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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百二十九


―――戦は狂気を呼び込むようなところも、もちろんあった。

ある日いきなり食料が買えなくなったり、必要な薬が手に入らなくなったりする。

そうなれば、死活問題だよね。

風邪で死ぬかもしれないし、飢え死にするかもしれない……。




―――戦場は、ある意味では救われている方だよ。

戦の主催者たちが大量に物資を投入してくれるから、戦士には補給がある。

最悪の場合は略奪に走ることだってあるし、戦略的にそれを行う軍も数多い。

誰もが猟兵のような規律を持っているわけじゃなく、多くの場合で残忍だ……。




―――戦士に与える最も『手近な報酬』として、略奪させた戦も多くあるのさ。

『戦利品』という言葉があるのは、とどのつまりは略奪が普遍的な行いだからだよ。

戦の極限状態の、『まだマシな方』がそんなものだ。

補給がいきなり停止した一般市民たちは、どれほど飢えてしまうか分からない……。




―――ヒトは人生に試されるようなときがあって、戦はそれの典型的なものだよ。

肉屋のブッチは、目の前にいる男に同情的でもあった。

それが自分のためになるとは、とても思えないけれど。

あくまでも商人仲間を守る自分でいたいと、考えていた……。




―――もちろん、それはかなりの覚悟を求めえられるものだから。

自分だけで背負い切れるとは、考えてもいない。

もうしばらくすれば、トーリー・タイズンがやってくる。

彼のことも巻き込んで、責任を軽くしようという企みもあったよ……。




「はやく、来やがれ。タイズンめ」

「……そんなに、仲が良かったのかな」

「いいや。そうでもないが。くだんの……」

「カニンガム関連のことか。ストラウス卿の依頼は、タイズン経由……いきなり、肉屋の君に、ストラウス卿が目をつけることはない」




「肉屋を、バカにしてんのかよ」

「そうじゃない。でも、当てたはず」

「まあ、そうだ」

「タイズン。いい商人だ。腕もいいし、顔も広い」




「メダルド・ジーが、タイズンを指名したらしいぞ」

「……それは、つまり……」

「ジーの一族は、商業的な支配を目指してはいなかったということでもある。メダルド・ジーは、理解していたんだろ。『人買い』の罪深さってことを。ヤツは自粛した。表に出れば、失うことが多いと理解していたんだろうよ」

「……つまり、私は…………」




―――シモンが暴挙に出てしまったのは、あくまで『オルテガ』のためだった。

『王無き土地』のならいというか、この土地の歴史において繰り返された諸都市の争い。

『ルファード』から支配されないために、努力することは一般的だ。

歴史はいつも正しいわけじゃないが、再現性は高い……。




―――でもね、メダルドは理解していた。

『人買い』ジーの一族の歴史に、幕を下ろしたのは他でもなくメダルドだから。

多くの事実を知り尽くすには、お互いに時間も機会もなかっただけのこと。

すべてを知っていたら、シモンはきっと帝国や女神イースの戦いにだけ集中したはず……。




「私は、なんて、ムダなことを……」




―――タイズンを指名することで、メダルドは『オルテガ』商人を守ろうとしていた。

侵略者になろうとしていなかったと、すぐに伝わる。

戦は権力と金のためにやるというのに、戦勝で得たそれらに執着しなかったんだから。

メダルドが野心を持っていたのなら、タイズンを重用することなんてないのだ……。




―――タイズンは有能ではあるし、ソルジェに一早く近寄ろうとした商人ではある。

それでも、別に替えが利かないほどの重要な人物というわけでもない。

そもそも、メダルドの方が商才もあるし格も上だった。

シモンは疑心暗鬼に囚われて、『オルテガ』を守るどころか危機に導いていた……。




「死にたくなるよ、なんてことだ。なんて、無様で……なんて害悪なんだ、私は……」

「そういう言い方を、するもんじゃねえ」

「悲劇どころか、喜劇役者のようだ。でもね、演劇の舞台とは違う。私は、大きな、あまりにも大きな間違いをしようとしていた」

「運が良かったな。ジーの一族の娘を、お前は殺さなかった。それで、十分だろう」




「十分なはず、ないよ」

「ああ、そうだな。気遣ったつもりだよ。落ち込んで、追いつめられちまった男には、そういう慰めの言葉をかけるもんだろう」

「君には、分からないよ。この……罪深さは……吐きそうだ」

「吐くなら、外で吐いて欲しいところだね」




「外か……ああ、外に出るのが、怖い。恥ずかしいよ。本当に……」

「見捨てるつもりはないから、安心しろ。追い出しはしない」

「助かる。率直に、言う。みじめで、情けなくて。害悪で、罪深くても……」

「フル装備だな、まったく」




「それでも。死にたくない。怖いんだ。ストラウス卿や。ジーの一族の連中に見つかるのが。罰せられる。どんな罰を?私は、処刑されるべきなのか……ああ、嫌だ。しくじったことは、認めよう。間違いも。でも、歴史を知っている者は、私のように行動したはず」

「だろうな。色々と、掛け違いがあっただけ」

「私の人生が、関わっている。簡単に、言わないでくれ。『だけ』だって?」




「絡むなよ。落ちつけ。深呼吸だ。血圧上げても、良いことなんて、何もねえ」

「……そうだね。そうだ。ああ……聞こえるかい」

「……勝利の歌だな。帝国は、まだ来るだろうに」

「女神を、倒したんだ。それって、すごいよ。伝説的な勝利だ。なのに、私は……こんな肉屋の家で、こっそりとしている。街を守るために、戦ったのに……」




「暴言は、聞き逃す。オレは、オトナだからだ。だが、次、肉屋ごときの家だとか言ったら、ぶん殴る」

「ごときだなんて、言っていない」

「『こんな』とは、言ったから。同じことだろ」




「被害妄想だよ。私は君に感謝しかしていない」

「そいつは、知っている」

「……すまない。気に障ったなら、謝るよ」

「そこまでは、いらん。気持ちは、分かるからな。解放感を得たい」




「ああ……後悔というものは、体と心に、ここまで絡みつく。私は、油の海にでも落とされたみたいだ。羽虫みたいに、油で溺れる」

「虫けらに、自分を例えるもんじゃねえ」

「そうだね。でも、本当に、虫けらだよ、私は」

「困ったもんだ。さっさと来てくれ、人間族の商人同士、タイズンにはげましてもらえ」




―――今日は本当に酷い日だったが、それだけに少しはマシになっているのかも。

窓の外で、夏の暑さにゆらゆらとしている景色。

その先に、待望の人物がやって来たよ。

ひとりきりで来るはずが、同行者がいた点については気に入らないが……。




「カニンガムに、オレを売りやがったんじゃないだろうな……」

「命の危険があると、視野狭窄になるし、どんな間違いをするか分からないからね」

「くそめ。不安にさせるんじゃない」

「一応、書いておこうか。遺書。もしも、裏切られたときのために」




―――裏切るつもりのない巨人族の肉屋も、裏切られない保証はどこにもない。

タイズンの同行者が、自分を暗殺したときのために。

その事実を、口述筆記でシモンに書かせたよ。

同行者は女性だが、女性の暗殺者に殺されかけた早朝があった事実を忘れていない……。




「あいつが、暗殺者だったら。お前も、戦えよ。死にたくねえんだろ」

「うん。でも、そういう短慮さは、いかがなものか」

「うるせえよ。しくじり野郎に、どうして説教されちまうのか……」

「しくじり野郎だから、アドバイスもしたくなる。慎重な判断をしようじゃないか。タイズンだって、カニンガムに従うより、ストラウス卿にしっぽを振っていた方が儲けはいいはずだ」




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