第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その四百八十四
スイーツに夢中になる乙女たちに混ざって、屈強なガルーナ人も……そして、どうにも静かすぎて影の薄かったジャンも伝統の味を楽しんだわけだよ。
「お、美味しいですね……が、ガンダラさんや、レイチェルさんにも分けてあげたい」
「大丈夫ですとも!!すでに、猟兵さまと、お取引先さまの偉い方々には、このケーキの差し入れを手配しておりますので!!」
「抜かりないな」
「はい!!ほめていただくために、社員一同、がんばっております!!」
「す、すごい……こういう心配りって、ど、どうすれば身につくのかな……」
「忠誠心は時に盲目」
「え、ええ!!?」
「視野を広げるためにも、その言葉を胸に留め置くことですよ!!」
「で、でも……忠誠心は、大切だけど……」
「もちろん!!鋼の忠誠心を保ちつつも、周囲にも感覚を研ぎ澄ますのです!!」
「……しゅ、集中と……感覚を、ひ、広げる……って、矛盾があるような……」
「そう!!矛盾があると、あらかじめ分かっていれば、矛盾も使いこなせるのですよ!!」
「わ、分からないかも……うーん。ちょ、ちょっと、宿題にさせて……っ」
「ええ!!どうぞ!!」
ジャンはパロムのような元気な乙女には、圧倒されてしまうな。誰にでも弱点はある。オレも姉貴は苦手だし、女性には甘くなる。騎士道としては正しいかもな。可能な限り、女殺しはしたくない。
女神イースとか、圧倒的に強いバケモノは別だがな。強さじゃ負けていた。技巧で競り勝てたがね。ああ、いい戦いだった。あれほどの強者は珍しい。というか。純度がね。
理想の化身程度には、『カール・メアー』武術の神髄らしかった。
思い出すだけで、笑顔になれるほどにな。
「フフフ!!社長も、ご満悦フェイス!!社員もニッコリですとも!!」
「もぐもぐ。美味しいもんね……っ!!」
「そうであるなー。ビビにも、食べさせてやりたい」
「ビビ、呼んできたい!!」
「……おい。もう少し、待てと言っているだろう」
「おっちゃん、繊細過ぎる。ガラス細工みたいだよ」
「……デリケートなんだよ。デリケートな問題ではあるだろう。オレが、女のすがたになっているんだぞ?中年男が、こんな乙女になったら……驚くさ」
「そうかな。生きているんだから、別にいいと思うの」
「オレもだな」
「……ストラウス的な価値観というものが、あまりに強いぞ」
「まあ、ストラウス兄妹だからな」
「だもんねー。もぐもぐ……ねえ、ビビのためにも、取っておける?」
ミアが可愛いアタマを、ゆっくりと傾げた。ああ、お兄ちゃんに効く。どんなことでも叶えてやりたくなる。魔法だな。
「もちろんですとも!!たくさん用意しておりますし、追加での作成も可能!!前線に出かけられなかった者たちは、何かしら貢献しようと努力するっ!!それが、ディアロスの精神なのですから!!」
「み、見習わないと……っ」
「ミアさんがビビアナ・ジー殿をお呼びしたいのならば、すぐにでもお呼びいたしますが?」
「……ミア」
「おっちゃんが文句言うから、やめといてあげる」
「そうですか。彼女はもうすぐこの事務所に来られる予定なのですが」
「……はあっ!?」
「おっちゃん、落ちつきなさい」
「……いや。その……っ」
「覚悟は決めたのだろう?ならば、いいじゃないか」
「……お、オレは……あの子の叔父なんだ。叔父なんだぞ……っ。どんな目で、見られるか……ちくしょうっ!」
「ハハハハ!」
「……笑うなっ!!こんな状況に立たされた男の心理状態は、お前らに分からん!!オレを笑うなら、いつか、お前も同じ目に遭うかもしれんぞ!!」
「オレが女に?」
「お兄ちゃんが、お姉ちゃんに!!考えると、やっぱり、面白そう!!」
「ど、どうだろうか。普通に、気持ち悪い。筋骨隆々の山猿のような赤毛女だぞ……?」
フリジアはオレの見た目にどんな印象を持っていやがるのか、よく分かっちまったな。
「可愛いと思う!」
ありがとう。
妹の言葉があれば、どんな暴言にも耐えられる。普通に気持ち悪い、筋骨隆々の赤毛の山猿だと?……バカを言え。四人も妻を娶ったオレが、山猿レベルなはずがない。美男子とは言わんが、中の上……いや、上の下はあるはずだ。
「……だが。しかし」
「おっちゃん、チャンスだよ」
「そうだぞ、メダルド。これも運命だぞ、おそらく。見ろよ。こんなに美味しいケーキもあるんだ。ビビアナを誘ってみたらどうだ?」
「……菓子はともかく、逃げてばかりでは問題が解決しない」
「事情は分かりませんが、その通りですとも!!逃げるよりは、突撃あるのみ!!それが、ディアロス!!」
「お、男らしい……っ」
「それでいて、繊細な視野も持つこと!!」
「む、難しい……っ」
「……はあ。若者たちを、待たせるのも悪いか……一応、手紙も完成だ。ちょっと、親族の再会をしてみようか」
「では!!すみやかに、ビビアナさんをお招きいたしまーす!!」
「……むっ」
正面突破を良しとする極北の勇士らしく、彼女の動きは俊敏だ。ミアもついて行こうとしたが、アイスケーキの魔力に屈した。もぐもぐしながら、美味しそうな顔をしている。焦ることはない。すぐに、ビビアナはここに現れる。
眉間にしわを寄せているのは、女メダルドだけだった。
「アドバイスをしてやろう。喜ぶべき瞬間に、そういう面は不向きだぞ」
「……そう、だな。オレは……あの子のそばに、帰れたのだから」
「喜ぶべきときだな」
「で、ですよね。メダルドさん……た、多少、ヘンテコな神さまの、に、においが混じってはいますが……あなたは、無事に戻れたんです」
「……懸念はあるな。完璧ではないが……だが……」
足音が聞こえた。
猪突猛進な娘の足音と、それに引きずられるもう一つの音がね。
ああ、やはり。
幸せな瞬間なのだよ。メダルドの顔を見れば、誰にでも理解できる。とても簡単な事実であった。




