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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百三十四


―――目の前の男のことを過小評価していたのかもしれないと、ブッチは考える。

すべての罪を告白する気はないのかもしれないが、危険な事実を口にしようとしていた。

もう少し臆病で、もっとまともな小市民だと認識していたのは間違いか。

災いをもたらすリスクも含みながら、身一つで商売するのは商人らしくもあるけれど……。




―――交渉を仕掛ける相手は、あのメダルド・ジーだというのに。

どこか威圧的な態度で、挑もうとしている。

最悪の場合は、この場で殺されるかもしれない。

ジーの一族が護身術以上の武術を習っていることは、ブッチの耳にも入っていた……。




「……トラブルか。不穏な言葉ではあるな」

「そうだよ。私は、メダルド・ジーにとって大切な人物を危険にさらしたんだからね」




―――メダルドは無言となる、シモンの発言を慎重に取り扱うべきだと理解した。

もしものときは、血を見ることになってしまう。

それは避けるべきだったが、どうしようもないときはシモンの提案に従おう。

この姿で意識を取り戻したとき、ナイフを持っていることを確認していた……。




―――『カール・メアー』の巫女戦士の身体となったとき、彼女の武装も継承している。

ナイフがあった、鋭く尖った業物を有しているよ。

ジーの一族の護身術は、商人の武術だ。

隠しもった鋼の一撃で、相手を暗殺するための技巧である……。




―――それを、使うことにしよう。

ビビアナを

ビビアナを危険にさらしたという男だけを、殺すことで。

報復合戦や政争の原因にならないように、この男だけを殺せばいい。

もちろん、誰も死なないことがベストではあるが……。




―――多くの出来事に遭遇し、記憶もいまだに定まらない状態の自分が。

完璧に心を統制できるとは、まったくもって限らないのだからね。

普段ならば、理性が利いたはず。

だが、今はまったくもって自信を持てない……。




「そ、そのハナシは……ここですべきことかな?すでに、良い条件を提示してもらっているじゃないかね」




―――タイズンという男は、日和見主義なところもあった。

危険を察知してしまっているし、彼はメダルドの過去も知っている。

『人買い』ジーの一族の栄華を守るために、血なまぐさいことだって平気でしてきた。

状況の悪化は避けたい、すでに良き流れに彼は乗っているのだしね……。




「いいや。必要なことだよ、ミスター・タイズン。私の口から出てしまった言葉を、彼女も……いや、彼も、聞き流せはしない」

「……そうだ。だが、安心しろ。オレは理性的だよ、トーリー・タイズン」

「そ、そうであることを願おう。いいかね。結束だ。それが、重要だということを、君たちは理解している。そう信じているよ」

「……もちろん。では、話してくれるか、シモンよ」




「すべては語れないが、ある人物たちが中心となり、ビビアナ・ジーの『確保』を計画することになった」

「……なるほど。確保か。つまりは、誘拐」

「そ、そういう過激な言い方は……誤解を招くかもしれない」

「やめとけ、タイズン。オレたち『部外者』が、立ち入れるハナシじゃねえよ」




―――部外者、その言葉で逃げたがったのだ。

当然のことだと、ブッチは考えている。

ビビアナの暗殺未遂だとか誘拐未遂には、自分はまったくもって関わっていない。

それはタイズンも同じこと、これ以上の厄介ごとをふたりは背負う責任はなかった……。




「わ、わかった。それでは、見守っておこう……」

「……誰の、引き金かは言えるか?」

「それは言えないね。双方のためだ」

「……なるほど。言わなければ、お前だけが死ぬことになると」




「かまわない。それで、君の……メダルド・ジーの怒りが収まるのならば、問題はない。私は、とっくに覚悟を決めているんだよ」

「……ビビは、無事だった」

「そうだ。結果的に、無事だった。私は、彼女を拉致しようとしたし、彼女を……殺しかけてしまったんだ」

「……ああ、そうか。だから、お前は、自分の命を差し出す気があるわけだ」




「いかにも。逃げて隠れるつもりだったが、そちらが私の求めたものを返還してくれるのならば、私の命だけですべてを清算したい」

「……オレが、それを認めると?」

「分からないよ。メダルド・ジーは、姪のためなら何でもする男らしいから」

「……ビビを狙う計画は、まだ生きているのか?」




「いいや。安心してくれていい。計画していた人物たちは、私の暴走を聞いて蒼褪めていたよ。拉致まではするつもりだったけれど、まさか殺しかけるなんて……彼らも、それを望んではいなかった。ストラウス卿が、怖いからだし、覚悟のほども知れるだろう」

「……なるほど。思い当たる人物が、いくらか思い浮かぶ」

「『殺す価値』も、彼らにはない。私よりも『オルテガ』を愛する気持ちはないし、私ほど暴走できるような立場でもないんだ。だから、彼らが誰かなんて、予想する必要はない。現場で暴走してしまったのは、あくまで私だけ」

「……お前が暴走するなら、お前の仲間もそうなる」




「否定はできない。それは、当然だろう。誰もが帝国軍を怖がっている。連中が戻ってくることをね。でも、それと同時に『ルファード』も怖い。ストラウス卿と君らの一族が懇意であれば、『王無き土地』の伝統を破壊して、君らに『オルテガ』の支配権を授けるかもしれない。あるいは、彼自身が『オルテガ』の王になろうとするかも」

「……ストラウス卿は、そんな愚かな真似はしないさ」

「どうだろうか。こんな乱世だからね。誰もが、軍事的野心を抱くかもしれない。英雄には、支配者を夢見る権利は十分にあるじゃないか。その実力もね」

「……オレたちを、恐れているわけか」




「もちろん。でも、そちらも破滅的な内輪揉めは避けたいはずだ。ビビアナ・ジーは、すでに『狭間』という出自が公に露呈してしまった。暗殺されるリスクは増える。私は、彼女が『狭間』だから殺しかけたわけじゃない。それだけは、断言できる。政治的な理由と、おそらく戦場の緊張感のせいで、暴発した……ジーの一族が消えれば、安心できると信じた。視野狭窄だよ」

「……戦場では、そうもなる。まして、一流の戦士というわけでもない。ただの商人だ」

「そうだ。でも、私以外までは、責任が持てない。『狭間』は、それだけで嫌われている。理不尽だと思うよ。でも、世の中は偏見が支配しているし、理不尽なことだって起きるものだから」

「……脅しているのか。お前を殺せば、周りがより暴走すると?」




「そうじゃないよ。分かっているはずだ。『狭間』の姪について、私よりもそっちの方が真剣に考えていた。彼女は、ずっと危険にさらされる。彼女の危険がいくらかやわらぐことがあるとすれば……帝国を『自由同盟』が倒したときぐらいだ」

「……そうだ。そのために……」

「協力し合いたい。耐えがたいことを、お互いにしようじゃないか。やれるかな?やれないなら、私の首でも取るがいい」

「……それだけの価値が、ある首だとでも?」




「私が、こつ然と『オルテガ』から姿を消しても、誰も損をすることはない。君の気は晴れるだろうし、私のような下っ端の商人たちはウワサする。ストラウス卿の報復があったと。商人たちを抑制する恐怖には、十分だよ。私を殺して、ブッチに処理でもさせればいい」

「おい。肉屋に対する偏見だぞ。人肉なんざ、取り扱う気はねえからな!」

「ああ。失敬。言葉のあやというものだ。とにかく、自称メダルド・ジー。君に選択を委ねるよ。耐えがたい罪人を、そちらはどこまで許せる?結束が欲しい。あり得ないほどの結束が。そのために、どこまで毒を呑めるのかな?」

「…………すべては、ビビのためだ」




―――ナイフを抜いて、床に投げつけた。

『オルテガ』の商人たちは、床板に深々と突き立てられたナイフに視線を向ける。

誰もが恐怖と、困惑を抱えていた。

これは許されたという意味か、あるいは……。




「……古い伝統に、乗っ取るとしようじゃないか。この職人街あたりには、あの神の伝統が残っているんだろう。罪科の獣『ギルガレア』の伝統が。オレも、少しはくわしい。今度のことで調べさせたし、あの神の力と意義を、目撃した者のひとりだ。『ギルガレア』に、血をもって誓おうじゃないか。互いのために、歩み寄ると。そのために、血で契約を交わそう」




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