表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4501/5088

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百五十三


―――シモンは死にたくないはずだったのに、死神みたいなミアがそばにいると。

生きていることに対して、執着できなくなっていた。

自分の生存が間違っているように感じられるときが、大人にはあるものだけれど。

シモンはそんな心境に陥り、少しでも自分なりの『正義』に徹しようとしている……。




―――罪悪感からは逃れられない、それに腹をナイフで刺されたんだ。

自分の命が失われるのならば、せめて有意義に消費されたいと願う。

英雄ではないかもしれないし、一種の負け犬ではあるのだけれど。

シモンはそこらの一市民にしては、十分によくやっている……。




―――仲間のために、生きて死のうとする行い。

そういう価値観は、敵対者からも尊敬される普遍性があったんだ。

ありふれている正しさであり、ありふれているからこそ誰の心にも届きやすい。

強くて恐ろしい『リトル・ストラウス』にも、その行いの価値は通じていた……。




「いいヤツだね、お兄さん。私たちにも、『ルファード』の地図をくれた」

「……そうだったよ。覚えていてくれたか」

「『オルテガ』のためなら、何でもしちゃうんだ」

「そうだ。そうありたいと願った。そういう生き方が、男らしいとか……」




「女でも、戦うよ。乱世は、みんな命を燃やしている」

「そうだね。男でも女でも。子供でも……関係ないな」

「みんなね、自分が正しいと信じられるコトのために殺し合ったり、死んだりするの。お兄さんにとっては、『オルテガ』と『オルテガ』の人たちのために死ぬのが正しいんだ」

「……そうだよ。君には、故郷はあるかい?」




「ないよ。私のママは、奴隷だったの。私を生かすために、逃げてくれた。そして……」

「死んだんだね。亜人種の奴隷は、誰しもが不幸だ。亜人種に関わらず、奴隷はそうか」

「ママは、戦ったよ。私を逃がしてくれた。それが正しいと信じられたから」

「……君にとってのママが、私にとっての『オルテガ/故郷』なんだよ」




「……そっか。ママのためなら、何だってやれちゃうよね。あなたの気持ちが、ちょっと分かったよ」

「故郷についての教官を求められたら、今後はその思考方法を試すといい……はあ、はあ」

「苦しそうだね。ずいぶんと疲れている」

「……君は、私がうら若き乙女を殺そうとした事実に、どれだけ苦しんだか分からないだろう。君は戦いに慣れている。戦闘で、おかしくなるときはない」




「どうかな。冷静でいられるときなら、おかしくはならない。でも、私は子供だから。冷静でいられないときだって、よくあるよ。たとえば……」

「……言いたいなら、言ってごらん。聞いてあげるよ。旅をする商人は、聞き上手なんだ」

「ビビを、誰かが殺そうとしたって教えられたときだね。ママみたいに大切な親友を、殺されそうになったんだよ。ビビを助けるために、どれだけ私ががんばったのか。あなたには、きっと分からない」

「……痛みは、個人的なものだからね。努力もそうだ。でも……ママ……『オルテガ』を奪われそうになった痛みなら、分かるよ。とても、似ている。すまなかったね……ビビアナ・ジーを、殺したかったわけじゃない……」




―――自問する、本当にそうだったのか?

答えが見つかるはずもない、ビビアナが死ねばジーの一族の力は消えると信じていた。

それでも、乙女を殺すなんて行いが正しいはずもない。

政治的な暗殺でもなく、戦いのどさくさに紛れ込ませて殺すなんて実に卑劣だ……。




「……いずれにしても。私は、恥ずべき行いをしてしまった。褒められた行為じゃない。誰にも顔向けは出来ない…………どうせ、もうすぐ死ぬ…………ああ、ちくしょうめ。正しい生き方をしたかっただけだ……分かってくれるかい?」

「分かっているよ。あなたが分かっていないコトも、ちょっと知っている」

「そうなんだね。賢いよ。ストラウス卿の妹は……なあ、教えてくれるかい」

「いいよ。質問は、受け付ける」




「……どうして、君のママが奴隷だったのに。『人買い』を許せたのかな?」

「『人買い』そのものは、大嫌いだよ。でもね。ビビは悪くない。必死に生きようとしていたら、こうなるしかなかった。必死に、生きようとしている子は、大好きなんだ」

「ママや、自分自身を思い出すから?」

「……そうかも。ビビは、両親から命をもらったの。『狭間』に生まれたからって、憎まれないように……命懸けの嘘で、守ってもらっている。ビビは、その嘘に必死に応えた。自分のママとパパと、メダルドのおっちゃんが大切だから。そういう生き方を感じると、大好きになった。『人買い』っていう職業だけじゃ、嫌えないほどに大好きなだけ」




「……なるほど。必死に生きようとしている、か」

「殺し合いばかりしていると、それがどれだけ大切なのか。よく分かってくるの」

「怖いね。子供らしくない言葉だが……でも、そうだな。実に、ストラウス卿の妹らしい」

「ありがとう。ほめてくれて」




―――そんなつもりの言葉だったのか、シモンは自分自身でも判断がつかなかった。

思考も集中力を保てない、痛みや出血のせいもあるけれど。

『人買い』の被害者が、『人買い』を本当に許せるのかについても考えていたからだ。

ひとつの対象を考えるだけでも、なかなかアタマを使うというのに……。




―――友情は、どういう要素で作られているのか。

シモンは自分の実体験から、分析してみようとした。

シモンの交友関係は、同業者が多い。

遠方の友人もいるが、親しいのは『オルテガ』の周りだけだ……。




―――故郷に執着している自分にとって、他者と最も深く共感し合えるのは。

『オルテガ』を通しての行いだけ、なのかもしれない。

自分の好き嫌いだけじゃなくて、『オルテガ』という環境に影響されているのかも。

ズタボロの体で考えついた答えは、そんなところだった……。




「旅人の友情は、自らの信念が、決めてくれるのかな」

「……言ってるコト、難しくて分からない」

「敵であっても、君は相手に尊敬できる部分を見つけられたら……好きになれるかい?」

「うん。尊敬できる敵は、好きだよ。殺し合う価値があるから」




「……敵じゃなくなるのは、どういうとき?」

「同じ側に立ったときだと思う。ビビは、私の仲間になってくれた。帝国軍と戦う相手。それに……今は、ビビもメダルドのおっちゃんの遺志を継いでる。『人買い』をやめる気だから。私は『人買い』だったふたりを、責めたりしない」

「友情は、甘くなるものだ」

「うん。そうだよ。ヒトは、自分が大切で、正しいと信じられるもののためなら。何だってやれるの。あなたには、よく分かるハナシだと思う」




「……ああ。君にとっては、友情はとても大切なんだね。まあ、私にとっても、そうだ。大切な友人がね、息子を奪われた。帝国軍に……だから、彼の怒りの分まで……戦おうとした。『オルテガ』を守ろうと……」

「いい人だね、お兄さんは」

「そうかな。いや、うん。そうだと、思う。私は善き人間であろうとした。でも、ときどき間違える」

「気にしないでいいよ。もう十分に、罰は受けているから」




「守ろうとした者のひとりに、刺されたしね。これは、自業自得か……」

「教えてあげる。あなたが知らないコトをひとつ」

「……教えてくれ。リトル・ストラウス。私は、何を知らないと?」

「そのナイフ、急所にも刺さっていないし、深さも足りてない。痛いだけで、死なないよ、それぐらいじゃ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ