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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百三十三


―――シモンはこの偶然を、どう判断するべきか迷っていたよ。

本当にこの乙女がメダルドなのかも、疑っている。

役者でも雇って、演技をさせているのかもしれない。

狡猾なる『人買い』、『ルファード』を支配するジーの一族ならばやりかねない……。




―――自分のことを、罠にはめようとしているのかも。

ビビアナを暗殺しかけた自分に、メダルドと自称する乙女が遭遇している。

これが偶然なのか、それともジーの一族の陰謀なのか。

どちらの可能性が高いのかを比較すれば、常識的な判断を下すほかにない……。




「君が、本当にメダルド・ジーだと仮定しよう」

「……疑り深いな。まあ、当然だろうか」

「『オルテガ』と『ルファード』は、政治的なライバルだよ。だが、言っておく」

「……聞こうじゃないか、商人シモン」




「私は、亜人種を嫌ってはいない。巨人族の友人たちもいる。ブッチは、それを証明してくれるだろう」

「おい、オレを巻き込むなよ」

「巻き込むに決まっているさ。証明して欲しいし、そもそも、こちらの方が言っているのは『オルテガ』末端の商人たちが、暴発しないようにとのこと。君も、当事者なんだよ、ブッチ」

「脅すような顔で、見るんじゃねえ」




―――ブッチはシモンの不安定さを、感じ取ってしまう。

この男は、善良であり真っ当な商人ではあるものの。

それだけに、信じられない部分もある。

自制心に期待したいところだが、どう転ぶかは分からない……。




―――もしものときは、ぶん殴ることになるだろう。

シモンに付き合って、ソルジェの敵になりたくはないのだ。

そもそも、ソルジェたちの目指す方向性を好んでいる。

巨人族の商人は、これまで以上に働きやすくなるはずだから……。




「私は、亜人種に対して差別的ではないだろう?なあ、ブッチ」

「ああ。そうだ。お前は巨人族の友人が複数いる」

「この通り、私は亜人種に憎悪も怒りも持ってはいない」

「……『狭間』に対しては、どうだ?」




―――即答すべきだったが、シモンは素直だった。

メダルドの術中にはまっている、商人としてのキャリアと実力では勝てない。

メダルドは鑑定し、見切っているんだよ。

シモンの感情のなかにある、何かしらの葛藤をね……。




「答えるべきかな。自称メダルド・ジー」

「……答えてくれれば、助かるよ。誤解を解くための努力をしたい」

「誤解ね。私は、『狭間』も嫌ってはいない。潜在的な部分では、自分でも分からないけれど。人種にまつわる差別を、是としようとは思っていない」

「……ならば、問題はない」




「問題ない、だって?『オルテガ』商人が、どこまで『ルファード』へ協力的になるべきだ?……結束が生まれるのはかまわないよ。でもね、裏切られるかもしれない。歴史が、我々の不仲をよく教えてくれているはず」

「……ああ。そうだな。だからこそ、さまざまな交渉をしたい。ビビは、上とは上手くやれるだろう。だが、末端までは、君たちのような商いの現場で生きる、生粋の商人との交渉術は未熟だ。オレが、そこまではさせなかったからな」

「『狭間』であることを、隠そうとした結果だろう。『狭間』が世間から与えられている価値を、自称メダルド・ジー、君だって思い知らされていた」

「……そうだ。だからこそ、藻掻いている。悪いか?」




「いいや。悪くはないさ。だけど。私たち末端の、『暴発するかもしれない商人』を統制するためには、言葉や態度だけでは足りないことは、理解しているだろう」

「……もちろん。具体的な策を、提示するために、ここにいるんだ」

「私たちを、納得できるのかな。私は……いい試験係になるはず。保守的であり、右派だ。極右という自覚はないが、『オルテガ』のためなら、何だってやるよ。悪いことかな?」

「……いいや。悪くはない。当然だ。生き残るためには、どんな道でも模索しなければならないし、同時に……商人ならば、故郷に富をもたらす義務がある。どちらも、当たり前のことだ」




―――ブッチは、シモンを見直しつつある。

弱さを露呈しつつ、悲劇の自虐に暮れていた商人はどこにもいない。

さっきまでとは、もはや別人のようだ。

根っからの『オルテガ』商人であり、『ルファード』商人をひとかけらも信じていない……。




―――不器用な生き方ではあるものの、一種の美徳の体現者ではあった。

シモンにとって大切なのは、『オルテガ』なんだよ。

『オルテガ』の自治と、文化や歴史を守りたい。

リヒトホーフェンに踏みにじられた屈辱を、忘れていない……。




―――追い詰められているはずの男は、今では立派な交渉人のようだ。

ブッチは憧れることはなかったが、『オルテガ』商人としては同調できる。

そうだ、彼らは『オルテガ』の商人なのだ。

政治的なリスクの上を綱渡りしながらも、利益を求めねばならない……。




「メダルド・ジー、あるいは、その代理人。何だっていいが。君は、私のような商人を黙らせる取引を、用意してきているんだろうね?ビビアナ・ジーは、どうせ、ガラスの親方たちを抱き込むよ。『オルテガ・ガラス』を、買い取ってくれるとかね。ジーの一族は、薬草医を集めていたのを知っている」

「ん。つまり、あれか……」

「ビビアナ嬢は、提案するだろう。その……私も、いや、タイズン家も協力するよ」

「『オルテガ・ガラス』の瓶に、ジーの一族が作った薬を輸出する。『自由同盟』の軍は、これからも戦い続けるんだから。需要は、いくらでもある」




「……そうだ。今頃、交渉していると思う。だから、『上』は問題ない」

「そうだね。でも、『上』は残酷だよ。『下』を見捨てるときも多いから。ブッチたちも、そうだよ。憂き目にあった。私も、私の友人も。ちいさな商いをやる者は、利益に関われないかもしれない」

「ま、まあ。調整するよ?タイズン家を信じてくれたまえ」

「信じているよ、タイズンさん。誰よりも早く、ストラウス卿にすり寄った『オルテガ』商人は、時代感覚に優れた大商人だろうから」

「絡んでやるなよ。タイズンも、悪いヤツじゃねえんだぞ」




「ありがとう、ブッチ。死地をいっしょに乗り越えると、仲良くなれるものだね」

「はあ。まあ、そうだな。今後とも、よろしく」

「……利益を、渡すよ。ジーの一族は、あらゆる商人を見放さない。ここに来たのは、提供するためだ」

「何を、かな」




「……君には、とくに刺さるだろう。『オルテガ』から帝国軍経由で流れてしまった、美術品や文化財、古文書のたぐい……それを、ジーの一族はいくらかコレクションしている」

「やはり、か……ッ」

「……怒ってもいい。オレたちも、『ルファード』商人として、やることはしている。君がこちらの立場であれば、そうしたように」

「ああ、だろうな」




―――美術品や文化財は、その土地のアイデンティティの化身だ。

歴史そのものでもあり、保守派からすれば失いたくない宝物だよ。

それらは政治力を持っていて、人を動かす力を秘めているものさ。

メダルドはそれを理解していたからこそ、集めていた……。




「……確保している品が、多いわけではない。だが、ボーゾッドに探りを入れていたおかげで、流通経路には想像がついている」

「あの男は、君たちジーの一族と懇意に見えた」

「……バカ言え。毒殺されかけたんだぞ」

「騙していたからかな。君の姪の正体を」




「……必要なのは、ビビを陥れることではないだろう」

「そうだね。その必要もないし、そのつもりも私にはない」

「……君が荒野で汗を流し、血の涙を流しながら探し求めた宝を、オレはいくらか提供できる。古く歴史を持った宝を、より多く持っていれば、より正当性が確かなものとなるはずだ。『オルテガ』が、二度と他人の支配にさらされずにすむかもしれん。火種は、減るぞ。過去を持つ宝は、君たちに結束を与える。どうだ?悪くない提案だろう」

「ああ。乗るよ。もうひとつだけ、私の出す条件を飲んでくれたなら。戻された宝に応じて、私はそちらの求める努力をしてやろう」




「……言ってみてくれ。可能な限り、協力しよう」

「こちらの、免罪だよ」

「……免罪、だと?」

「トラブルが起きた。起きかけた。それについて、私と……私の周りにいた者たちの罪を、問わぬようにして欲しい。不可能であれば、私だけを処分したまえ。君は、一族のために命をかけているらしい。私の気持ちも分かるだろう。同胞愛が、強いのだよ、私はね」




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