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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百六十四


―――生きるか死ぬかは、もちろん大きなことだ。

それ以上の価値あるものだって、人生は得たりするけれど。

命はかけがえのない存在で、生き残るためならどんな選択だってするものだ。

それなのに、ミアの目の前にいる男は自分の命を軽んじているように見える……。




「……そうだな。死ぬことになる。というか、すでに死んでいるんだ。オレは、女神イースの材料になったんだよ。そうなることも、了承した……」

「りょうしょうって、どういう意味?」

「……ああ、受け入れたって意味だ」

「なんで?女神イースの材料になるなんて……」




―――訊きながらも、想像はついた。

メダルドにとって大切なものが、ミアにも分かるからね。

ビビアナと一族のため、彼は『家族』のためなら死んでもいいと考える男だ。

実際のところは、ミアやフリジアの安全も含まれていたけれど……。




「……取引したのさ。より、穏便な状況になるように……女神イースと、『カール・メアー』は、よくがんばってくれた」

「おっちゃんが使っている体もね、『カール・メアー』の巫女戦士だよ」

「……なるほどな。この子は……フリジアの知り合いなのか?」

「そこまでは、私には分からない。でも、知っていたとしてもおかしくない」




「……ビビの友人の知人ならば……それこそ、このままにしてはおけん」

「気持ちは、ちょっと分かるところもある。でもね、おっちゃん」

「……なんだ、ミア?」

「元に戻る方法なんて、おっちゃんには分からないでしょ」




―――幼くても、正しい指摘は行えるものだ。

むしろ、幼くて純粋だからこそ容赦なく真実を見抜く。

メダルドの名も知らない乙女に、人生を返してやりたいという願いは尊いものだ。

彼の願いを、叶えてやりたいと考える者も少なくないだろう……。




―――でも、正直なところ。

呪術の天才でもない、メダルドには知識も手段もない。

あるとするのは、ただの漠然とした期待だけ。

ミアの指摘に動揺しつつも、メダルドは知性を頼る……。




「……意識だけが、この子の体に憑りついているなんて、そもそもおかしな状態だ。オレの意識が消えれば、元に戻るかもしれないし、そもそも……時間が経てば、解決するかもしれないだろ。それに、呪術師を頼れば手段が見つかるかもしれん」

「そうかな。女神の権能が関わっているなら、どうにもならないかも」

「……そうは、なりたくない」

「おっちゃん、死にたいの?……ビビに、会いたくないの?ビビ、どれだけ悲しむか」




「……悲しませたくはない。だが、オレは……怖いんだよ」

「怖い?ビビに会うのが?」

「……そうだ。いちばん、それが怖い。あの子に、期待させるかも。明日には、死んでるかもしれない。意識だって、消え去っているかも……オレは、死人なんだ。ビビは、もう悲しんだ。オレが死んだと思ったはずだし、その認識は正しい。どうにもならなかった」

「ビビの作戦は、たしかに達成できなかった。おっちゃんを、再生してみようとしていたのに。呪術で……呪術には、ヒトの体を魔物に変えちゃうものだってある。その『逆』だって、不可能じゃない」




「……ビビは、オレが死んだと認識した。悲しんでくれた。そして、適応しつつある。ジーの一族や、自分のために。それに、多くの者たちのために、前向きだ。オレの死を、ちゃんと前向きに肯定してくれたんだ。それはオレが、何よりも望むことだ」

「おっちゃんは、あまり間違っていないと思う。賢いし、やさしいもん」

「……そうだ。オレは、妥当で、正しいと思われる道を選べる。お前よりも、ずっと大人だから。冷静に、状況を見定められるんだよ」

「でもね。ビビは、ぜったいに、おっちゃんと会いたいんだ」




「……感情的に、なり過ぎるものじゃない。オレと出会って、何になる?オレは、いつ消えるか分からないし……そもそも、オレ自身、この子に体を返してやりたいんだ」

「ビビと、その子、どっちが大切なの?」

「……意地の悪い、質問だぞ」

「女の子は、ときどき意地悪なの。それで。どっちが、大切なの?」




「……言うまでも、ないだろう」

「だよね。ビビの方が、ずっと大切。おっちゃんにとって、その子は他人だから」

「……だとしても、オレは……他人であっても、この子の人生を奪いたくない」

「おっちゃん、世の中は何でもおっちゃんの願いを聞いてはくれないよ」




「……そんなのは、分かっている」

「私に、見つかっちゃったんだよ。逃げられるはず、ないよね」




―――脅すつもりではないけれど、事実の宣告はあまりに力強いものだった。

どんな願いも、乱世では力が叶えてくれる。

ミアは自分の願いを優先するつもりだった、ビビアナのために。

メダルドは追い詰められた男の顔になり、知恵を絞り出そうと試みた……。




「……考えろ。明日にも消えちまうかもしれない男が、戻ったところで。傷つけるだけだ。ビビは喜ぶだろう。でも、明日、オレが消えちまったら。二度目の悲しみと、向き合うことになる。ビビを、傷つけたくないんだ。あの子は、オレを救おうとしたのに、救えなかった。また救おうとするだろ。それでも、また失敗すれば……」

「悲しむだろうね。でも、それが、どうかしたの?」

「……ビビを、傷つけたくない。それは、お前も同じだろ?」

「違うよ。傷ついてもいいよ。大切な人に、また会えるなら。そのあとで、さみしくなったところで、また悲しくなったって。耐えられる。ママに会ったの。女神イースが、ママに会わせてくれた。私を大きくなったねって、言ってくれた。ずっと一緒じゃない。もう会えないもん。あのとき、私が猟兵だったら……ママだって助けられたのに。でもね、一瞬でも会えた。一言でも、聞けたの。すごく、嬉しいよ」




―――あきらめるべきだった、ミアに勝てるはずもない。

女神イースがくれたプレゼントは、ミアを大きく成長させてもいる。

もうメダルドの言葉も知恵も、太刀打ち出来やしないんだ。

後悔しながらだって、傷つきながらだって進み続けるリトル・ストラウスだよ……。




「な、なあ。メダルドよ」

「そうだぜ、ジーの旦那。あんたの負けだと、思うぜ」




―――巻き込まれた商人たちも、そう言うほかにない。

メダルドの願いが、叶うようには思えなかった。

追い詰められて、打ち負かされた。

論破されているわけではなく、感情と力に負けている……。




「……だが、オレは……」

「おっちゃん、まだ文句があるの?」




「……オレは、『人買い』ジーの一族の象徴だ。あらためねばならん。オレの死をもって、ジーの一族の『人買い』の歴史は終えられる。オレが、死んでいた方がいい。その方が、ストラウス卿にも好都合だ。『自由同盟』のお歴々も、『人買い』が絡めば、亜人種の戦士が嫌がる。亜人種の奴隷を、売り買いしていた。オレを、許せない亜人種の戦士は多い。結束のためにも、オレは生きていない方がいい。ミア、お前も……奴隷だった母親を殺した『人買い』を、許せないだろう」




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