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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百五十八


―――ミアの世界観にとっても、メダルドは貴重な存在だよ。

得難い『教師』のような存在であってね、ミアを大きく育ててくれる知性の持ち主だ。

ソルジェやボクやガンダラでは、どうしても甘やかしてしまうからね。

女性陣もそうだよ、ミアはあまりにも可愛すぎるから……。




―――メダルドとの間にある距離感は、ミアには貴重なものだろう。

友人ではなく、『家族』でもない。

仲間ではあるけれど、そう言えば『人買い』なんて大嫌いなはずなのにね。

現実主義者のミアは、迷うなんてムダな行いはしないのだけれど……。




―――風のような速さで、血と鋼のにおいにあふれ返った街並みを駆け抜ける時間は。

それなりに思いに耽るには、適していたんだよ。

どうしてこんなに、必死になって走れるのか。

現実主義者としては、思考力が集まってしまうテーマではある……。




―――ビビアナのため、それが一番大きい。

だが、正しいことの複雑さをミアは理解しているんだ。

ミアも含めて、亜人種を絶滅させようとしている『カール・メアー』。

そんな恐怖の集団たちが、どうにもやさしかったりする……。




―――正しいことは、たぶん真実とは違うからだ。

『正義』はいくつもあるけれど、『真実』はいつもひとつだけしかない。

正しいとは、真実よりも難しいものだと勉強嫌いの本能は判定していた。

考えるべき話題ではなくて、もっと直感的に解釈すべきだと……。




「そうだね。たとえば、形だ」




―――幾何学的な解釈を挑むなんて、素晴らしい知性だよね。

数学の半分は、けっきょくのところ形なのだから。

きっと、さっきの骨切りノコギリでも見かけたからだろう。

子供は賢くはないけれど、不思議な広さと豊かな深さの視野を持っていた……。




―――ああ、ミアにとってはノコギリというものは幾何学なんだよ。

ジグザクとした刃が、どうして丸太みたいに硬いものを切断できるのか。

斧の力強さは、理解しやすいけれど。

今より幼いミアにとっては、あんな小さな刃の列が威力を出す理由が分からない……。




―――賢い者が近くにいるのは、ときどきありがたいことだね。

かつて論文執筆をしているロロカに、十才のミアは質問してしまったんだよ。

「どうして、ノコギリなんかで木が切れるの?」。

とてつもなく賢く、そして論文に集中していた賢者は口走っていた……。




「形がいいからです。あれは実に数学的な道具ですね」




―――ミアはぽかんとしてしまったが、ロロカはそんなミアに気づけなかった。

おそらくミアが質問していたとさえ、分かっていなかっただろう。

羽ペンがかわいそうになるような速さで、論文を書き上げている最中だったから。

とてつもなく長く、とてつもなく難解なロロカ的な講義がミアの耳を通り過ぎていく……。




―――大人だったら、失神したり自らの知性の低さに泣き出したりしたかもしれない。

自分がアホであると思い知らされたとき、敗北感のせいで泣けてくるものだ。

「口のなかに砂鉄の味がした」、ソルジェ・ストラウスの言葉である。

ボクがいちばん笑った言葉のひとつで、本当に脳みそにこびりついているよ……。




―――アホであるという自覚は、ヒトに何かをあきらめさせる力があった。

でも、ミアの猫耳はほとんどの情報を大胆にも捨て去ったのさ。

難解な本の読破に挑むときの、一種のコツをしていた。

『よく分からないコトは、とりあえず無視して後回しすればいいのだ』……。




―――ロロカの大人を絶望させそうな、難解な言葉からも。

子供の率直さは、良き理解を拾い上げていた。

『形がいいものは素晴らしく、それにはとても多くの理由が込められている』。

『数字でピンとこないときは形で考えなさい』、なんて数学的な助言なのだろうか……。




―――円周率が分からないときは、丸太に抱きつけばいい。

手と腕や脚の長さを足していきながら、長さを色々と図るだけのこと。

だいたい三倍、という理解を得られるから。

数学はだいたい絶対なもので、世の中の多くのことがらを分析可能だ……。




―――とにかく、今のミアは『正義』と『真実』を形で解釈しようとしている。

本能的で直感的な思考方法で、それが正しいかどうかは問題じゃない。

ミアにとっての『正義』は、ふわふわした不定形な何かだった。

でも『真実』はとても明瞭、ただの点だ……。




―――正しいことは、やはり難解だ。

邪悪なはずで、ミアの最愛のママを死なせた連中の一人さえも。

ミアは善良な人物なのだと、考えてあげられるほどには『正義』は柔軟だ。

適当なのかもしれないが、それでもいいのさ……。




「だいたい、当たっているもんね。良い形だと信じられるときは、算数でも証明できちゃうハズなんだから。分からないほど、難しいヤツで!」




―――空間把握能力に長けた、竜騎士たちらしい思考方法かもしれないね。

空を立体的に飛び回る計算を、感覚的に行えているのがストラウスさんたちだから。

数字でやらなくても、形で解けばいいんだよ。

「現場レベルでは気にならない程度に当たるものです」、ロロカの言葉の一切れさ……。




―――骨切りノコギリを見たミアは、小さくてふわふわして弱々しいのに。

斧よりも速く、そして大きな力を使うこともなく丸太を切断する鋼から。

子供らしい不思議な形の考えで、自分を納得させたのだ。

『正義』はノコギリみたいに柔軟でいい、それはとても正しい切れ味になる……。




「私はね、おっちゃんのコトを大切にしてあげてもいいんだよね、ママ!」




―――罪深い真実があったとしても、正義はそれを押しのけた。

恨むべき何かがあったとしても、それが永遠の枷になるとは限らない。

女神が見せてくれた笑顔が、ミアの新しい思い出になっている。

「大きくなったわね」、やさしい許しの価値を少女は知ったのさ……。




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