第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その四百二十六
―――情報戦も、しっかりと戦わないといけない。
敵の心をも打撃していかなければ、ボクたち少数派に勝利はないのだからね。
ユアンダートのカリスマの不完全な部分に、噛みつかなければ。
ユアンダートの持つ経済的な才覚だって、崩せる部分から崩していく……。
―――ヒトの欲望こそが、大きな力を生み出すからね。
政治的な結束で結ばれなかったとしても、お金の力なら仲良くもなれる。
失望すべき点ではなく、現実的なことで大切な傾向だった。
商人たちの戦いも、これからは大切になる……。
―――その点では、ソルジェというかストラウス家は大きな仲間を手に入れたね。
もちろん、ジーの一族だよ。
ビビアナ・ジーは、ミアを見送ったあとで行動を開始している。
目立つことはしないよ、ソルジェに従い始めた者たち全員を邪魔しない……。
―――自分がどれだけ『オルテガ』の保守層に、警戒されているかを知っているから。
暗殺を仕掛けられたし、あれが『はずみ』だったことも理解している。
『オルテガ』の市民からは、ちょっとした感情の爆発次第で。
ビビアナはリンチで殺されるという、払しょくしきれない真実があった……。
―――だからこそ、目立つことはしないんだ。
目立てば恨まれて、警戒されてしまうからね。
ジーの一族は、政治的な力というものを発揮すべきじゃない。
それでも、ただ黙っていることもしないよ……。
―――やるべきことは、ひとつだけ。
ビジネスという、利益の世界で活躍することだ。
ジーの一族は、『自由同盟』に所属する以上。
常に『人買い』であったという事実から、逃げることは出来ない……。
―――それは政治的なリスクだし、そのせいでソルジェとミアの負担になりたくない。
ならば、どうすればいいのだろうか?
ビビアナが集中すべきことは、けっきょくのところビジネスだった。
政治的演技の指導者としても優れているけれど、ちゃんとした商才も持っている……。
―――『人買い』ではない、正々堂々としたビジネスの力でしたがわせればいい。
『オルテガ』の商人たちも、利益を提供されたら敵ではなくなる。
政治的な純粋さを利益で買収することは、かなり困難なことだけれど。
商人を利益でしたがわせ、その商人が持つ政治力を自分のために使わせればいい……。
―――ユアンダートが、証明していることがあった。
戦というものは、間違いなくビジネスの側面が大きいものだ。
糧食の提供だけでも、莫大な富を得られるように。
ビビアナには、いくつものビジネス・プランがあった……。
―――『人買い』ジーの一族であり、『狭間』でもある。
その事実は、ビビアナに政治的なしがらみを与えてしまうけれど。
今の彼女は勇敢さにあふれているよ、自分だからこその強みを理解しつつあるから。
メダルドが死んだと把握したときから、彼女は新たな当主の自覚を得ている……。
―――メダルドが継承させた、ジーの一族の大商人としての知識。
それをフルに使いこなすための、最後の準備が完了していた。
一族の長である以上、すべてを自分で守り抜かなければならない。
どれだけの部下が、自分を見限るかも分からないという恐怖とも戦いながら……。
―――メダルドの手腕と、『人買い』として提供できた諸々の仕事と利益。
そういったものに、ジーの一族の社員たちはついてきたわけだからね。
それらが消えたなら、自分はどうして一族を維持させればいいのか。
追いつめられたとき、ビビアナみたいな天才は道を見つけられるものだ……。
―――ある意味では、『自由』を得てもいるからね。
メダルドに気を使わないで、好き放題にすべての選択肢を使える。
それが、当主としてすべてを受け継いで背負うということだ。
ビビアナの持っている才能は、本当に解放されたんだよ……。
―――『自由同盟』に所属して、ソルジェとミアとの絶対の絆がある。
それはビジネスの面では、とてつもなく大きな力だった。
帝国で言えば、ユアンダートと身近な立場になったようなものさ。
少なくとも、『オルテガ』と『ルファード』の周辺でソルジェは皇帝並みの力がある……。
―――南のエルフも西の巨人族も、海上の戦で名を上げたゾロ島のキケも。
『ルファード』と『オルテガ』の商人たちも、すべてソルジェの権力に従う。
外部にいて、南下と合流を企画しつつある『自由同盟』の軍勢や経済網もね。
ジーの一族は、じつに大きなビジネス・チャンスを掌握しつつある……。
―――『オルテガ』商人よりも、いち早く『ルファード』間に流通網を作っていた。
ルチア・クローナーにギムリ、商人だけじゃなく若い戦士たちも協力してくれる。
ルチアは従姉妹の間柄だし、『風の旅団』に利益を与えないといけないリーダーだ。
ギムリに関しては、ガンダラにほれ込んでいるから間接的にあやつるのは容易い……。
―――ギムリが聞けば、かなりムッとしてしまう評価だろうけれど。
困ったことに、とても正しい評価だったよ。
そもそも、ギムリも商売に関わりたいと思うだろうからね。
巨人族の若い戦士たちを、これからも率いたければ何か武器が欲しいだろう……。
―――ガンダラに憧れたところで、ひとつの限界を思い知ることにもなるよ。
戦闘の面では、ガンダラに並び立つのは残念ながら不可能だ。
十分な強さはあるし、かなりの達人にはなれる。
でも、最強の猟兵の強さには及ばない……。
―――でもね、戦いの力は武術の腕だけではないってことをよく知っている。
戦術の切れで、ギムリは若い盗賊たちをまとめていたのだから。
戦術面の力でも、もちろんガンダラには敵わないだろうけれど。
ならば、商売の腕ならどうだろうか……。
―――ガンダラは政治家や軍人としては、完璧な人物だけれど。
それほど商売に対して、熱心というわけでもない。
金を使った服装を好むのは、ただの劣等感を癒すためだけで。
商売人として大成したいという野心を、彼は持ってはいないんだよ……。
―――ギムリは、ガンダラの『下』であることを楽しんでもいる。
しかし、若い男というのは野心や夢に走るものだよ。
とくに小規模な盗賊団ながらも、ひとつの組織を率いたというのなら。
ガンダラも多くを勧めるだろう、若さが持つ可能性に対してね……。
―――ギムリは、『ヴァルガロフ』で最も稼いでいた人物のようになれるかも。
アッカーマンという、巨人族の運び屋のリーダーだよ。
性格まで似せたりしなくてもいいけれど、知識や商いのスタイルを真似るのは適切だ。
ギムリは、第二のアッカーマンを目指してもいいのさ……。
―――彼と彼の部下たちは、盗賊としても暴れていた事実も大きい。
ビビアナは理解している、そういう『傷』を持つ相手と。
自分のような立場の者は、理解と協力を構築しやすいとね。
孤立するリスクもあるギムリに、手を差し伸べる最初の大商人は自分であればいい……。
―――そんな考えを、即座にしながら。
実務的な作戦を、十五個ほどビビアナは考えていた。
経験に勝るメダルドに勝てるとは、まだ断言することはできない。
それでも、メダルド以上に成長する逸材であるとは考えているよ……。
『人買い』の足かせを、彼女は越えたんだからね。




