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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百八十七


―――フクロウの脚につけられた暗号は、秘密のうちに大陸の空を駆け抜ける。

夕方になる前に、ツイスト大学のフラビア・ステイシーは手紙を受け取っていた。

彼女は懐かしい名前に触れるのだ、アダルベルト・ジー。

いい男であって、好奇心と知性にあふれた金持ちの道楽者ではあったけれど……。




―――異国の文化に対して、寛容な精神の持ち主である者はかなり少ないものだった。

アダルベルトは、その希少な性格と莫大な資産を持ち合わせている男。

ロマンスこそ生まれることはなかったが、何とも熱心な教え子のひとりであった。

研究に命を捧げすぎる者が時おり市民のなかにもいて、彼はその一員である……。




―――孫娘に命じて、『トゥ・リオーネ』についての資料の封印を解いた。

リサ・ステイシーは多忙であった、すべての大学の学生たちや各都市の重要人物。

そういった者たちのあいだに立つ、才ある連絡係となっていたからだ。

そんな人生を望んだわけではないはずで、もっと素朴な研究をしたいはずなのに……。




―――本人が望まなくても、偉大な天賦を与えられてしまうことはあった。

偉大な祖母に命じられるせいで、古代の人々がどんな理想を求めて。

土器に青い色をつけることに必死となったのかという、極めて重要な課題は無視された。

その研究は、リサ・ステイシーの一生を費やすほどに重要だったはずなのに……。




―――ときどき、世の中というものは残酷な裁定を下すものだった。

リサ・ステイシーの最大の好奇心を発揮する、『プレイレス・ブルー』の謎は。

しばらくのあいだ誰も研究する者がいない分野となり、資料はホコリをかぶる。

教え子たちもリサに同調できないのが、リサには理解ができなかった……。




―――大きな意味があるはずなのに、歴史を変えることはなかったとしても。

戦争の役には一ミリも立たないし、おそらく金にもならない。

それでも、千年以上の書き継がれてきた美術年表の一か所を書き換えるはずだった。

研究者なら、十分な幸せだろうに……。




―――リサの周りにいる連中は、どいつもこいつも戦闘狂に見えて。

学術機関の悪癖だと、彼女は歴史と照らし合わせながら結論した。

学者たちの頭脳が戦争だとかいう、実利的なものに結びつけば不幸な現象が起きる。

どいつもこいつも戦争を研究し、より残酷な手段を発明しようとするのだ……。




―――ソルジェ・ストラウスのせいで、学生たちもガルーナ人になったらしい。

机の上で戦争を再現するための駒遊びが、終わることなく行われ。

肉をたらふく食べて、武術の訓練に明け暮れる連中が学内にあふれている。

一週間ずつ、その傾向は露骨なものへとなっていた……。




―――今の『大学半島』は、戦争研究者で飽和状態となっている。

リサ・ステイシーも帝国は嫌いであるし、亜人種解放には興味があった。

奴隷制だって廃止して欲しいと考えている、正義を保障するのは結局軍事力だとも。

亜人種の彼女が、『大学半島』以外の『プレイレス』の土地に行くのは怖い……。




―――それはどうにも正しくないものだ、どうして聖域にしか自由がないのだ?

彼女も立派な、戦争大好き研究者になれる素養はあったものの。

こうも周囲が筋肉と鋼と、暴力と血のにおいをさせ始めると辛くもなった。

世の中は変わろうとしている、おそらくは正しいと信じられる方向に……。




―――人種間を超越した学生結婚が、右を向いても左を向いても行われる。

本人たちに迷いはないかもしれないけれど、たぶん彼らの親族は驚くだろう。

どうにもこうにも、早過ぎるではないか。

『何』がここまで、変えてしまっているのか……。




―――学問に人生を捧げた者らしく、彼女はいくつかの仮定を用意している。

ソルジェ・ストラウスが、その要素の筆頭であるだろう。

亜人種の妻をふたりも持っていて、もうひとりの妻は人間族。

まだひとりいたらしいが、関係者からは『ホムンクルス』だと言われた……。




―――偏見を持ちたくはないけれど、そんな性的に乱れた北方野蛮人が。

竜に乗って、各地で帝国兵どもを焼き殺したり斬り殺したりしている。

血と破壊で、世界を変えるのだと。

若者たちは実に、この混沌の申し子みたいな男に感化されていた……。




―――分からなはない、大学半島にいる若者たちは当事者となったから。

戦争で世界を変える、自分たちの欲しい未来を力で勝ち取ると。

正しいものではあるが、ツイスト大学のつつましい学問への態度とはかなり違う。

馬術部はもはや軍隊となり、錬金術学部では爆薬の研究が始まっていた……。




―――異常なまでの、早さと影響力だと思う。

これが乱世に染まるということか、大学半島は聖域から『現実』に染まってしまった。

嬉しくはない、フクザツな変化ではある。

しょうがないことだが、どこか引っかかりも感じていた……。




―――学問する乙女は、もうひとつの仮説に集中する。

眉間のしわよりも深い思考力を使った、知的な探索だ。

歴史には、いくたびもの『良からぬ介入』があったことが証明さている。

歴史という学問が、かなり信ぴょう性に欠くところが多かったとしても……。




―――『ゼルアガ/侵略神』の影響は、世界に多く残っている。

あり得ない自然環境だとか、ガルーナで言えば『歌喰い』だ。

悪神により改ざんされた人々の記憶もあれば、四大属性のひとつも歪まされている。

『ゼルアガ』はその侵略神という名の通り、人類を外部から侵略してきたのだ……。




―――そいつらが介入すれば、世界は『異常な早さ』で変わってしまう。

リサ・ステイシーは、目の前で変わっていく愛すべき母校を観察しながら。

誰よりも早く、『ゼルアガ』がこの現状に関わっているのではと疑った人物だった。

この革命への熱狂は、悪神にそそのかされた結果も一部含まれていないかと……。




―――口にしてはいない、そんな言葉はこの大学で口にすれば?

迫害をされてしまいそうな勢いが、確実にあったからだ。

学生たちは戦争と決着を望んでいる、帝国に破滅をもたらすと息巻いている。

そんな感情に、悪神のせいだと言えばどんな目に遭うのか……。




―――美術史オタクは、ときどき意地悪をされることもあった。

『ウザイ』と言われるのだ、自覚がないわけではない。

意地悪された経験から、この世相にケンカ売るような考えは封じるべきだと判断した。

少なくとも、自分の心のなかだけでは考え続けるべきだけれど……。




―――リサ・ステイシーも、感動した瞬間がある。

赤い竜に乗った、ハーフ・エルフの女の子を幻視したときだ。

彼女は人々をつないだ、つなぎすぎるほどに。

敵を滅ぼすためにだが、彼女のもとには帝国軍の高官さえも集まっていた……。




―――味方の全員と、よくよく考えれば帝国軍の幹部だ。

そもそも、あの女の子も帝国貴族の娘ではあるらしい。

『狭間』のなかでも、いちばん嫌われがちのハーフ・エルフだと。

帝国貴族もどうなっているのか、何が何やら分からない……。




―――あの子の、石像が作られているという。

マエス・ダーンという、不世出の芸術家の手によって。

一種の宗教が、この『プレイレス』を中心に生まれようとしていた。

嫌なことではない、でも何だか得体が知れない力がある……。




―――まるで、『無理やり世界をねじ曲げるような力』。

それをリサ・ステイシーは感じていて、おそらく間違いでもなかったよ。

ボクたちは、『トリックスター』と関わってしまっているのだから。

強制的にその自認を、『ゼルアガ』らしい力で忘れさせられながらもね……。




「どうあれ……この異常な状況でも、か、勝つべきですよねえ……っ。勝たなくちゃ、世界は変わらないどころか……て、帝国軍に完膚なきまで、破壊されてしまうかもしれない。私たちは、もう聖域から出てしまったから」




『だいじょうぶだよ。お姉さん。ソルジェがいるから』




―――神出鬼没の『トリックスター』に、ステイシー女子は気づけなかった。

すぐとなりにいて、ソルジェの注文が実行されていく様子を見ていたのに。

怖いハナシではあるよ、得体が知れないから。

ボクが最も怖い神さまは、ソルジェにべったりとくっついていた……。





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