表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4509/5088

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百六十一


―――ジャンは意識を集中するまでもなく、すぐにその場所を見つけていた。

『ゼルアガ』にまつわるにおいに対しては、本能的な警戒心が働くらしい。

ミアを連れて窓のそばに向かうと、『狼』の顔を窓から突き出すようにする。

大きなジャンの顔のとなりに、ミアのちいさな顔が並んだ……。




『あ、あそこに見えるよね。さ、採風塔。あそこの、ま、周りを、くるくると動いているんだ。女神イースというか、ぜ、『ゼルアガ』っぽいにおいが』

「なるほど。あの塔の周りに、いるのか……」

『ぜ、『ゼルアガ』っぽいのはね』

「たぶん、メダルドのおっちゃんだったモノだよ!今では、お姉さんになっている」




『ど、どういうコトなのか、ちょっとついて行けない』

「私も、ついては行けていない。だから、確かめるのが早い。ねえ、ジャン」

『な、何だい?』

「他の神さまのにおいとかも、するかな?」




『え、えーと。しない。で、でも。何で?』

「『ギルガレア』のおっちゃんも、こっそり生きていないかなって。神さまだから、死なないかも」

『ど、どうかな。『ゼルアガ』は……殺せるからね』

「そっか。『ギルガレア』のおっちゃんは、死んだんだ」




『で、でも……他の気配も、少し感じなくもないんだ』

「どういう気配なの?他の、神さま?」

『……な、何だか。混じっているような気配というか……ふ、不思議なにおい。嗅いだことが、割りと最近あるような……う、うう。思い出せない。ごめんね』

「いいよ。無理はしないで」




―――『狼男』というか、ジャンの知覚はすさまじい。

おそらく、このときのジャンはアリーチェを嗅ぎ取っていたのだろう。

『トリックスター』という、新しい神さまの脅威をね。

気づけないのは、『ゼルアガ』らしい認識への干渉のせいかもしれない……。




―――あちらから関わろうとしない限り、『ゼルアガ』は認識することも不可能だ。

少なからずの縁があり、ジャンの能力の高さゆえに不完全ながら気配を得たわけだが。

アリーチェは、事の顛末を見届けようとしているのかもしれない。

この『オルテガ』に、幽霊だか何だかよく分からない形となって潜伏しているのかも……。




「とにかく、行ってみるよ。メダルドのおっちゃんを、見つけるんだ」

『う、うん。その、が、がんばってね』

「ジャンも、お兄ちゃんの護衛をがんばって!」

『ま、任せて。蟻の子一匹だって、見過ごさない』




―――ジャンは、実際にそれを有言実行するだろう。

もしかしたら、アリーチェがこっそりとやって来ても気づいたかもしれないね。

ソルジェのことが大好きな彼女は、興味本位で会議を除こうとするかも。

何をしでかすか分からないのは、子供と神さまの特権みたいなものだった……。




―――ミアは大きな四角柱の採風塔を目指して、屋敷を飛び出していく。

ソルジェはミアの気配に気づいていたが、会議を優先するしかない。

副官であるガンダラと、町と軍勢の幹部が集まっていればね。

シスコンだって、ミアとのハグをしたい衝動を制御だってやれるんだ……。




―――ソルジェも26才になるから、ちょっとは分別というものがある。

戦況は比較的落ち着いているものの、一休みする余裕はない。

働き過ぎは良くないが、大陸最大の帝国との戦いは多忙であって当然なものだ。

説得工作も、必要とされている……。




―――『パンジャール猟兵団』が『西』に向かう、合理的かつ切実な理由。

それを幹部たちには伝えておかなくてはならず、それはソルジェの役目でもある。

竜の不在は、強烈な戦力の低下となるのは明らかだからね。

『オルテガ』の守りだけに集中して欲しい者たちも、ここには多くいた……。




―――そういう人々を納得させて、戦力を組み上げなくてはならない。

政治というものは、可能な限り大勢の人々を集めて。

何か共同の利益のために、尽力させるための力だ。

ソルジェは権力と知性を使いこなして、戦略を周りに伝えなくてはならない……。




―――いい経験だよ、傲慢な王になってもらっては困る。

ルード王国は、ガルーナ王ソルジェ・ストラウスに対して絶対の支持を表明するのだから。

愚王でなく、最低でも歴史には残る名君になってもらわなくてはルードの威信がすたる。

いい訓練の時間だよ、不安がる議員たちを説得しようとする行いはね……。




―――ソルジェがまたひとつ、新しい挑戦を強いられている裏側で。

リトル・ストラウスは、風のような速さでそこに到達していた。

レンガと石材で組まれた、四角柱の採風塔。

風と日光を浴び続けた数世紀の果てに、すっかりとあせたクリーム色になっている……。




―――迷宮都市『オルテガ』の、長くて複雑な歴史を見守ってきたものだ。

矢傷や破壊の痕跡も、そのそそり立った二十メートルの表面には刻まれている。

城塞の一部とつながりながら、地下の構造とも仲良しだ。

地上の迷路っぷりだけでなく、地下にも様々な建築が広がっているのも特徴さ……。




―――『プレイレス』の文明の豊かさというか、建築のレベルの高さだよね。

この塔は風を採り入れて、地下に用意されたため池の水で冷ます。

風を読解する能力に長けた、竜騎士にとっては面白みのある建築だった。

もしもヒマだったら、ただの好奇心のためによじ登っていただろう……。




―――でもね、今は遊びのためではない。

古びたレンガのでっぱりに、指とブーツの先を用いてよじ登っていく。

たったの二十メートルの高さだからね、ミアにとっては十秒足らずで制覇するさ。

鳥たちも驚いて、いきなり現れた少女のそばから飛び去って行く……。




「邪魔しちゃったね、ごめん。でも、必要なことなんだ」




―――採風塔の真上は、心地良かったそうだよ。

真夏の地上にこもるよう熱風から、その場所だけは解放されている。

周りを見渡すのには、適していた。

周りからも、よく目立つのが目的にとって素晴らしく有効な事実だったね……。




―――ミアは理解している、目立つ者には否応がなく視線が集まると。

そうなれば、『逆』の行いもしてやれるのだ。

優れた戦士である猟兵ならば、自身に向けられた視線の意味を感じ取れる。

「それがやれるように、しっかりと教育しているんだよ」……。




「だよね、ガルフおじいちゃん。メダルドのおっちゃんは、私を見つけた。リアクションをするはずだよ。どんな体になっていようが」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ