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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百三十


―――トーリー・タイズンは、困っていたらしい。

それはそうだ、唐突な訪問者が現れてしまったから。

情報も、実に錯綜しているなかでは策士的な彼にとっては居心地が悪いだろう。

女神イースが現れるし、再び空には逆さ吊りになった『オルテガ』が現れた……。




―――帝国の戦力が、近づいているかもしれない。

ソルジェたちが、実に多くの事案に対応してくれていることは分かるものの。

それだけに、『取りこぼし』がないかも心配になったのだ。

クリア・カニンガムとその一派を、猟兵は完全破壊できているのだろうか……。




―――『オルテガ』の防衛が最優先になるはずだし、それは成し遂げられたようだが。

カニンガムへの監視が、相対的に弱まることになる。

自分の『家族』は護衛に守ってもらっているが、足りるとは限らない。

カニンガムの暗殺者が現れたら、誰かが死ぬかもしれない……。




―――自分が殺されるのはもちろん嫌だが、妻と子供がその目に遭うのはもっと嫌だ。

確かめるべきだったが、ソルジェはあまりに多忙である。

ゼファーに乗って、今は『オルテガ』の外にいるのだから。

判断力を正しく使いこなすために必要な情報の多くが、欠落してしまっている……。




―――『ルードの狐』だからこそ、そのときの居心地の悪さは誰よりも分かるよ。

喉が渇いて、視線をきょろきょろとさせたくなるものだ。

肉屋のブッチや、シモンと同じようなことになる。

つまり彼らの全員が、すっかりと追いつめられているのさ……。




―――自分を追いかけてくるかもしれない敵を、想像してしまいながらね。

自分たちがどうなるのか、賢明なるトーリー・タイズンにさえ見通せない。

戦士たちは勝利と、ソルジェの鼓舞により異常なまでの興奮状態だけど。

商人は、そういう喧噪に呑まれてしまわないようにと心がけるものだ……。




―――責任ある立場ということは、役割を背負って生きるという意味だからね。

有力な商人であり、しかもソルジェとの距離感が近い『オルテガ』商人の代表格だ。

そのおかげで、少しばかり嫉妬や敵対心を浴びせられるかもしれない。

帝国軍も厄介だが、乱世で暴力による政権交代の最中の都市国家の内部は複雑だよ……。




―――ただの歴史的な事実だけど、こういう時間では商人の暗殺が増える。

『政権お抱えの商人』、そういうポジションが変わるわけだ。

これ以前と以後では、経済の流れが変わる。

金のためにもヒトは狂暴になれるから、タイズンのポジションを狙う敵も生まれた……。




―――金というものは、魔性の力を持っている。

必要最低限あればいいという答えに、誰しもが納得できるわけじゃない。

大商人という立場を背負ってしまい、ソルジェという新たな支配者に近づいた。

そのリスクを考えるだけでも、胸がいっぱいになる……。




「吐いて、しまいそうだよ」




―――同行者に、そういった。

この『厄介な同行者』の扱いにも、とても困っている。

『彼女』自身も、かなり混乱しているようだった。

それでも要点だけは説明してもらえたし、納得もした部分はある……。




―――従うしかない、『彼女』は『オルテガ』の商人勢力と接触したがっているから。

旧くてガンコな親方職人たちと、秘密裏に接触してハナシをつけたいそうだ。

それは、『彼女』の立場であればそう思うのは理解できる。

でも、率直な感想を言うことが許されるのであれば……。




「さすがに、時期尚早ってものじゃないだろうか。混乱しているんだ。私さえも。みんな、何が起きて、何が起きようとしているのか、不明瞭すぎる……いや、危機的な状況だということは分かるし、君がしたいと願うことも分かる。それは、実に……妥当ではあるんだ」




―――文句はない、ぐうの音も出ない。

混沌とした状況において、必要な答えの種類は多くあるものの。

それらの『方向性』については、大してバリエーションがあるわけじゃない。

協力体制が必要だし、あらゆる紛争を抑える努力が必要だ……。




「交渉の窓口を、明確にしたいってわけだね。権威と実務能力を持ち合わせて、理性的かつ知的な判断に基づき、『オルテガ』を統制できるような人物が……ストラウス卿は、君臨している。議員たちも彼が掌握した。戦士たちの結束も、十分だろうけど。わ、我々は、一枚岩には慣れていない。私も……まだ力不足だ。面目ないことに。でも、いろいろと、あったんだ。もちろん……君ほどじゃ、ないだろうけど」




―――弱音を吐くべきではないとしても、ヒトの心はすべてを抑え切れはしない。

タイズンが子供であったら、とっくの昔に泣き叫んでいただろう。

厄介な状況で、不思議な責任まで背負うことにはなりたくない。

「どうして、私のところに来たんだい」という質問だけはプライドがさせないが……。




―――『彼女』も、おそらくタイズンだけが頼りではなかっただろう。

ソルジェとガンダラが、今より忙しくなければタイズンの元には来なかった。

やがては来ただろうけれど、今このタイミングではない。

もう少し、落ちついたあとでやって来たハズだったのに……。




「ブッチは、きっと、怒るよ。厄介ごとに巻き込んだって……それでも、行くのかい?ああ、分かっているとも、この緩みのない歩行が、すべてを物語る」




―――ブッチである必要も、大してなかった。

窓口として使うには、亜人種の商人が必要だ。

ソルジェからの仕事を間接的に受け持ち、他の商人よりはかなり信頼が置ける者が。

他でもいいが、比較すればかなり好条件というだけのこと……。




「同じ、ストラウス卿・チームってことだよね。はあ。ブッチに、愚痴られるとするよ。私だって、最善を尽くしたい。ストラウス卿を支持している。最善の道だ。だからこそ、いろいろと背負わなくちゃならない……でも、そうだね。君よりは、まだマシか……どうして、そうなったのか……はあ。いや、いい。ブッチの前で、説明してくれ。彼も絶対に、聞きたがるだろうから」




―――こうして、ふたりの訪問者がブッチの家に到着した。

窓から様子をうかがっていたブッチは、警戒しつつもふたりを入れる。

聞かなければならない、口を開きかけたタイズンを大きな職人の手で制して。

その『若い女性』に、訊いたんだよ……。




「端的に、答えやがれ。アンタは、どこの誰だい?見覚えがない。人間族の若い女だ。所属と名前を、ちゃんと言ってくれ。行ってくれなきゃ、殴りつけるぞ―――」

「……オレの名前は、知っている」

「オレ?女らしくないが―――」

「……女じゃない。いや。今は、そうだが。オレは……メダルド・ジーだ」




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