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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百四十五


―――『ストラウス商会』の『残党狩り』は、かなり効率的だった。

近隣に潜んでいた帝国兵どもも、女神イースの権能のせいで疲弊していたからだ。

昨日の戦闘から逃げ出した連中だから、そもそも疲れていたことも大きい。

吹雪にかき消された足音さえも追いかけられる勇者たちは、十分にいい仕事をする……。




―――帝国兵たちの隠れている小屋を見つければ、怒鳴り散らして急き立てた。

実際には禁じられているが、嘘ならば許される。

「焼き払うぞ!」と言えば、帝国兵どもは小屋からだって出てくるよ。

帝国兵側の略奪を目の当たりにする瞬間もあれば、怯えた負傷兵と出会う瞬間もある……。




―――勝者が略奪者になるのは、一種の権利みたいなものだけれど。

敗者でも略奪者になるのが、戦場という空間の困ったことのひとつかもしれない。

勝敗かかわらずに、残酷な行為に走る者たちが生まれるものだ。

ある帝国兵の一団は、市民から食料と金銭と女性たちを略奪しようとしていた……。




―――ありふれた光景だけど、見逃されてばかりではない。

ディアロスの戦士たちは、間違いなく北方野蛮人の血を見に流しているからね。

正義感だけでなく、戦いの兆しに体は喜んだよ。

降伏しなければ殺す、彼らの哲学は非常に明解だったんだ……。




―――略奪をしていた帝国兵どもにも、それなりの理由はある。

腹が空いていたとか、ちょっとお金が欲しかったからだとか。

それだけの理由でもあれば、戦場では略奪が起きるものだ。

命や道徳観念や倫理観が、とても軽んじられている場所だからね……。




―――片っぱしから、殺されていく。

逃げ出す帝国兵どもは、ユニコーンの速さを思い知ったよ。

一瞬で先回りされてしまい、極北の疾風に吹かれたかのように体は凍てついた。

『降伏させたい』と考えていたわけでもないから、次の瞬間は槍に突き殺されるだけ……。




―――抵抗はするが、歯が立つとは限らない。

乗り手と心を完璧に通わすユニコーンは、それ単体でも強烈無比な猛獣の王だった。

ただの馬でさえ、暴れ出したら普通の者には手が付けられないんだよ。

それがヒト並みの知性と、馬の何倍もある身体能力だったらどうすればいいのか……。




―――戦場で隊伍を組んでいれば、騎兵の群れにだって対処は難しくない。

でも、ユニコーン騎兵だって矢の雨の前には苦戦だってする。

しかし、疲れ果てた帝国兵が少数しかいないんだ。

どうしようもなく、圧倒されるだけだったよ……。




―――帝国兵どもが狙ったのは、亜人種の村ではない。

人間族の村や集落、屋敷といったところだね。

亜人種ならば抵抗されるリスクが高いから、人間族を襲うことにしたんだ。

同じ種族同士だから同情的になって、油断してくれるかもしれないから襲いやすい……。




―――追い詰められた戦士たちが選ぶ行動は、古今東西変わるものじゃないよ。

自分より弱そうで、自分に同情してくれる者たちを食い物にしようと企むんだ。

真の勇者や英雄は、自制が利くかもしれない。

でも、職業倫理を守る戦士だけとは限らないのが現実だった……。




―――殺された男を見つけるし、犯されて殺された女や子供も見つかる。

ユニコーン騎兵は知っていたよ、ベテランの戦士たちだからね。

そういった光景に出遭うはめになるのは、よく分かっていたんだ。

ありふれた当然の光景だから、彼らも残酷さで応じるだけだよ……。




「た、助けてくれ!!」

「こ、降参するよ!!す、ストラウス卿の捕虜になる!!」




―――ソルジェの名前を口にした者は、殺さなかった。

どちらも生かしておくには値しない鬼畜どもだけど、情報源にはなりそうだから。

自分たちに同情的だった家族を殺して犯して、お金と食料を奪おうとしていた男。

利己的な男だから、自分が生き延びるためには多くの情報を口にするだろう……。




―――聞こえないふりをして、殺したのは一人だけ。

それが手向けになるかもしれないと、ユニコーン騎兵のひとりは考えることにした。

この生きるに値しない帝国兵の所業は、尋問者にしっかり伝えておきたい。

もしも捕虜交換で帝国軍に戻る日が来たら、この残酷な所業も帝国側に伝えておこう……。




―――それで正義が成されるとは、限らないけれどね。

古今東西、あらゆる軍隊がそうであるように。

所属した兵士の横暴さは、およそ見過ごされてしまうものだから。

軍隊は残酷さを売りにすることもあるし、宣伝することもある……。




―――残酷な軍隊だったら、相手だって戦いたくもないからね。

相手に怖がってもらえると、軍事行動は極めて楽になるから暴虐も見過ごす。

正しいことではない、ただありふれているだけのこと。

もちろん、それはこちらにも言えることだ……。




「縛るのは面倒だ。切り落としてやろう。その腕も」




―――北方野蛮人の正義は、いつだって苛烈であり原初の風格を持っている。

悪人だと思える者から悪意を取り除けはしないから、やれないようにしてやればいい。

残酷かもしれないけれど、それで何かが救われもする。

お互い様だよ、邪悪さまでを否定するほど傲慢な者になりたくはない……。




―――悲鳴が上がり、悪人の邪悪な右腕が飛ぶ。

殺された市民たちの怨霊が聞いていれば、笑顔になってくれたかもしれない。

酷い目に遭わされたときは、誰だってやさしくなれないものだ。

開いたままの目を閉じて、野蛮な北方の勇者は捕虜を歩かせながら尋問開始だ……。




「もう一本の腕を落とされたくなかったら、貴様らのクソみたいな仲間がどこに逃げやがったのか吐きやがれ!!」

「は、はいっ!!なんでもいうから、ころさないでください!!」




―――よく話してくれたよ、戦場で最も軽蔑される者らしく。

自分のために仲間を裏切れる男は、いつだって嫌われるものだ。

仲間からすれば助ける価値も、大してないのに助ける努力を強いられるかも。

当然ながら、そういった瞬間に戦士は虚無や嫌悪を覚えるものだった……。




―――どうあれ、『残党狩り』は順調だったよ。

リヒトホーフェンが使っていた『蟲』は、『ギルガレア』の敗北で消え去った。

その影響下で忠誠心を高めていた帝国兵は、もういないということさ。

『ゴルゴホの蟲』も消えてくれたら、我々とすればありがったけれど……。




―――分化してから、多くの歴史が流れ過ぎたせいなのか。

今となっては独立した生き物らしいから、きっと死んではいないだろう。

『ゼルアガ/侵略神』の性質を、色々と考察したくなるよね。

『ゼルアガ』の呪いで生まれるらしい魔物たちが、『ゼルアガ』が滅びても残る……。




―――『蟲』どもは、もしかすると魔物の一種なのかもしれないとか。

一部の学者にでも、この情報と推論を与えて考えさせてみたいところだよ。

魔物の起源についてさえ、我々の学問はいまだに解明し切っていないからね。

竜が『ゼルアガ』の影響で生まれたかは知らないけれど、もしそうなら……。




―――竜たちの神みたいな悪神だって、いるかもしれないからね。

ああ、なんともソルジェやミアがワクワクしてしまいそうな考えだ。

だから、これはふたりには可能な限り言わないでおきたい。

うん、そうだ……。




―――ボクは、色々と神経過敏になっている。

『トリックスター』だとか、他の神々だとか。

そういった力が、我々に絡み始めているからね。

世の中の悪意には、偶然なんてないものさ……。




―――『狐』としては、危機管理のために慎重な足運びを使いたい。

過度な『深み』に迷い込まないように、あらゆる脅威と適切な関係でいたいんだ。

困ったことだ、悩みを抱え込むと寝不足に陥りやすいというのにね。

とりあえず、『残党狩り』が最高の形に終わったのはありがたいよ……。




―――ガンダラの指摘した通り、その病院には帝国軍人たちが逃げ込んでいた。

負傷者も多いが、報復の意志も十分にある男たちだ。

戦闘になるかとユニコーン騎兵たちは『期待した』けれど、そうはならなかった。

病院に迷惑をかけたくはないと、あちらも考えてくれていたのさ……。




―――誰しもが、ろくでなしというわけでもない。

彼らは比較的、理性が利いた集団ではあった。

リヒトホーフェンの腹心であり娘の恋人、ゼベダイ・ジスの部下だ。

リヒトホーフェンよりも、ゼベダイ・ジスに心酔している質の高い兵士たち……。




「粗暴な真似はしなように。我々は、抵抗はしない」




―――抵抗しなかった理由に、ユニコーン騎兵たちは懸念を抱く。

『オルテガ』に送れば、そこで脱走や破壊工作を企むかもしれない。

自分たちよりもずっと長く、『オルテガ』にいた敵兵は何を企むことか。

それでも、捕虜になると言われれば断れなかった……。




―――そのあたりも、理解して有利な戦術を採っている。

こういった兵士が、帝国にいるのは嫌なことだ。

何せ人数が多いから、賢くて有能な人材も流れ込んでくる。

まあ、ガルフの理論がまたひとつ正しいと証明された瞬間だね……。




―――戦場で職業倫理を守る、そんな戦士は敵であっても一種の尊敬を得られるものさ。

この敵兵どももそれを理解していたし、ソルジェが捕虜を取るとも信じていた。

軍人としての名声が、少しずつ広まってもいるわけだよ。

ガルーナ王になる男は、英雄としての力を敵にさえ広めつつある……。





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