表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4521/5090

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百七十三


 外に出ると、ゼファーが困った顔をしていたな。その首のつけ根にはミアが乗っていたし、ミアはロープで見知らぬ女を捕まえている。ぐるぐる巻きにされた女性……若い女だ。誰だか知らんが、尼僧のたぐいらしい服装と、眉間に深いしわを寄せた困り顔。


 ふむ。


 察しがいい方だという自覚はあるのだがね。どうにも、状況が分からない。ミアは泣きながらも、オレを見つめていた。


「お兄ちゃんも、説得して!!」


「お、おう!」


 説得……ね。どうやら、ミアはこの若い女を捕まえて、ゼファーで連行してきたらしいが。事情を聴くのは、この女にすべきだろうか……。


「メダルドのおっちゃんなの、その女!!」


「……そんな説明では、通じないだろう」


「いや。通じたよ。なるほど。メダルド、メダルドなのか。お前、女にさせられたのか」


 理解した。状況の一部ぐらいはね。


 女になってしまったらしいメダルドは、その大きな目をぱちくりさせていやがったよ。


「……どうして、オレがメダルド・ジーだと信じられるんだ?」


「ミアが言っているからだな」


「……それだけで、か」


「オレには大きな価値のある言葉だろう。妹の言葉も、猟兵の言葉も。団長でありお兄ちゃんであるオレが、疑うはずもない」


「……シスコンが過ぎるぞ」


「ククク!……話し方も、魔力の質も、メダルド・ジーそのものじゃないか。疑う余地などない。もちろん、女の体にされているのは、どういうことなのかは知らんがね。笑ってやった方がいいか?」


「……驚くべきだぞ」


「いやいや。慣れている。多少の不思議な出来事についてはな。ついさっきまで、女神と殺し合っていたんだぞ」


「……それは、そうだろうが。知人が、男から若い娘に変わったら、驚くべきだ」


「かもしれん。常識とやらに、ときどき縁遠さを感じるよ」


「メダルドのおっちゃん、死のうとしているの!!しかってやって!!」


 大泣きするミアから、そう言われた。


「死ぬってのは、物騒じゃないか。せっかく、生きて戻れたのに」


「……色々と、諭されたばかりだ。今は、死ぬ気はない」


「そいつは正しい判断だぞ。ビビアナのためにも、ミアのためにも。そもそも、オレにとってもだ。お前を失ったと思っていたんだぜ」


「……心配をかけたようだ」


「ああ。女になったところで、さほど問題はない。死ぬことに比べれば、何だって些細なことだよ。メダルド。戻ってくれて嬉しいぜ」


「……状況を受け入れるのが、早過ぎるだろう」


「これでも、忙しい身だからな」


「……何か、問題が?」


「アダルベルト・ジーについて、調べる必要があったところでね」


「……叔父がどうしたという?」


「正確には、『西』について知りたい。『トゥ・リオーネ』の研究をしていたんだろ?」


「……叔父はな。少し、というか。かなりの自由人だった。あの土地の異教について、妙な好奇心を抱いていたらしい」


「『西』に向かう」


「……なるほど。西からの敵を、防ぐために」


「察しが良くて助かるよ」


「お兄ちゃん、メダルドのおっちゃんを、ビビに会わせて!!」


 ゼファーの背から飛び降りて、涙目に震える瞳でお兄ちゃんを見上げてくる。黒髪をやさしくなでてやるのさ。猫耳が、ピコピコ可愛らしく動いていたよ。


「ああ。任せておけ、ミア」


「うん……っ」


『ほ、本当に……メダルド・ジーさん、な、なんですね?そ、その。においが、『ゼルアガ』っぽいけれど……っ』


「……女神イースの権能というか、諸々の事情で蘇ったからだろう。この体そのものは……『カール・メアー』の娘のはずなんだが」


『い、いいえ。ヒトのにおいなんて、ほ、ほとんどしません』


 ジャンがドン引きしているな。ヒトではない、か。


「……ヒトでは、ない?……この体の、彼女は……」


「一度、死んだんだろう。お前もなら、その体の持ち主だった者も」


 考えてみれば、とても、生きて戻れるような状況ではなかった。完全に焼き尽くされていたからな。粉みじん。あるいは、それよりも、もっと小さな状態にまで燃え果てちまっていた。


 オレもメダルドの死を疑わなかったのだが、どうやら、女神イースが力を尽くしてくれたらしい。やさしいヤツだったからな。負けて、死んでしまった子供たちのために、何かをしようとした。


 ミア曰く、『ママに会わせてあげて』。


 メダルドを助けられるほどの余力があったというのなら、あのデカブツを作っていた子供たちを『家族』と会わせてやれたんだろう。慈悲深い女神ではあった。そのついでに、メダルドも助けた……。


「……死んだ。そう、だな。死んだのは、オレだけではないか」


「死んだあと、蘇ったの。女神イースは、やさしいんだから!おっちゃんは、蘇ったの!ビビに会うために!!」


『あ、あの。メダルド・ジーさんなら、いいんです。た、たとえ。ちょっと、においがおかしくても。き、きっと、メダルド・ジーさんなんでしょうから』


 ジャンはやたらと気にしている。魔眼では、メダルドの魔力に見えるのだが。『狼男』の嗅覚からすれば、別の気配を見つけられるらしい。さすがに、においまではオレには分からん。ゼファーは、女メダルドを『にんげんぞくのにおい』だと考えているのだが……。


 ……『ゼルアガ』関連については、ジャンの感覚に我々は勝てん。『ゼルアガ』成分が、過分に女メダルドを構成しているのかもしれんな。


「メダルドのおっちゃんだよね?」


「……ああ。そのはずだ。そのはずだが。オレ自身も、分からん。女神イースが、オレを生かした。いや、より正確には……レナス・アップルだ。『人買い』に、家族を殺され。自分も残酷な目に遭った者……オレに、見届けさせたがっている」


「何をだ?」


「……過酷な道を歩むであろう、未来について」


「見届ければいい。不安がる必要はない」


「……そうか?」


「千年の苦難も、千一年目から変わる」


「……だとしても。オレは、罪深い者だ。誰も彼もが、無条件に許しはしない」


「罪深いと知っているのなら、生きて償いでもしてくれ。生産的な道だろう。ビビアナのためにもなる。新しい形を目指す、世界のためにもだ。戦士が要る。オレたちのために、お前の大切な者のために。生きるがいい、メダルド・ジー」

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ