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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百八十六


 戸惑いがあったのも事実だろう。ストラウスさん家の価値観に比べれると、世間一般は繊細らしいから。でも、多少の形は特殊であったとしても。これは『家族』の再会に他ならない。


 死というものは。


 かなり絶対なものでね。


 冷たくなった『家族』を見たとき……あるいは、焼かれて赤く燃える骨となった妹を見たとき。どんな気持ちになると思うだろうか。


 死からは、逃れられんのが厄介でね。いつか必ず、誰もが死ぬのは決まっている。


 知っているはずだ。


 思い知らされながら、日々を生きているだろうから。


 とくに、こんな乱世の時代においては、遠ざけておきたいはずの死が、いつもそこらに転がっている。


 戦場での死は、戦士にとっては名誉だ。だが、商人たちにはそうじゃない。戦場で死ぬべき者たちでは、基本的にないのだ。彼らの居場所は、戦争が終わったあとにこそあって、オレたち戦士が暴力で破壊し尽くしてしまった場所を、修復するために機能すべきだ。


 オレは、かなりのアホだけどね。


 分かっているよ。


 破壊だけでは、世界は救えないと。甘いケーキも、賢い商売人たちも要るのだ。


 ときどきでもいいから、神々がくれたのかもしれないと信じられるほどの、奇跡もね。


 よくやったぞ、メダルド・ジー。


 お前は世にも珍しく、絶対的な死という概念を乗り越えた。ずっとお前のままでいられるのか、このひとときなのかは知らない。でも、得難い奇跡をお前は実行している。お前は、すごいやつさ。


「お、おじさま……っ」


 ああ、ミアが微笑んでいる。アイスケーキの甘さよりも、ずっと嬉しいからだ。お兄ちゃんも、その微笑みに幸せを感じられる。ずっと昔の記憶まで、セシルの笑顔も思い出せるほどに。死のせいで、もう二度と抱きしめられはしないが、記憶だけは死にも勝てる。


 ビビアナがメダルドに戸惑いながらも近づいていった。すべての混乱は収まってはいないだろうが、それでも彼女自身が口にした通り、大切なものは些細な他のことに勝る。メダルドは別人の体ではあるものの……ビビアナよりもわずかに背が小さくなっているが……それでも、叔父らしく抱きしめてやった。


 ああ。


 叔父というよりは、父親そのものだろう。力を込めた腕は、大切な娘を取り戻せた喜びにあふれていたから。


 抱きしめて、すすり泣くビビアナのそばにいてやるのだ。耳元で小さなささやきを使う。どんな言葉だったのかまでは、オレには聞こえない。聞こえなくてもいい。答えは分かる。喜ばしい何かだよ。涙は、喜びによっても生まれるものだから。


 ……女神イースに、感謝すべきだな。やさしい女神だったよ。竜騎士を目の前にして、戦いよりも価値ある道を選んだ。オレに背を向けられる者など、いないのに。さすがは、女神だ。


 そして、『人買い』を許せた、『人買い』に悲惨な目に遭わされた者にも感謝を。レナス・アップルよ。大したものだ。お前の選択を、お前は誇らしく思うべきだぞ。お前は自分の願いの一部を叶えてもいる勝者なのだから。


 空にはりついた、もうひとつのあの世界の何処かで。


 お前たちは見届けているのだろう。


 女神のもとで。


 ……ああ、死んじまった『家族』には会えただろう。お前は、きっと、父親にも母親にも褒めてもらえる。


 奇跡を成し遂げた者を、オレは多く知らない。


 無数の英雄たちと、竜太刀で斬り合ってきた、この竜騎士であり猟兵団長であるソルジェ・ストラウスがだぞ。


 英雄や神さまよりも、偉大な選択だった。


「うむうむ。良かった……良かったなあ、ビビ」


「うん。ビビ、良かったね」


「ふむ。つまり……これは、親子の再会だったわけですか!!それは、めでたい!!」


 実に素晴らしい言葉だったな。色々と複雑な状況ではありもするが、乙女たちの言葉にすべては集約されるだろう。


 世の中は、死にあふれているからだ。オレもミアも、親は死んでいる。ジャンとフリジアは捨て子だ。親が生きているかも分からない。外を見れば、戦死者の山。明日も明後日もオレは敵を殺すことになる。その次の日もね。


 ありふれて、しかも絶対的な死と、となり合わせの日々のなか。


 やさしい連中が、どうにかひとつの死に抗ったんだぜ。


 大陸のすべてを覆い尽くして、支配しているような乱世の化身みたいなものに……勝ちやがった。怒りや復讐よりも、おそらく偉大な選択をすることによって。


 こいつは、めでたい奇跡だよ。


 ―――ねえ、ねえ。『どーじぇ』。


 ああ、そうだな。ゼファーよ。


 嬉しいときは、歌うべきだ!!




―――竜の歌が、死にあふれた地上から。


空を揺さぶるように、放たれた。


夏の青空は、よく晴れている。


力と命にあふれた、祝福の雄叫びが響き渡った……。




―――復讐よりも尊い力を、魔王は理解する。


誰もがさほど気にしないのが、みなしごだ。


戦争の副産物かのように、そこらにあふれている。


そんなか弱く儚い者たちために、自らを殺せる敵に背を向けた女神を見た……。




―――慈悲が弱さなのだとは、もう思えないだろう。


大魔王の使命があるとすれば、多くを背負うことだから。


女神は託してもいるんだよ、何か大きな価値を見せつけることで。


不幸にすべきでない、弱くはかない者もいるのだ……。




―――憎悪と怒りに、勝った者もいた。


レナス・アップルも、大きな影響を復讐の化身に与えるだろう。


何かを許せるのも、大きな力を獲得させるのだ。


怒りの純度とは別に、とても本能的で根源的な力もあると……。




―――大昔、とある賢者は言葉を残した。


『歴史は、戦争の神と愛の神の婚姻で作られる』。


罪科の獣の奇跡が伝わる、この複雑怪奇な迷宮都市のなか。


大魔王となる男は、窓の外に響く歌声を見ていた……。






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