大丈夫よね」




―――戦場に行かなかったとしても、戦争には貢献する。

従軍しなかった学生たちの、一般的な共通点として知性の高さがあった。

賢者の卵たちであり、彼らは一般学生たちからは尊敬を受けてもいる。

何よりも、『兵器』の開発に適した知性の持ち主たちだから……。




―――轟音を上げながら、実験棟の煙突から真紅の炎が空へと走った。

歓声が生まれ、学生のひとりが屋根から周囲に告げる。

『新型の爆薬』が完成したと、恐ろしい爆発力を持った『爆弾』の誕生だ。

リサは想像力の戦場のなかで、その新兵器が炸裂する光景を妄想する……。




―――従来のそれよりも、殺傷力を帯びた半径は二倍となるものだ。

帝国軍はそれを知らない、強烈な爆発力に帝国兵どもは吹き飛ばされる。

リサの妄想のなかでは、爆破される者の死体はキレイなままだった。

現実のそれを見れば、彼女は壮絶な残酷さに嘔吐するかもしれない……。




―――安全な場所にいるからこそ、残酷な力も創り上げられるものだよ。

これはリサが気づいた発明ではなくて、ただの人類の本能のひとつ。

『殺したがらない本能』に、リサたちは気づいてしまっているけれど。

これは正確には、『戦場で相手を殺したがらない本能』だ……。




―――ボクやソルジェやガンダラが、リサに助言するとすれば。

『戦闘に怯える者でも、敵が背を向けて逃げ出したとき殺し屋になる』だ。

戦闘中は、あまり死なないものでね。

勝敗が決してから、敵が背を向けてから死傷者が爆発的に現れるものだ……。




―――逃げ出す敵を殺すのは、かなり安全なことだからね。

安全な場所にいると、殺すことに躊躇しなくなる。

『殺したがらない本能』があるからといって、それは相手を恐れているからだ。

相手を恐れなくなったとき、ヒトはだいたいの場合で残酷さを許容する……。




―――戦闘で数万人が死ぬことはないけれど、戦闘のあとでの虐殺は数万人以上死ぬ。

ガルーナ人の大半が死んだのは、ガルーナ王国軍が壊滅してからだよ。

無抵抗な者に対して、おぞましいまでの残酷さが及んだ結果だ。

正しいとは言わないが、ありふれている一般的な現象には違いない……。




―――リサはとても賢くて、歴史の知識もしっかりと把握していたけれど。

実戦経験があるというわけではない、彼女が知るべきメソッドもまだあった。

ガルフが生きてその場にいれば、彼女をほめながらも教えてくれただろう。

リサの発明を、より補完するためのアイデアをね……。




―――それは、これからしばらくあとでツイスト大学を訪れるソルジェから。

教わることになる、攻撃性に憑りつかれているリサには目からウロコの助言だ。

まあ、その助言があろうとなかろうと。

彼女の発明は学生たちを、かなり良い兵士に育てあげるだろう……。




「『竜の火』と名付けるぞ!!ストラウス卿の竜、黒竜ゼファーにちなんでな!!この爆弾で、帝国軍を消し炭にしてやれ!!」




―――学生たちは拍手喝采だ、従軍しなかった学生たちも喜んでいる。

『兵器』や道具というものは、安心を与えるものだった。

新しくて有用そうなそれらはとくに、そういった傾向が強い。

戦術研究家じみてきたリサは、目の前の光景を評価しつつメモに記述していく……。




「安心しているのね。そうか。『兵器』の効能も、あるんだわ」




―――まだ敵の一人だって、殺していないものでさえも。

『兵器』は安心を与えてくれると、リサは理解する。

ソルジェが持ち込んだ高性能な『カタパルト』も、まだ海岸近くに立っていた。

解体して他の戦場に運ばない理由は、あれがきっと安心を作っているからだ……。




―――リサは賢さでそれを分析しつつも、打ちひしがれてもいる。

自分が暴力的な兵器に安心させられていることに、拒絶反応も出たからだ。

基本的に平和主義者な彼女にとって、暴力がくれる安心に依存することは怖いことだ。

それはそれで、健全で平和的な趣向だからボクは嫌いにはならない……。




―――平和的な人々も、ちゃんと世の中には必要だからね。

争いは最小限であるべきだ、起きたときは全力でやるべきだけど。

リサはしばらくして学生たちが成し遂げる戦果から、多くを学ぶだろう。

自身の罪や勝利がくれた価値、対話することの大切さもね……。




―――彼女は、まるで女神のように。

多くの若者たちを死から救って、満足するだろう。

それと同時に、完璧な対策なんて戦争にはないとも理解させられるよ。

最小限の死者だ、それでも多くの若者たちは帰れなかったから……。




―――歴史のうねりの前に、個人は弱いものだ。

でも、無力ではない。

リサはアタマのなかで、ぐるぐると回る不安を押し殺し。

罪深くも大切な教え子たちを救うための方法を、考えつづけた……。




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