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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百八十


 女メダルドが羽ペンを走らせる音には、心地良さがあったよ。迷いが消えた者の仕事は、いつだって明瞭な動きを帯びるものだから……。


 好奇心はくすぐられる。


 邪魔しないタイミングを探しながらも、その願いが叶ったかまでは自信はない。だが、問いかけていた。つい数時間前まで、魔眼を使い探偵じみた行為をしていたからか、あるいはただの職業的な好奇心といだけなのか。気になっているからね。


「お前の筆跡通りなのか」


「……ああ。そうだな。ほとんど完璧に、違和感なく……体を使えている」


「なるほど」


「……技巧は、体に宿るだけとは限らんようだ」


「その『逆』は、どうだ?」


「……面白いことを言い出す。気づいたら、教えてやろう」


「そうしてくれ。『ゼルアガ』の権能については、知っておきたい」


 神々について、少しは神経質にもなる。得体の知れない存在だが、ちょっとでも多くを知っておきたい。そうすれば、対策が取れるかもしれないからだ。


 それに。


 興味深い事実じゃないか?


 肉体が別人のモノになっても、字の書き方は魂に従うらしいぞ。


 自分らしさというモノの正体のひとつは、肉体よりも魂が支配的らしいってことだ。


 ……考えたこともなかったが、『オレの考えを相手に押しつける方法』の研究に、役立つかもしれん。


 ちょっとした、武術の研究テーマなんだよ。敵を『誘う』……という技巧の、ずっと先だか奥にある概念。『オレの考え通りに、敵を動かせれば勝ちやすい』からね。そいつは、とてもスマートなんだよ。疲れなくて済む、という意味でだ。


 疲れること自体は、嫌いじゃないんだが。


 敵がずいぶんと多すぎる。帝国軍だとか、それに与する者ども。そいつらを、楽に手っ取り早く始末していければ、より多くを倒せるじゃないか。


 ……ガルフから、聞かされていたんだよ。『王者の剣』だな。そう呼ばれる戦い方があるのだよ。相手に自分の思い通りの行動を強いる。


 かつて、笑われたものだ。「お前には向かない」。そうだったらしいぞ。駆け引きなら、得意だぞと言い返した。それでも、我らがガルフ・コルテスは首を横に振りやがる。「相手に合わせる必要があるが、それは『今のお前』には無理だろう。怒りが濃すぎるからだ」。


 ああ。


 人生というのは、どこで何がつながるか分からないな。オレは、かつてよりは『怒り』に囚われていないらしい。今のオレを見たら、ガルフは同じ評価をしないだろう。魔眼があるし、武術の達人。かつてよりは、多少は経験値というものを積み重ねているんだ。


 技巧の表面的な駆け引きではない。


 もっと、あやふやなくせに、もっと、支配的な感覚。


 ……「芸術に近いものだ。舞踊は、共感を重視する。見せて、狙いの通りの感情や行動を強いるのが芸術ってものだ。お前には、まだ分からん」。まだ、だった。かつての会話だからね。今は、違うんじゃないか。


 ちょっとは、学んだよ。


 芸術ってものもね。レイチェルからも、マエス・ダーンからも。職人たちだって、誰もが芸術家みたいなものだろう。武術の達人たちだって、似たようなものだ。


 色々と。


 雑種のように、多くを得てきた。ガルフ・コルテスの域に達しているとまでは、言わんがね。オレの髪には、まだ一本だって白髪がない。若輩者で、無知な山猿のたぐいである。


 ちょっとだけ。


 また分かった気がしているんだよ。


 女神イースの権能を、オレが完全にマネできるとは言わない。しかし、魂や精神を、別の肉体に伝える能力があると知れただけでも、いいアイデアになる。


 オレはね、クソ強いわけだよ。


 どう考えても、そいつは揺らがん。


 だから、対戦相手は委縮する。戦えば死ぬからな。だから、構えだけでも誘えた。技巧の相性による駆け引きだとか、間合いの取り合いによる結果だとか、そういう具体的な手法だけでも。


 だが。


 もっと上手く戦えれば、それ以上もやれそうだ。


 心を操る。オレの考えを植え付けて、オレの思い通りのまま動かし、そいつを斬れば楽に戦える。手抜きしているみたいで、昔のオレは拒んだはずだが、今は違う。こいつは、成長の一種だよな、ガルフ・コルテスよ。


 たぶん。


 この方向性を研究すれば。


 ちょっと前のオレより、何倍か強くなれるんじゃないか?


 肉体だけでなく、精神的なもの……心理的なもの……ああ、つまり。心だ。そういう力を、操る方法を学べれば。まずは、相手の心じゃなく……自分のだな。


 怒り。


 そいつをいくらか、操れるようになれば……。


 向いてない。


 それは知っているが、いい手本がいる。目の前に、本人はいないが。耐えがたい怒りを御した者がね。もちろん、レナス・アップルだ。そして、レナスに指導をした者たち。『カール・メアー』の武術。彼女たちを基本的には毛嫌いしていたし、軍用の武術ではなく、護身的なものだから実用性に疑問もありはするが……。


 心の鍛練の方法だとか、そういうたぐいはオレに『王者の剣』を学ばせてくれるのではないだろうかね。今なら、彼女たちにリスペクトがあるから、本能的な拒絶も起きん。


 聞いてみよう。子供のような、素朴さで。オレは賢者よりは、ガキどもに近いアホだからね。


「フリジア、『カール・メアー』の武術のコツは?」


「祈ることだ」


「祈るとは、何だ?」


「自分と他者と世界をつなぐ、『秩序』を信じることである」


「なるほど」


「フリジア、なんか賢そう。意味、分かんなかった」


「フフフ。私の言葉ではない。くだんの、リュドミナ・フェーレン詠唱長の言葉である。意味など、私には分からん!だが、耳にタコが出来る程度には、教えられているぞ」


 信仰については、ちょっと疎くてね。


 彼女がどういう意図で弟子たちに伝えたのかは、分からん。


 だが、武術のコツとして教えたのなら、ピンとくる。


「自分を大きくすることだ」


「『自分を大きくすることね』…………と、詠唱長は、言っていた……何で、お前が知っている?」


「猟兵団長だからだろうな。彼女は、他に何か言ったか?」


「『形を意識しなさい』とも」


「そうか。ちょっと、賢くなれたよ。『形』か。なるほど、面白そうだ」


「何か、分からんが。賢くなれたら、良かったぞ。お前は、見るからにアホ面だからな」


「ククク!君も、そう変わらん」


「う、うるさい。自覚はあるのだから。自覚がないアホよりは、マシなのだっ!」




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