第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その四百四十二
―――『ストラウス商会』に合流しようとした矢先、「疲れている」と追い返される。
そんな立場なのが、今のパロムだったけれどね。
堂々としている見た目なのは、素晴らしいということさ。
損することは、あまりないのだから……。
「フフフ。宣言してやりましたよ!」
「う、うむ。何だか、『ストラウス商会』の代表であるかのようだったぞ」
「代表は社長であり、ロロカ副社長。私たちは命令を受ければ突撃あるのみの立場です」
「それなのに、あんな発言していいのか?」
「…………ふむ。問題は、ない!……はず」
「はあ。まあ、ソルジェ・ストラウスならば、ビビの願いを無視することもないだろう」
「ですよね!良かった。うむ。問題ない。ない。ない」
「心細くなっているじゃないか。勢いだけでは、世の中は渡れないぞ」
「うるさいですよ。私と『曙』はそもそも成すべきことが決まっているんです。あなたはどうするつもりですか?」
「……多くのことをしたい。だが、しばらくは、ビビのそばにいてやらねばならない。メダルド・ジーは、帰れなかったから」
「それもいいでしょう。友情を支え合うの行いは、美しいですから」
「友情か。そうだな。そのために、私は命を捧げられると知った。救えなかった命もあるが、それだけに……生きている者を守りたい。ま、まあ。大それたことは言えない現状ではあるな。ボロボロだし、どこの教会や寺院にも所属できていない身だ……」
「…………ふむ。あなたも、なんだか、『狭間』のようですね」
「人間族、なのだが?」
「見た目や、種族そのものではないですよ。ただ、何だか、何処にも居場所がないような立場だなと……」
「び、ビビに保護されるかもしれんぞ!?居場所は、一応はある。む、無職なだけで……っ」
―――『カール・メアー』であり、『狭間』と亜人種を親友と呼ぶ者がいる。
ずいぶんとヘンテコな存在なのは、間違いがないよね。
パロムはそれほど思慮深くもないし、ほとんど直感的に生きている立場だから。
目の前にいるヘンテコな存在に、『狭間』を感じ取っている……。
―――さまざまな勢力の狭間で、どこにも所属できていない哀れな者。
無職で生き抜く力もないくせに、それでいて。
どこか『自由』で気高く、やさしさを感じさせる者。
単純な乙女は腕を組みながら決めたのだ、自分の信じる道を行こう……。
「『ストラウス商会』に、来ますか?」
「……え、ええ?その、えーと……」
「嫌ならかまいません。別に無理にとは、言いませんから。ユニコーンもあなたにはいませんし、馬も持っていないですよね?」
「高級品であるからな。き、基本は、徒歩と駅馬車だぞ……っ」
「輸送能力は、皆無ですね。うん。本当に、役立たず」
「うわっ。気にしていることを……っ」
「無職に対して、世の中は厳しいものです。破門されたら、尼僧でもありませんし」
「は、破門されたような、されてはいないような……だが、お山には、まだ帰れん。皆に、新たな教義を伝えたいのだが。その教義は、まだ私のなかで、言葉になっていないというか」
「つまり、ただの無職ですね」
「……う、うう。ダメ人間みたいだから、そう言うな……っ」
「商いの役にも立ちそうには、ありませんね」
「ご、護衛ならやれるぞ。腕っぷしは、ある方だ……あいたたたっ」
―――ちょっと指でつつかれるだけでも、体のあちこちに痛みが走る。
致命傷ではないし、若い乙女だからね。
遠からず回復するだろうけれど、なかなかの重傷だ。
護衛を務められるようには、とてもじゃないが思えない……。
「『狭間』の友人に、寄生すると」
「き、寄生などと、言うんじゃない。人聞きが悪すぎるぞ」
「では、『ストラウス商会』に来ませんか?私もしたことはありませんが、事務処理の仕事などなど、あるようです。読み書きと数学的素養があれば問題ないかと」
「どっちも……やれる。数学的要素とやらには、あまり自信はないが……っ」
「なら、決まりですね。事務仕事は特別な技巧や知識は不要、誰でもやれるらしい仕事らしいので。たぶん、あなたでも、問題はないでしょう。遠からず『オルテガ』支部が置かれるらしいので、そこで働いてもらうというのはどうでしょうか」
「無職では、悲し過ぎるからな。ミアやビビが、あれほどがんばっているのに……」
「女神イースに、単独で戦いを挑んだのなら、十分にがんばってはいますが……」
「無職は、いやだ!恥ずかしい……っ。自覚すると、すごく顔が赤くなってきたぞ!わ、私は、マジメなんだ!!そこそこ優等生だったのだ!!無遅刻無欠席、いつも元気にひたむきな美少女……っ」
「美少女とか言わないでください。笑えますので」
「たのむう、パロムっ!!掃除でも事務仕事でも、なんでもするから!!無職というみじめな虫けらのよーな立場から、救ってくれ……っ!!」
「ええ。分かりました。たぶん、雇ってもらえるでしょう。『カール・メアー』の巫女戦士であったのは、かつてのハナシ。あなたは、今ではもう行く当てもなければ、職もない。ただの無職なのですから」
「うう。体がズタボロな状態で、心までズタボロにされていくようだ……っ。悪気がない分、ストレートにボコボコにされていく……っ」
「大丈夫ですか?ずいぶんと、落ち込んでいるようですが?喜ぶべきですよ、たぶん、就職先ができたのですから。あなたみたいにズタボロで役に立たなそうでも」
「ぐうっ。が、がんばるから。仕事、がんばるからあ……っ」
「あ。そうだ」
「な、なんだ?」
「戦があれば、たくさんの人たちが傷つきますよね。あなたみたいに、役立たずになるかもしれない」
「うぐっ。う、うう。そのうち、体力回復するからなっ」
「だから。思ったんですよ。傷つき、疲れ果てた戦士たちにも職をあたえる。『ストラウス商会』は、事務員とやらの働き口があるのですから。何も、戦えなくなったからといって、無職でいつづける必要もない」
「……おお。そうだな。とても、良いことを言っていると思うぞ。パロムよ。それは、私の道にも通じるような気がしているのだ。真の、女神イースの慈悲……やさしくて、強くて、弱き者を守るための道なのだ!」
―――瞳の奥に不思議な力があるのだと、パロムはフリジアを評価する。
それは偉大な魂のかがやきかもしれないね、フリジアの夢は実のところかなり壮大だから。
大きな力を、戦士は感じ取って好むものだよ。
フリジアは、いつか大きな指導者になるかもしれない……。
―――それはパロムが『狭間』のために抱いた感情と、根っこでつながる哲学の体現者だ。
今はまだ、パロムもフリジアも若くて弱い芽でしかないけれど。
『未来』では、大樹のような存在になれるかもしれない。
『狭間』や負傷兵、『社会的弱者』に具体的な居場所をあたえようと考えられるなんて……。
―――なかなか大した視野の広さだし、純粋かつやさしさがあっていいものさ。
世界をぶっ壊して変えてしまうのは、戦士たちの暴力。
壊れた世界を修復するのは、商人たちの経済。
誰かに救ってもらわないといけないほど、立場が弱い者たちには……。
「弱い者たちのためにあってこそ、本当の慈悲なのだ!!がんばるぞ、教義の研究にも、きっとつながるのだ!!今は、ケガが治るまでもいいから、働くのだ!!弱っちくても、役に立てる……それを証明すれば、弱っちい者たちに、道をあたえられる!!」
―――若者たちの出会いは、とても大切なものだよね。
フリジアと出会ったことで、パロムも大きな視野を獲得していく。
憎悪の対象であったはずの、『カール・メアー』の巫女戦士。
それが、今は何ともかがやいて見えるのだから……。




