第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その四百七十七
情報収集に力を入れるのは、時間との戦いになるからだったよ。賢く、的確に。それをやらねばならん。ゼファーを広場で休ませると、女メダルドを連れたまま移動だ。オレが向かったのは『ストラウス商会』の事務所だよ。
そこで、まさかフリジア・ノーベルと出会うとは思ってもいなかったのだがね。彼女と会いたかったわけではない。もちろん、会いたくなかったわけでもないが。ただの偶然だ。本当は、ユニコーンの機動力と、この『好きに使える場所』を借りたかっただけだ。
我が妹は、もちろん大喜びだよ。
「フリジアだ!!」
「おお。ミア!!」
「抱き着き、は……しない方がいい?」
「うむ。あちこち体がボロボロだからな。あまり抱き着かれると、ポキッと折れてしまうかもしれんほどだぞ!」
「それは、やだ……っ。だから、そっちが私を、よしよしして」
ミアの差し出すアタマに、フリジアはナデナデをしていたよ。ああ、本当に。うらやましい。お兄ちゃんも、ついでにナデナデしたいぜ。でも、少女たちの時間に、26才の北方野蛮人が割り込むのは間違いだろう。自覚はあるんだ。オレはとてもいかつい。
「フフフ。ミアは可愛いなあ…………って。あ、あれ?そこの、お前、どこかで見たコトがある気がする……」
女メダルドに、フリジアが近づいていく。女メダルドは嫌そうな顔をした。
「……面倒事になるかな」
「んー。むー。う、うああああ!?お、おま、おまえ……っ。か、『カール・メアー』の一員ではないか……っ」
声を静かにしたのは良い判断だったぜ。『カール・メアー』という単語に、敏感さを持つ者は少なくはない。女神イースと戦った直後であれば、なおさらのことだ。
「そ、ソルジェ・ストラウスよ。ど、どこで拾ってきた……っ。政治的に微妙な立場のヤツなんだから、あまりひょいひょい抱き込むな……っ」
「お前まで、政治的な立場なんざを、考えるようになったか。若者の進化とは、目が離せられんものだよ」
「年寄り臭いぞ、お前だって、若造の一種だろうが」
「まあ、26歳児の割りには、アホだっていう自覚はあるんだぜ」
「自覚するだけで救われるのであれば、いいのだがな」
尼僧のせいか、ときどき妙な鋭さを持つ説法じみた発言をしやがる。いかにも、『カール・メアー』らしいがね。
だが。
そんなことよりも。
「フリジア、彼女を知っているんだな」
「お、おう。そいつに聞いていないのか?だとすれば、ちょっと間抜けだぞ」
「どういうヤツだ?」
「レナス・アップルの上司の、詠唱長リュドミナ・フェーレンさまの部下で……つまり、平たく言えば。女神イースさまを、降臨させた方の……手下だ」
「じゃあ。けっこう、重要人物なの?」
「いや。違うな。そういうのではない。下っ端だぞ。使い走りだ」
「お前が言うのか」
「う、うるさい。た、たしかに。私も、思いのほか、お山からの扱いが悪かったらしいと気づいたばかりだぞ。リュドミナさまから、何のお話もされていなかった。秘密主義な方でもあった気もするが、私は……つまり、レナスに比べると、はるかに雑魚だったのだな」
「傷つかないで、フリジア」
「傷つきはしていないぞ」
「それがいい。お前は腕前で評価されなかったわけじゃない。善良さゆえに、策略めいたものからは遠ざけられただけだろう」
「おお。ソルジェ・ストラウスよ、いい考え方だな。そうだ、おそらくその通り!」
「で。彼女は、誰なんだ?」
「名前は、コートニー・フレールだ。良くも悪くも、普通の巫女戦士だ」
「うん。強くもなかった。フリジアの半分ぐらいの強さ」
ミアは女メダルドの体と戦ったことがあるらしい。お兄ちゃんの知らないところでも、色々と冒険しているわけだ。コートニー・フレールと、一体いつどこで戦っていたのか。
「……コートニー・フレールか。親御は、いるのか?」
「いないぞ。捨て子ではない。流行り病で、どちらも他界されたらしい」
「……そうか。ご冥福を、祈りたい」
「いやいや。お前、何か変だぞ?……祈りたいって?」
「彼女の『中身』は、メダルド・ジーだ」
「は?……え?……いや、え?」
オレと同じく、アホに属する者らしい顔をしたよ。フリジアらしい表情と言えば、失礼になるだろう。
「……オレだ」
「詐欺師?ソルジェ・ストラウスよ。何かしらの詐欺に、引っかかっているのではないか?なりすましている可能性がある。いいか?リュドミナさまは、とっても賢い。お前ごときのアタマなら、たやすく騙してしまうに決まっているのだ。何か、不思議なはかりごとの続きかもしれないぞ!」
「ククク!そうじゃねえよ。本当に、メダルドなんだ」
「騙す気か?」
「信じろ。まあ、信じがたい状況なのは分かるが……ちょっと、状況を説明した方がいい」
事務所の部屋をひとつ借りて、状況説明をしてもらったよ。
フリジアは最初、腕組みしたまま警戒心を露わにしていたが、オレたちよりも『カール・メアー』や女神イース、リュドミナ・フェーレン、レナス・アップル、そういった関係者たちに詳しいからだろう。驚きながらも、うなずいていた。
「な、なるほど。そうであったのか。そうか……そうか。レナス……レナスは、やっぱり、すごいヤツだ。『人買い』を許せたのか。あんな目に遭わされたのに……レナスも、両親を大切にしていた。だからか……だから、こんなにやさしくなれるのか……お前は。ビビに、父親を返してやろうとしたのだな…………奇跡が、あるとすれば。あいつの選択こそ、それだ」




