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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百二十七


―――ビビアナは部下の商人を呼び寄せながら、職人街へと向かう。

『オルテガ・ガラス』職人の親方たちと、会うためだ。

職人たちは隠れることもなければ、拒むこともない。

それは意外なことだった、ビビアナは自分のことを彼らはもっと嫌うと考えていた……。




―――ケガしているのに、自分を心配してついてきてくれたフリジア。

その献身的な彼女や、険しい面構えのジーの一族の社員たちに怯んだわけでもない。

賢いビビアナは、自分の選択に幸運が味方してくれていることを察した。

この職人街のなかに、ビビアナのことを暗殺・拉致しようとした者がいる……。




―――『オルテガ』商人らしい態度だと、ビビアナは理解した。

長らくの商売敵であるがゆえに、『ルファード』商人は彼らの手の内を見抜いている。

あの件の実行犯は下っ端たちであるが、主犯は『オルテガ』の有力者たち。

その一人ぐらいはこの職人街にいて、そいつのもとに……。




「私を殺そうとした、暗殺者さんが逃げ込んでいるのね」




―――ビビアナは完璧に読み切ったよ、シモンはここに逃げ込んでいた。

職人街の親玉のひとりは、シモンのまるで告解のように素直な報告を聞くと。

即座に、彼のことを屋敷から追い出してしまっていたけれどね。

シモンとのつながりを、恐れてしまったのさ……。




―――ソルジェ・ストラウスに殺される、あるいはそれに近しい罰を受ける。

親玉はそんな考えに陥って、シモンを遠ざけようとしたんだ。

あわれなシモンではあるが、寝はマジメな男。

テロリストの少なくない者がそうであるように、マジメで友人もいた……。



「か、かくまっていてくれ」




―――世の中は、それほど広くないもので。

職人街の一角にある、肉屋のブッチのもとにやって来ていた。

ちょっとした不運な冒険に遭遇して、幸運にも生き延びた巨人族の男だ。

この商人たちには、共通の友人がいたんだよ……。



―――その友人から託された地図を、シモンはソルジェに渡した。

運命的だと言うには、美しさが足りないかもしれないね。

シモンは怯え切り、ブッチの巨体に抱き着いて泣いているから。

共通の友人がいなければ、ブッチはこの男を追い返していたはずだった……。




「しょうがねえな。追いつめられちまった男の心境に、今日はちょっとばかし共感が働いちまうんだよ」

「ありがとう、ブッチ……私は、そんなに悪いことをしていない」

「一人前のオトナが、そんな泣き顔で口走れるようなセリフじゃないぜ」

「しょうが、なかったんだ。私だって、あんなことをしてしまうとは……」




―――戦場には魔が棲むもので、シモンの殺人未遂におそらく悪意はない。

追いつめられると、自分でもコントロールできない行動をしてしまうだけのこと。

だからといって、すべてが帳消しになるはずもないけれどね。

ビビアナに謝罪すべきタイミングを逸し、今のシモンは逃亡していた……。




「はあ。厄介なことだが、かくまってやるから安心しろ。ストラウス卿は『亜人種びいき』らしいから、オレの家までは探しに来ないだろう。来たら……」

「そ、そのときは、私を売り渡すといい。き、君は、商売の世界に戻るためにも、わ、私なんかと関わるべきじゃない……」

「そういって、簡単に知人を売るような男だと思われた方が、商売やりにくいってもんだ。少数派のオレたち亜人種は、人間族より、よっぽど気を使って商いしなくちゃならん」




―――シモンはうなずいた、シモンも亜人種に対して差別的な男ではない。

むしろ、その逆だった。

『オルテガ』を愛しているだけの、行動が空回りしてしまった青年だよ。

肉屋のブッチの屋敷に入ると、差し出された椅子に腰を下ろす……。




「世界が終わったような顔を、するもんじゃねえ」

「私にとっては、終わったかも……ストラウス卿の、支持者なんだ。え、縁もある。私は、ただの偶然にすぎないけれど、彼に……地図を売ったんだ」

「読み間違えたわけだ。ストラウス卿は、ジーの一族と仲がいい」

「ありえないことだよ。彼は、もっと…………いや、そうだな……読み間違えた」




―――ソルジェに抱いていた印象は、もっと破壊的な『亜人種びいき』だったらしい。

でも、ソルジェはそういう種類の人物でもない。

人種に関しての感覚が、かなり独特なだけなんだよ。

誰だって人種に対する何かしらの感情を抱くのに、それが行方不明という変人だ……。




―――怒りや憎しみだけで、生きているわけでもない。

もちろん、それらは大きな原動力だけど。

ゆっくりと、ソルジェはソルジェなりに『複雑さ』を手に入れている。

あのソルジェが、複雑になっているなんてね……。




―――ガルフぐらいじゃないだろうか、驚かないのは。

彼は北方野蛮人に対しての、独特の理解を持ち得ていた。

「痛みがあるから、怒りがある」。

芸術家が好みそうな理論で、ソルジェ・ストラウスを分析していた最初の人物だ……。




―――肉屋のブッチは、自分の態度を決めかねていた。

シモンをかくまってやることは、たやすいことではある。

彼にも懸念していることがあってね、クリア・カニンガムだ。

とっくにジャンに仕留められているけれど、その事実をブッチは知らない……。




―――あの性悪な料理人に、自分が情報を売ったことは知られていないはずだ。

はずだが、分かったものじゃないとも考えてしまう。

落ちつきのないまま、窓際に向かっては外の景色を視線で探った。

武器も手放すことはない、巨人族の体躯にしてはちいさいが長剣を持っている……。




「……君も、何かに、関わってしまったのかい?」

「……商人らしく、露骨な態度は、あっさり見抜くってわけかよ」

「話したら、いいかも。私も、ガラスの親分さんに真実を話したら、楽にはなれた」

「その結果、クソほど怒られてるわけだろうが。オレは、お前みたいにストラウス卿側の人々を怒らせたりしちゃいねーぞ!」




「じゃあ、誰を」

「……クリア・カニンガム。知っているな、ホテルとレストランを経営していて」

「マフィアじゃないか。あいつは、クズだよ……」

「そうだな。知っていたよ。昔から。だから……」




「勇敢だね、敵に回すなんて」

「……したくてしたわけじゃない。利益のためとか、もろもろあった。あいつは、その……」

「いいよ。聞いてあげる。私の口の堅さを知っているはずだよ。拷問されても、秘密は守る。だからこそ、こういう役目を指示されるというか……捨て駒として、使いやすいんだ……いや、それはいい。とにかく。君の心を、救ってやりたい」

「誰よりも救われたいはずのヤツに?まったくもって、とんでもない日だ」




「ギルガレアさまも、女神イースも現れたんだ。奇跡みたいな、地獄の街さ」

「さすがは、我らが故郷、『オルテガ』ってことかい」

「……事情を、教えてくれ」

「……クリア・カニンガムが、リヒトホーフェンだとか、帝国軍の危ない連中のあいだで働いていたらしい」




「それを、君が暴いたって?」

「いいや。そうじゃない。ただ、助言したというか。肉の専門家だ」

「なるほど。食材市場には、足を運んでいたんだね。肉屋の営業停止を食らっても」

「そうだ。だからこそ、見抜けた。カニンガムめ……」




「……ストラウス卿が、さらに勝ったんだ。カニンガムは、きっと、逃げたよ」

「そう、だったら……マズいじゃねーか。オレを嗅ぎつけて、殺しにくる」

「どうかな。竜に乗って、神々さえも打ち倒す英雄がいるんだ。敵は、逃げるよ。カニンガムは、バカじゃないし……顔が広い。帝都にだって、入り込めるさ」

「生きている限り、安心できない。あいつは死んだのだろうか。でも、それを確認しようとすると、オレが商人仲間を……と、あいつを評価するのは間違いかもしれんが。とにかく、確認するのも難しい」




「私に、話せて良かっただろう」

「うるせえよ、疫病神め」

「……ひど言い方だね。でも、たしかに……やらかしてしまった。どうして、私は、彼女を殺しかけたのだろうか。もっと、善良な男のつもりだったのに……」

「けっきょく、お前の愚痴を聞くんじゃねーか」




「すまない。でも、率直なアドバイスを。私は、どうしたらいい?マフィアも逃げるであろう竜に乗った英雄と、親交のある人物の娘を手にかけようとした。出会ったら、即座に首が飛ぶかもしれない」

「……逃げることだな。隠れておけ。戦後の処理は、複雑で色々なことが起きる。お前ごとき、些末な小人物のことまで、かまっていられるほど英雄は忙しくはない。肉屋の再起にそなえて、各方面に手紙を出す必要があるから……書いてくれるか。オレは、外を見張っていたい。もうすぐ、タイズンもやってくるはずなんだ」

「トーリー・タイズン?……そうか、彼なら……彼なら、頼りになる」

「おい、オレは頼りにならねえってか?」




「そうじゃないよ。でも、メダルド・ジーと顔見知りでもあるじゃないか。タイズンも、ストラウス卿に近づこうとしていた。粛清対象にすべきか、議論もあって」

「ほんと、テメーらはどうして血の気が荒いんだ。どいつもこいつも、仲間だろうに。何て日なんだよ。はあ、商人は、いくら儲かるからって、政治なんかに絡むもんじゃない!」




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