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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百七十八


 奇跡。


 素晴らしい響きだな。メダルドは、ずいぶんと価値ある選択を与えられたらしい。


 オレは、レナス・アップルとリュドミナ・フェーレンについて、あまりにも知らないからな。フリジアが涙ながらに語ってくれたことで、多くを理解したよ。鋼を通じても、相手を理解可能なものではあるが……彼女たちの人生について、聞かされるのもありがたい。


 託された意味を知れる。


 その重みもね。


 女神イースもそうだが、どいつもこいつも敵ではありながら、やさしい者たちだったと思い知れるよ。本当に、心の底から、争いの少ない平和な世界を求めていた。


 レナス・アップルのような目に遭わされたとき、自分がそうまでやさしい人間性を保てていたか……それを想像するのも恐ろしい。『人買い』に去勢されるなど、男として生まれた者にとっては、あまりにも痛ましいからな。


 同情する。


 そして、尊敬もだ。世の中を恨みもしただろうが、レナス・アップルという人物は怒りがくれる復讐心よりも、痛みが教えてくれた価値を重視してくれた。


 彼女は両親を愛していたし、愛されていたから。それが奪われた痛みを、誰よりも理解している。だからこそ、メダルドを蘇らせる選択をしたのだ。『人買い』に報復をすることで、少しは得られる正当な喜びよりも、ビビアナを父親に再開させるためのやさしさを選んだ。慈悲の女神の眷属としても、彼女の人生が勝ち得た価値観にとっても、それこそが正しい道だったのだろう。


 ……何を隠そう、このオレも復讐を選んだ種類の男だからな。もしも、レナス・アップルの立場となっていれば、他人の親子愛よりも、自身の復讐に夢中になった可能性が高い。オレだけではなく、多くの者がそうではないだろうか。


 復讐だって、正しいさ。


 それが正しくなければ、世の中の正しさの半分は消えるだろうからね。


 だが、それよりも尊い選択だってある。


 知っているよ。


 ちょっと悔しくもあるが、復讐ってのは万能じゃないんだ。セシルとお袋の仇を取ったからといって、心がすべて晴れるわけでもない。


 復讐の道を選んだことを、オレは後悔しないがね。


 ……不自然な力で、死者の運命をねじ曲げるのは良くないとも信じているよ。悪神どもに、セシルを復活させてやろうかとうそぶかれても、オレは拒絶してきた。悪神など信じるに値しないからでもある。


 だが。


 メダルドについては、受け入れているよ。オレは、少し、多くと知り過ぎて、純度が失われつつあるらしい。この点については、ジャンの感覚の方が、正しいかもしれない。女メダルドに悪神の気配を嗅ぎ取り、警戒心を抱く……。


 実に正しい。


 ……怖い想像をしよう。セシルが実際に蘇ったら、どうするのか。抱きしめるだろうな。正しいと信じるかもしれない。今ある信念や、過去の選択を反故にしても。


 今のところは、女メダルドは、今まで通りのメダルド・ジーの気配だ。邪悪さを見せれば、ちゃんと竜太刀で斬る……その覚悟はしているさ。『ゼルアガ/侵略神』にまつわる力の結果を受け入れるのだからね。


 多くを考えさせてくれるハナシだった。フリジアとメダルドが語ってくれた、レナス・アップルの人生と、その選択についての物語は。


 幸の薄い人生だったかもしれないし、多くの喜びを『人買い』の悪意によって奪われたのは確かだが、レナス・アップルの選択は、常人には選べないほどのやさしさがあった。


 ……メダルドを『脅した』のは、一種の強がりなのか、それとも素直になれない天邪鬼な照れ隠しかもしれない。『未来』を見守るのが、罰だと?……レナス・アップルが、本気でそんな価値観を持っていたとは思わんよ。ただ素直になり切れなかっただけじゃないかね。ムダな選択だと、信じているのであれば、別の道を願うさ。生粋の復讐者でしかないオレが、そう考えるのだから、外れではない。ヒトは、やはり自分を信じている生き物だと思うぜ。


 レナス・アップルの人生を、どう評価するのは人それぞれだろう。復讐した方が正しいと信じる者もいるだろうし、それもまた確かに正しい道ではあった。『正義』はいくつもある。だから、それの正しさを評価するための哲学も、やたらとたくさんあるものだ。


 だが。


 いずれにせよ、猟兵として評価すべきは、いつだって意志と実力が示した強さだよ。


 オレたちは、とてもシンプルな北方野蛮人なのだからね。


 女神をこの世に降臨させるほどの力を出したのならば、見事と讃えるほかにない。


「……コートニー・フレールの体は、元に戻れるだろうか?」


「私に聞いても、答えなど得られんぞ。私は、この計画について、まったく関わらせてもらえていなかったのだからな!」


「……戻してやりたい」


「ふむ。言いたいコトは分かるのだが。『カール・メアー』の巫女戦士は、いつだって殉教者となる覚悟を済ませているのだ」


「……殉教者など、若い娘がすべきではない」


「決めつけるなよ。私たちの覚悟が、若いからといって軽々しく評価されてはたまらん」


「……そういうつもりじゃない」


「やさしい男だからな。『人買い』のくせに。いや、元・『人買い』だな」


「……ああ。二度と、やらんよ」


「うん。それでいい。それだけが、最善の道なのだ」


「……コートニーは」


「残酷と思ってくれるなよ。『カール・メアー』の巫女戦士ならば、喜んで女神イースの力に応える。私が女神イースに、命を求められたなら……基本的には、迷わん」


「……何が言いたい?」


「気にしなくていい。コートニー・フレールは、巫女戦士としての使命を果たしている。命を使い、体を捧げながら……私は、『カール・メアー』の巫女戦士の資格を、失っているのかもしれないが、彼女たちの信念は誰よりも分かる。客観視できるようになったから、今まで以上にな。その結果を、メダルド・ジーに教えてやろう。『カール・メアー』の巫女戦士は、女神イースの思し召しのために、その身命を捧げることは喜びだ。お前がすべき、コートニーに報いる最大の方法は、善行を成しながら、正しく生きることのみである。大陸が変わっていく様子を見守りながらな。それだけが、真実である。我々の覚悟を、甘く見ないでくれ、メダルド・ジー。お前のやさしさは、受け取る意味がないのだ」




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