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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百五十一


―――暴力は不毛なものだと、シモンは主張したくなったが。

若い狂気はいつものように、短慮なものである。

若く貧しい商人は、考える余裕がなく。

ナイフでシモンを斬りつけて、刃が前腕を傷つけた……。




―――痛みは、数秒のあいだはなかったらしい。

ただ強烈な衝撃が、シモンの前腕に当たったように感じただけ。

切れなかったのかと、シモンは安心しようとしたけれど。

すぐさま現実の痛みが、彼の認識に追いついてきたんだ……。




「う、うぐうう……ッ。本当に、斬りつけるとは……ッ」

「あ、当たり前だ!!覚悟がいる。ひるむんじゃない。みんな、立ち止まっているだけでは世の中は変わらないぞ!!」

「……周りを、見てみるといい。落ちついて、深呼吸をするんだ」

「な、何だと……ッ」




「勢いだけで、動くようなものじゃない。周りを変えられる力を使えるのは、一部の英雄だけだよ。私や、君のような……」

「う、うるさい!!」




―――焼け石に水だったよ、ナイフを振り回す若者は激高した。

刃物をコントロールすることは、意外と難しいものだ。

誰かを傷つけたり、殺せたりする機能を持った鋼。

それを手に取ったりすると、心が乗っ取られるときはある……。




―――この若者も、ビビアナを殺しかけたときのシモンと同じ。

本心から殺したかったわけじゃない、でも止まらないときもある。

職人が魂を込めて、長い歴史が姿かたちをあたえたものが武器だ。

こういうものは、シロウトを安易な殺人者に変える……。




―――鋼というものは、ときに鏡よりも語りかけてくる無機物なんだ。

殺して傷つけるためだけにある姿はね、覚悟の足りない魂を支配する。

道具が使われるだけのためにあるなんてことは、ないんだよ。

道具や環境こそが、ヒトの精神も肉体も支配してしまうものだ……。




―――シモンは考えていた、これが一種の罰なのだろうと。

因果応報だという事実も、ちゃんと理解していた。

過ちを犯せば、それ相応の罰を受けるものだから。

ビビアナを殺そうとしたのなら、誰かに殺されかけてもおかしくはない……。




―――おびえていたし、どこか若者の勢いに呑まれていた。

でも、それでもね。

体は心よりも正直者だから、シモンを後ずさりさせている。

斬られる、今度は左の手のひらの肉が深く傷つけられた……。




「や、やめるんだ!彼を殺そうとするな!」

「な、仲間だろ!」

「うるさい!うるさい!!こいつが、甘ちゃんだからだ。こういう甘いヤツを許していたら、オレたちも行き詰まる!!」

「……私を殺したぐらいで、君の人生が良くなると思うのか」




―――正論をぶつけてやるが、どうにも止まりそうにない。

感情的な横殴りの斬撃に、シモンはほほを斬られる。

リーチが長い鋼だったら、死んでいたね。

後ずさりして逃げようとしたが、背後は『オルテガ』の城塞だった……。




―――追い詰められたシモンは、死を覚悟する。

自分はもっと交渉上手だと信じていたが、そうでもないらしい。

戦闘が終わったばかりだったから、もう少し時間を空けるべきだったのかも。

落ち着くための時間が足りたのは、自分だけだったか……。




―――ちょっとしたことで、ヒトの命は失われる。

戦場の近くでは、その傾向が異常なまでに加速した。

ナイフがシモンの腹に、突き立てられてしまう。

大きな衝撃と、暴れるような熱に襲われたよ……。




「ほ、本当に刺しちまいやがった……っ」

「なんて、ことを……」

「う、うるさい!こ、これからは、お、オレが仕切る!!逆らえば、コイツみたいに……」

「同胞を殺そうとするリーダーなんて、目指すべきじゃないと思うよ」




―――死にそうなほどに痛いから、最後に助言をしてやることにしたようだ。

ナイフから手を放して、後ずさりする若者。

それが、つい先ほどの自分とかぶって見えた。

とても滑稽であるし、場違いというか実力が足りない……。




―――震えて、怯えて。

誰かを殺す覚悟さえも足りなくて、実力のなさと対面したくない。

同じ現象だよ、どれほど威圧的になろうとも周りを従わせる能力がなかった。

暴力を使ったリーダーシップは、向き不向きがあるよ……。




「そういうのは、私や君みたいな……ただの商人には、向いていない。覚悟がね、足りないんだよ。怖いだろ。殺すつもりはなかったと、謝罪したくなる。反論さえも、やれはしないんだ。暴走するような勇気も、持てちゃいない……無理は、するものじゃないよ。じゃないと、いつか……大きなしっぺ返しを」

「う、うるさい!!オレと……オレを……分かっているようなふりをするな!!」




―――震える手で、ぶん殴られる。

路地裏の片隅に、腰から倒れていた。

本職の戦士だったら、ナイフを握り直してえぐっていたのに。

この若者は本物の殺人者には、なりたくないらしい……。




―――当たり前だ、そういう生き方をしたかったわけじゃないんだから。

なりたかったのは、冷静で知的な商人だよ。

路地裏で誰かを刺したり殴ったりするような、つまらないゴミじゃない。

シモンは腹にナイフを突き立てられたまま、じっとりと若者を見上げた……。




「それで……本気で、殺すのかな?そういうの、向いていないの、自覚したんじゃないかい?」

「う、うるさい!!挑発するんじゃねえよ!!」

「助言をしているだけだ。感情的になると、いつだって損をする。商いをしていれば、よく分かるだろう」

「年上ぶるな!!説教じみた言葉を、あんたごときがオレにするんじゃない!!」




―――シモンにも悪癖がある、土壇場での度胸があるのさ。

優秀な戦士並みとは言わないが、人並み以上にはある。

だから、そのせいで相手を加害者にしてしまうこともあった。

どこか自暴自棄になって、弱いくせに偉そうな振る舞いをする……。




―――場合においては、度胸も人生に役に立つけれど。

今このときには、必ずしもそうであるとは言えない状況だった。

感情的にさせてしまった若者が、武装していた知人から剣を奪い取る。

それを振り上げると、シモン目掛けて斬りかかっていたよ……。




―――殺されると、覚悟した瞬間。

シモンはいつものように反省した、『次に生かすために』。

ああ、次なんてもうないのかと理解すると。

どうにも怖くて仕方がない、「母さん」と亡くなった母親を呼ぶ……。





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