第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その四百八十二
「サー・ストラウス!!残党討伐についての情報を、お持ちいたしました!!」
元気な若い声に、思索は中断した。
「パロムか」
「お疲れ様」
少女たちには交流があるらしい。世の中は、意外とせまいのかもしれないな。
「帝国軍の残党のいくつかを、撃破。捕縛もしております!捕虜にすることも目指して、情報収集に努めています!!」
報告書を見せてくれた。文章をそれほど使ってくれていないから、かえって助かる。地図に描かれているからね、状況を把握しやすい。ディアロスらしい合理的な文化だったよ。狩猟用の計画地図みたいだ。北方の鳥文字も使われている……。
「ヘンテコな文字だな」
「暗号なんですよ。北方のあちこちで、こういう記号が使われている」
「ガルーナでもな。ストラウス家は、地図の記号に好む」
「ふーむ。あちこちで、物事の考え方は異なるようだ」
「便利なんですよ。フクロウの記号があれば、そこは戦士のキャンプ地だとか」
「賢い猛禽類だから、というコトなの……か?」
「そうです。やるじゃないですか、フリジア・ノーベル」
「ま、まあな!常に勉強あるのみだ」
「ネズミの文字は、捕虜です」
「なるほど。ネズミは、獲物か……」
「数字も使いますよ。1が最も価値があり、9はその逆」
「ふむふむ。地図に書き込む文字が少なくて済みそうである」
「ディアロスの知識は優れているのですよ!」
「分かったから、叫ぶな、パロムよ」
「北方の戦士は、大きな声でいろと教わるものですので。これは、マジメさゆえなのです」
礼法にも様々あるのは確かだった。僧侶あたりは小さな声を好むときも多いらしい。おしゃべりな僧侶は、どこか胡散臭く感じるから……あるいは、内省に励む僧侶たちには世の中の喧騒が好ましくないからかもしれない。
その割りには、フリジアはやかましいタイプではあるがね。
「ん。ソルジェ・ストラウスよ。何か面白い情報でもあったのか?顔が、笑っているような気がするが……?」
「興味深い情報があっただけだぜ」
思いのほか帝国軍は疲弊していたらしい。血の気の荒い残党は、遠からず起きる『オルテガ』への攻撃に準備しようと、橋頭保の確保を目指した。つまり、小さな村を掌握しようと試みていたわけだ。
村人を襲う。暴力で黙らせようともする。亜人種がいれば、殺そうともしただろう。ありふれた帝国軍人の行動ではあるよ。だが、それらの企みを『ストラウス商会』が打ち崩してくれている。
帝国兵どもは、疲れていたらしい。連日の戦闘と、敗北の屈辱は心身をボロボロに疲弊させるものだ。敗北した戦場から、身を引きずりながら後退する。記憶にあるよ。鮮明に。生きた心地はしないものさ。
楽な狩りだったとの報告もある。誇り高い北方の戦士たちは、苦戦したとしても楽勝だと言い張りもするから、この報告の読み取り方には注意もいるだろうな。
ただ、体内に寄生していた『蟲』もいなくなれば、狂気的な体力や精神力も出せはしない。『蟲』の影響から解放されたとき、ヒトがどれだけ疲れるのかについては、興味があるところだ。病気を起こす寄生虫とは異なり、あれらは人体を強化はしてくれる。除去されることが、健康的な影響を及ぼすとは限らんのだ。
どうあれ。
「制圧は、完了です!国境線を越えてまでは、追いかけていませんが……逃げ切れなかった敵は、すべて捕らえるか殺しました!!」
ディアロスとユニコーンのコンビネーションの前には、そもそも元気であっても対抗できるとは限らないからね。女神イースに魔力を吸われて、疲れてもいたはずだが……調べによれば、帝国兵どもも女神イースの権能に襲われていたようだ。
追い詰められれば、人間族からも……帝国軍を除外するような力の使い方は、やれなかったのか…………情報を分析するのは、難しいものだよ。とくに、未知の力についてはね。
だが。
ちょっとは紐解くための知識もある。『カール・メアー』の感覚によれば、女神の犠牲として身命を捧げるのは名誉なことらしい。追い詰められた女神イースは、人間族だろうが信者だろうが帝国軍だろうが、気にしなかったかも。躊躇うべき手段じゃなかった。彼女はあくまでも女神であり、軍の指揮官ではないのだから……。
おかげで、我々は猶予を手に出来たらしい。それを『足』で証明してくれたディアロスとユニコーンたちの活躍は、戦略的な大きな功績だった。
帝国軍の動きも興味深く……さらに言えば、医療機関をいくつか無事に抑えられた点は有益な情報をもらえそうだ。『帝国軍のスパイ』どもや、『ゴルゴホの蟲使い』について。知っておくべきだ。十大師団と同様に、難敵だからな。こいつらが『西』に絡んでいるかどうかも、探っておきたいところだ。
どうあれ。社長として、口にすべき言葉がある。
「助かったぞ。君たち社員の協力に、感謝を」
「……っ!!あ、ありがとうございます!!こ、これからも、『ストラウス商会』社員一同、社長と副社長に永遠の忠誠を誓いますっ!!」
「ああ。一緒に、帝国を倒すぞ」
「はい!!」
素直な笑顔を見ていると、こちらも嬉しくなる。
「社長!!社員が作った、差し入れスイーツも持ってきているのですが!!皆さま、休憩時間になさいませんか!!」
「賛成!!スイーツ、食べたい!!」
ミアがそう言うなら、決定だったな。
「いただこう」
「えへへ。そちらの女性も、どうでしょうか?」
「……オレは、もう少ししてからでいい」
「オレ?」
「おっちゃん、食べながらでも考えられるよー」
「おっちゃん?」
「状況は、フクザツなのだ。パロムよ、あまり気にしない方がいいぞ。私たちアホはな」
「……ふむ。そうします!!」




