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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百三十一


―――その発言に、ブッチとシモンは戸惑った。

趣味の悪い冗談だとか、あるいはタイズン流のジョークかもしれないとも考えようとする。

もちろん、タイズンの顔色の悪さから多くを察してしまったけれど。

どうやら、笑えない状況に自分たちはいるようだ……。




「……すまんな。おそらく……いや、間違いなく混乱させてしまっているだろう。オレ自身も、そうなんだ……状況を、完全に把握し切れてはいない。オレは、死んだはず。少なくとも、ドロドロの肉のスープになって、女神イースの素材に使われちまったはずなんだ」




―――饒舌に語られる言葉は、『ルファード』商人らしかった。

演技をしているとすれば、『プレイレス』でも一番の役者かもしれない。

不思議な現象と、ここにいる全ての者が短期間のうちに遭遇してしまっているから。

一種の慣れが生まれていたらしく、ブッチは頭ごなしに怒鳴ることも否定もできない……。




「いいか。普段のオレは、商売敵以外にはやさしい肉屋のオッサンだ。それでも、悪ふざけにはきびしい。でも、その……本気さが、伝わってくる。理解しがたい。いろいろと」

「……そうだろうな。オレ自身もだ。何が起きたのか……いや。おぼろげながら記憶はある。どんどん、それが……アタマのなかで、組み直っていくような感じだよ。帳簿の整理しているような。あるいは、古い日記を読み直しているときのような……分かるか?」

「そういうのは、分かるが。何十年も男をやっていたはずの商人が、いきなり若い女になったと主張する理由は、まったく分からん」

「……とにかく。これは、女神の呪い……みたいなものだ」




「君は、というか、貴方は、女神イースに呪われたと?」

「……そうだ。君は、誰だ?」

「わ、私は……行商人の、シモン」

「……聞いたことが、あるな。お前、もしかして……」




―――冷や汗をかく、シモンがいたよ。

彼は、目の前の乙女をメダルド・ジーだとは信じていない。

だが、ビビアナの一件がある。

祈るような視線で、ブッチを見つめた……。




「……お前、『ルファード』の周りに現れていた商人か?」

「え、ええ。そうだ。私は、シモン。『オルテガ』の商人」

「……たしか、『オルテガ』から流れた品を、買い戻していたらしいな」

「帝国貴族どもに、略奪されたものが多い。芸術作品たち。ああいう品は、失われるべきじゃない」




「……同意するよ。『王無き土地』において、文化的なアイデンティティを示す芸術作品は貴重だ。その時代と、その土地に生きた者たちの、心の代弁だからな」

「若い乙女の発言とは、思えない。まさか……本当に?」

「……メダルド・ジーだ。そのはずだ。女になっている……」

「どういうことだよ、タイズン?」




「私が説明するのはムリだろう。彼……彼女……まあ、とにかく。メダルド・ジーは、私の元を訪れた。約束もなしで、いきなり……」

「……『オルテガ』商人と、ハナシをつけたかったんだ。オレは、亡霊みたいなものかもしれない……いつ、消えちまうか分からん」

「どうしてだよ?アンタは、消えそうなのか?」

「……死んだはずなんだ。少なくとも、バラバラに融けていた……なんで、ここにいるのか、分からん。だが……やることは、ひとつだけなんだ」




「何を、貴方はしたがっているんだ?」

「……ビビのことだ。お前ら、ジーの一族を嫌うはずだからな。ああ、すまんな。オレの精神衛生はよろしくない。端的な言葉になるが、感情的になりたいわけじゃない。混乱しているんだ」

「だろうね。その多弁さは、混乱から来るものだよ」

「……落ちついて話したいが、そうもいかん。このカラダは、借り物かもしれない」




「借り物ってのは、どういうことだよ?」

「……女神イースの生贄になったとき。一緒に、『カール・メアー』の巫女戦士も巻き込まれた。というか、彼女が、女神イース復活の儀式をしたというか……だが、彼女自身も彼女じゃなかったというか……」




―――『カール・メアー』の巫女戦士のひとりは、リュドミナに『寄生』されていた。

一種の洗脳だし、『蟲』の力も併用することで。

それを説明するための知識や記憶は、まだこのときのメダルドには戻っていない。

脳も肉体も『再生する途中』だから、かもしれないね……。




―――学者たちに言わせれば、蝶は生まれ変わる生き物らしい。

さなぎのなかで全身をドロドロに融かして、新しい形に変えてしまうんだよ。

メダルドは、それをして女神イースの一部になった。

今は、おそらくその逆の状態にあるんだろう……。




―――ドロドロに融けていたメダルドが、またひとりのヒトに戻っている最中さ。

だから、記憶も不完全なのだろう。

バラバラにされたパズルみたいなもので、それがまたひとつに統合しない限り。

メダルドは自分に起きたすべての事象を、把握するなんてやれないんだよ……。




―――だが、いずれはすべてを取り戻せるだろう。

そのとき、どんな決断をするまでは分からないけれどね。

メダルドは自分について、覚えていることがある。

明確な意志のもと、彼はひとつの取引をした……。




「……女神イースと、取引をした。オレの命を、奪ってもいいから。オレの心臓をくれてやってもいいから。ビビアナを守ってくれと」




―――シモンの心には、突き刺さる言葉だったね。

自分が殺そうとした乙女の叔父が、目の前にいるんだ。

痛いほどの悲壮さで、共感を強いてくる。

姪であるビビアナのことを、自分の命よりも大切に思っていると……。




―――シモンは、悪人ではない。

むしろマジメな善人だからこそ、故郷のために殺人だってやろうとしてしまった。

ありふれた愛国者であり、時と場合によっては最高に正しい人物のはずだ。

でもね、ビビアナを殺しかけたことで抱えた後悔が膨らみ上がっている……。




―――誰かを殺すという行いは、誰かの大切なヒトを奪うということだ。

どう考えても罪深く、シモンのような普通の男が突きつけられると泣きたくだってなる。

罪深い後悔に、シモンはまた囚われていた。

それと同時に、怖くもなっている……。




―――罪科の獣『ギルガレア』は、罰を与える獣神。

それに遣わされた処刑の使徒なのではないかと、目の前にいる男を疑った。

異常かつ危機的な運命にさらされたときは、多くの者が自虐的になるものだ。

そして、恐怖は神秘を増幅させもする……。




「……オレの願いは、明白だ。ビビのために、命を使う。使ったはずだ。それでも、ここにいる。なぜか、女の肉体で。この娘の魂は、どこにいるんだろう。オレは、彼女の体を奪っているのか。それとも、もうすぐ彼女になってしまうのか……だとしたら、急ぎたい。『オルテガ』の、裏側にいそうな商人たちに、釘を刺しておきたい。いや、分かり合いたい。『ルファード』は、ジーの一族は、『オルテガ』を支配しようとはしないと。だから、ビビを、殺そうとするな」




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