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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百六十三


―――ミアの視線に射抜かれながらも、メダルドは立ち去ろうとする。

賢いからね、上手く行くはずがないと理解していたというのに。

隠し事をしようとするとき、人はあまり上手な動きをやれないものだよ。

失敗すると理解しつつも、四歩も歩いていたのさ……。




―――悲鳴が生まれ、メダルドは理解する。

ミアが採風塔から、飛んだのだ。

問題はないよ、ミアの手甲にはチェーン・シューターがある。

それが城塞の一角に突き立てられ、落下の角度をコントロールしてくれた……。




―――風のなかを、何とも軽やかに飛ぶミア。

空中で身を捻って『遊ぶ』ほどの余裕が、その動きにはあったよ。

メダルドの目の前に、最強の暗殺者が音も立てずに舞い降りる。

すぐれた暗殺者はね、あらゆる音さえも殺してしまうものだった……。




「メダルドの、おっちゃん……だよね?」




―――ゆっくりと身を起こしたミアは、目の前にいる『カール・メアー』に訊いた。

ミアにボコボコにされた巫女戦士であれば、恐怖で凍てついたはずだ。

自らを圧倒し、負傷させて治療もしてくる生殺与奪の掌握者。

そんな存在が、また目の前にやって来たならどんな態度になるかは明白だよ……。




―――逃げなかった、恐怖で引きつることもない。

巫女戦士の表情が浮かべたのは、ばつが悪そうな困り顔だ。

秘密にしたかった事実を、メダルドは暴かれてしまったのだから。

どうにもならない現状のなかで、彼は反論のために時間を割くことはしない……。




「……そうだ。オレが、メダルド・ジーだ。理解しがたいかも、しれんがな」




―――賢いメダルドは、選んでいたのさ。

少しでも目立たないように、さっさと状況をあらためたいと。

ミアの動きに、周りの人々は注目し過ぎている。

それもミアの狙いかもしれないと、メダルドは判断する……。




「……見世物じゃない!さっさと、仕事に戻るんだ!帝国軍との戦いに、常に備えなくてはならない!」




―――メダルドの言葉は凛としていて、説得力があった。

そのおかげで市民も戦士たちも、ミアたちに注目するのをやめたよ。

自分たちがしなくてはならないことに、彼らは戻っていく。

人々の流れが生まれたなか、そこに残っているのは当事者たちだけだった……。




「それで、どういうつもりなの?」




―――ミアは怒っている様子でもないが、知りたがっていたんだ。

必死な好奇心があって、それを無下にするなんてメダルドにはムリだった。

猟兵の鋭さも知っているよ、ミアに捕捉されたら逃げられるはずもない。

詭弁術の出番かもしれないが、それも見抜かれる気がしている……。




―――嘘で遠ざけられるほど、乱世を生き抜いた子供の心は弱くはない。

メダルドは青い空を見上げながら、数秒のあいだ思索を練りつつも。

自分はきっと白状するべきだと、理解してもいた。

諸々の計画は根っこの部分から、変えなくてはならない……。




「……徐々にだが、記憶が戻りつつある。オレは、どうやら……『ギルガレア』や女神イース、それに……レナス・アップルという、哀れな者に、助けられた……いや、助けられたというよりも、『見届けろ』と突きつけられたのか」

「見届けるって、どういうコト?」

「……『カール・メアー』は、千年のあいだ、悩んでいたらしい。そして、決めたんだ。人間族だけの世界を創れば、戦いが少なくなるだろうと」

「なるほど。『カール・メアー』っぽいかもね。やさしいけど、怖いトコもある」




「……まさに、そのようなものだ……ミア」

「何、メダルドのおっちゃん?」

「……女の子が、あまり日に当たり過ぎるもんじゃない。塔の影にでも、入るとしよう」

「うん。そだね。今は、おっちゃんも……女子」




「……はあ。そうだな。この子のためにも、日焼けはしてやらない方がいいだろう」




―――ビビアナという『娘』を持つ身だからか、メダルドは紳士なところがあった。

採風塔の影に入ると、少しだけ涼しかった。

採風塔の地下にある、貯水槽から涼しい風が漏れている。

近くにある屋敷たちのための風だったが、長い歴史のせいで風の漏れる亀裂もあった……。




「うん、涼しい」

「ハハハ。我が『オルテガ』の建築技術は、『プレイレス』からも伝わっていてね。なかなかに上出来なんだよ!」

「ご当地自慢なんて、している場合かよ。オレたち、どーなるんだ?この状況って、つまり何なんだよ?」

「……状況は悪化してはいない。とくに、お前たち二人には何の罪もない」




「そだね。メダルドのおっちゃん以外に、用事はないよ」

「そ、そっか。じゃあ、どっか行くかい、トーリー・タイズン!!」

「私の名前を叫ばないでくれたまえ、ブッチ!!」

「そっちも、叫ぶんじゃねえよ!!」




―――印象が悪くなることを、商人たちは恐れているらしい。

どんな形であっても、ソルジェの耳に入れば得にはなりそうになかった。

下手すれば、疑われるかもしれない。

ふたりとも『自由同盟』に取り入ろうと、企んでいる立場なのにね……。




「わ、私は立ち去らないよ。状況を改善し、ストラウス卿のお役に立とうと必死に働いていた最中なのだからね!」

「ず、ずるいぞ、タイズン。オレもだ。オレも。肉屋のブッチは、いつだって、ストラウス卿の理想のために働く、熱烈な信奉者なんだから!」

「……ということさ。タイズンもブッチも、オレの協力者だ。良かれと思い、いっしょに行動してくれている。悪い連中じゃない」

「わかった。それで、説明をして欲しいんだけど。どうして、生きているなら、ビビのところに戻ってあげなかったの?」




―――心に突き刺さるような問いかけであり、ミアの瞳には悲しみと戸惑いがある。

いたたまれない気持ちになるが、メダルドはもう逃げるつもりはない。

逃げられないなら、ミアを協力者として取り込む他に手はなかった。

メダルドは深呼吸をして、いつものように諭すような冷静な声を使う……。




「……この姿は、借り物だと思っているからだ。誰かは、分からない。だが、誰かだ。この子にも、親がいて家族がいる。尼僧のようだから、恋人はいないかもしれないが……親しい友人たちだっているはずだ。それなのに、オレのような男が、悪霊のように憑りついている。それは、嫌なんだよ」

「おっちゃんは、その子を……元に戻してあげたいんだね」

「……そうだ。オレのような死人が、若い娘の人生を奪い取るなど、あってはならない。オレは、ビビの……父親代わりなんだぞ」

「でも、それをすれば……おっちゃんは、また死んじゃうじゃない」




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