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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百五十


―――戦士たちが警戒するなか、商人や専門家たちも奮闘していたわけだ。

あらゆる備えが必要であり、どこで何が身を助けるか分からない。

メダルドにより許されて、多少は罪悪感から解放されたシモン。

彼も努力をしていたよ、タカ派で暴力的な商人仲間に釘を刺して回る……。




―――暴走しそうな者たちは、あちこちにいたからね。

そういう連中を無視することにはリスクがあるから、シモンはいい治安維持要員だった。

不満や不安を聞いてやるだけでも、ずいぶんと心は落ちつくものだよ。

極端な愛国心を持つ者たちは、およその場合で孤立しているからね……。




―――愛国心ごっこをしている連中が、実のところは大半なんだけれど。

ただ社交を楽しんだり、利用したりしているような連中がほとんどになる。

恐ろしくて、暴走しそうな連中は純度があって孤独なものだ。

利益や常識や政治的な流れにさえも従えず、ただ暴発をしてしまう……。




―――ほとんどの者には、理性が利くものだけれど。

孤独な純粋さには愛国者気取りの連中と、あまりにも反りが悪い。

似て非なるもので、管理が出来ないのは統治する側としては大問題だった。

そんな連中の心を落ち着ける最大の方法は、孤立させないことだった……。




―――シモンは暴走するほどの愛国心や、郷土への愛情というものを理解する。

何せ、その典型的ではなくて極端な体現者だったからね。

自分の理性や常識、果ては政治信条にさえ反してビビアナを殺しかけたんだ。

戦場がさせた気の迷いでしかなく、自分の意志を奪い取ったそれはもちろん不本意さ……。




「こんな感覚を、私以外にだって背負わせるべきじゃない。そうだろう。何ていう、居心地の悪さなのだろう。痛みがあるよ。苦しみもあるんだ。自分が自分じゃなくなった、自分に責任を持てない感覚……ああまで、ヒトは追い詰められるものじゃない」




―――不満を語る小規模な商人たち、彼らは政変の際に生まれる儲けの祝福を得られない。

およそ暴走する連中の大半は、貧乏人だよ。

全員じゃなくて、金持ちにだっているけれど。

ほとんどの場合、貧乏人なのが現実だった……。




―――世の中への不満を多く抱えているからこそ、怖くなる。

戦争という強引な手法で、世の中の形が無理やり変えられてしまう。

そんな状況においては、貧しくて孤立している思想の持ち主たちは軽んじられる。

それが現実というもの、その現実の痛みを誰よりも貧乏な若者たちは知っていた……。




「……多くの、不満があると思う。それに、不安もだ。これから、自分たちの立場が良くなるなんて思えないんだろ。でも、安心してくれ。私は、君たちと分かり合いたい。救ってやれるほど、金持ちじゃないけれど……いっしょに、がんばってやれることは出来るんだ。ちっぽけでも、無力じゃないよ。だから、落ちついてくれ。暴走するときじゃない」




―――頼りになるとまでは、言えなくてもね。

愚痴を吐き出させてくれるだけでも、暴走はずいぶんと減るものだ。

若く貧しい者たちは、基本的に恐れているだけだからね。

怖くなると、視野狭窄が見えて状況判断がやれなくなる……。




―――シモンは、その事実をよく理解しているよ。

その力学の犠牲者であり、体現者だったからね。

余裕があれば、冷静であったとすれば。

ビビアナを殺そうとはしなかったんだ、彼はそこまで愚かというわけじゃない……。




―――シモンが会いに回った連中も、基本的には善良で純粋な人々だった。

利他的であろうとする行いが、なけなしの自尊心を守っているような連中もいたけれど。

誰もが世間に打ち負かされている、弱々しくて決定権のない弱者たちだ。

シモンは連中の恐怖心に共鳴してやれたし、自暴自棄になるリスクを教えてもやれる……。




―――リーダーシップめいたものを、彼はちゃんと持っていたからね。

真に利他的で、面倒見のいい人物でもある。

ソルジェに『ルファード』の地図を渡したりするほど、積極性もあったけれど。

彼の心からの説得には、同じ弱者たちは耳を貸してくれたのさ……。




「親方たちからも、ストラウス卿に従えと言われた。それに……ジーの一族も、動いているみたいだ。『オルテガ』は、あいつらに掌握されちまうのか?」

「歴史は取り戻す。古くからの芸術品だとか……知っているだろ?私たちが子供の頃から、噴水広場には美しい女神の石像があった。あれが、戻って来るんだ。帝国に奪われた、歴史がひとつずつ、戻る。それは、私たち『オルテガ』の民の記憶を補完してくれるものだ。私たちは、自分たち自身であり続けられる。私たちは、それほど弱くはない。信じていい」




―――『オルテガ』の若い商人たちは、それなりに学力がありもした。

商人という人種は基本的に勤勉なもので、親たちも子供に対して金をかけた教育を行う。

『王無き土地』というか、中海近隣地域の特徴だろうね。

大学をたくさん創設するほど、この土地は学問に対して熱心なのさ……。




―――若く政治的には無力な商人たちであっても、学問的な話題に心惹かれた。

より野蛮な土地であれば、美術品が持つ民族的な価値なんて理解しない。

文化財がどれほど、自分たちの歴史を保障する存在なのかを知っているんだ。

なかなか賢くて、感心すべき学力の持ち主たちだった……。




―――そういう連中に対しては、やはり部外者よりも内輪の賢い年上あたりが有効だ。

シモンはちょうどいい兄貴分といったポジションに、就任してくれている。

苦しみを共有するだけでも、若者たちは落ちついていったよ。

シモンに対しても、一種の尊敬を持っていた……。




―――誰よりもテロリスト的なまでに、愛国者ではあったからね。

正しい行いではなかっただろうし、ビビアナを拉致してもソルジェを怒らせるだけ。

どう転んでも『オルテガ』に対して、有益ではなかっただろう。

それでも、行動に出て瞬間からある種のカリスマがシモンには宿っていた……。




―――シモンが会って回った若者たちは、シモンほど行動的にはなれなかったから。

あのとき、『オルテガ』のためを思って最も暴走できた人物がシモンである。

貧しい弱小商人の若者たちは、シモンほど勇敢ではなかったんだ。

シモンは実に、彼らの愚痴を聞く相手としては正しかったよ……。




―――それに、良くも悪くも。

いいガス抜きの相手になってくれたね、対話だけでは耐え切れない連中の。

言葉だけで説得が可能な相手ばかりとは、もちろんいかないから。

今にもジーの一族を襲撃しようとしていた連中まで、言葉で止める力量はない……。




「この、臆病者が!今こそ、行動に移すべきときだ!『自由同盟』に加盟するのは、構わねえ!だが、『ルファード』に支配されるわけにはいかん!」

「安心しろ。ジーの一族も、それは理解している」

「臆しているんだ!お前は……我々にとって必要なのは、暴走的な勇気だろ!」

「……おい。ナイフを抜くな。それで、何をするつもりだ……」




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