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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百二十三


『お、お疲れ様です!団長っ!』

「ああ。そっちこそな。単独で、よくがんばってくれた」

『い、いえ。敵も……様子が、お、おかしかったですから。一体、な、何が?』

「話せば長くなる。まずは、ヒトの姿に戻れ」




―――いつもの間の抜けた音を立てて、ジャンは元に戻ったよ。

汗でびっしょりだけど、傷はひとつとしてない。

戦場を単独で引っかき回す、そんな芸当が可能な猟兵はジャンだけかもね。

ソルジェはその事実がうれしくもある、戦士としての嫉妬以上に……。




「ど、どうかしたんですか?そ、その……あ、汗臭いでしょうかっ!?」

「ハハハハ!汗臭いのは、全員だ」

「あら。リングマスター、私は例外ですけれど」

「そうみたいだな。さすがは、『人魚』ということか?」




「いいえ。私が美女だからですよ。ミア、そっちは収穫ありましたか?」

「うん。敵の最前線のリーダーの名前、何人かゲットしたよ」

「じ、じつは、ボクも……て、敵の命令書を、あ、集めてまして」

「そっか。ジャン、賢い!」




「う、うん。がんばりたいんだ。も、もっと、役に立ちたい」




―――言葉はいつも通りだけど、より強くなりたがっているジャンがいた。

誰もがちょっとずつ、変わっていく。

若者はより良く変わることが多いから、ソルジェもそれを見ていると嬉しくなった。

命令書を複数枚手渡されると、それに目を通していく……。




―――偉い人がしなくちゃならない役回りがある、ソルジェも若者だから学ぶべきだね。

賢くはないけれど、記憶力はいい方だ。

それに、ベテラン特有の勘も磨かれている。

敵兵のいなくなった戦場で、ソルジェは死の王みたいに作戦を練った……。




―――ゼファーは遠くの敵どもを、挑発するようににらみつけている。

挑んで欲しくもあったが、残存する敵兵は『パンジャール猟兵団』を避けた。

数では圧倒できるけれど、力では遠く及ばないと考えているのだろう。

力の差を見せつけてやると、戦場は強者の打ち建てたルールに従った……。




「き、北に向かう道に、竜どもが陣取っている……ッ」

「戻るべきじゃないな。東だ。東に、抜けよう。これ以上の戦いは、もうやれん」

「……ちくしょうめ。魔物とつるむ、邪悪な魔王だ」

「竜騎士と戦うのは、二度とごめんだぞ」




―――圧倒的な力からは、誰もが逃げようとするものだ。

この敵どもは臆病ではないが、疲れ切っていた。

竜同士の空中戦だとか、猟兵との戦いなんてイベントに襲われればこうもなる。

死よりも生きることに、敵どもは意味を見い出した……。




―――ソルジェは敵を見向きもしない、敵の動きを『最初から知っていた』。

指揮官としての腕も、着実に上がっている。

戦を指揮することは、多くの学びも得るものだよ。

『帝王学の一環』として、それを利用する王国も多々あった……。




―――王族を成長させるには、持ってこいの試練だからね。

最強かつ勇猛果敢が過ぎるストラウス家の四男坊には、一種の不勉強なジャンルがある。

恐怖という感情を、あまり持っていないんだよ。

だから、他人が自分に抱いている恐怖についても一般人より鈍感なところがあった……。




―――恐ろしいことだけど、ソルジェにとっては戦場で死ぬのは当たり前のことだ。

それについて、より一般的な人々がどれほど恐れを抱いているのか。

理屈では分かっていたつもりだけど、本心から共感できたわけじゃない。

ある種の弱点ってことさ、でも弱点なら補強すれば強くなれる……。




―――ソルジェは『オルテガ』の議員たちを、脅して政治を行えた。

『自由同盟』の価値観を、押しつけたんだよ。

従わなければ、軍事力の行使にためらいはないと。

その経験が、ソルジェに一般的な人々が抱く死への恐怖を教えてくれたのさ……。




―――『戦場以外の戦い』が、生粋の戦争屋を成長させるなんて。

さまざまな経験を積むべきだと、古老が若者に口を酸っぱくして言う理由がこれだ。

『専門性が高すぎる/異常なまでの戦争屋』だと、非常識的になっていく。

専門バカとは、こういう閉鎖環境での偏った進化のことだ……。




―――圧倒的な強者は、弱者の抱く恐怖を知り始めている。

それゆえに、残存した敵どもの動きを把握できた。

戦闘的な力量差ではなく、並みの戦士の心がどう動くかを今回は計算に入れていた。

大きな成長であり、ソルジェをよりバケモノにする契機となるだろう……。




―――だって、圧倒的な強者は弱者の心を知れなくて当然なのに。

それを知り始めているんだからね、これからは『それ』を戦術的に利用できるってこと。

『王者の剣』のように、相手の心を操ろうとするだろう。

武術の面だけでなく、それはあらゆる行動に反映されていくのさ……。




―――何故って、猟兵だからだ。

あるいは、ガルーナの大魔王になる男だからか。

強くなれる可能性については、誰よりも貪欲なのは間違いない。

今まで未開拓の原野に、ソルジェは足を踏み入れたんだよ……。




―――それは、楽しみなことさ。

ソルジェにとっても、ボクたち周りの者にとっても。

老練な武術の大家が至るのは、哲学的な思考だというのも納得できる。

最強だとか達人を超越した『何か』は、こういう旅路の果てに生まれるのかもね……。




―――さて、逃げ去るはずの敵どもには。

最初から、興味を欠いていたソルジェ。

彼の興味と視線が向かっているのは、敵の命令書にあった名前と肩書き。

そして、インクの色と乾き具合だった……。




―――肩書きを読めば、敵の所属する部隊とその駐屯地は予想がつくし。

インクの乾き方で、大まかな距離と時間を把握できた。

駐屯地の住所通りに敵の指揮官がいるとは限らない、常に移動しているはずだ。

どのあたりで戦地の情報を受けて、その命令を発信したのか……。




―――実に大まかではあるが、アタマのなかにある地図にソルジェは書き込んでいく。

完璧な空間把握で作られた、完璧な地図にね。

そうすれば、敵の行動の履歴がおぼろげながら浮かんだ。

竜騎士の空間把握の、特別な使い方だった……。




―――難解だから、誰にでもやれるってわけじゃない。

知性というよりも、これは感性の問題だからね。

ソルジェの才能が、これに向いていたんだ。

さっそく弱者に対しての心理分析も、使っているよ……。




―――大半の命令書のインクの色が同じだから、供給元は同じと考えていい。

意外とインクの色というものには、違いが出るものさ。

炭の溶かし方には、個性があるからね。

でもね、濃淡の違いがあったんだ……。




―――文字の震えにも、ソルジェの眼は注目していく。

書いた者の『自信』だとか、『勇敢さ』だとか。

そして『疲労具合』や、『年齢や体格』まで。

読み取れるんじゃないか、という期待を込めて分析している……。




―――文字を書く技巧というものは、明確な学問だからね。

政治的な儀礼もあるし、文化的背景や年代によっても流行りがあるものだ。

ソルジェも子供のころから、学問を授けられてはいたから。

一般常識的な事実ぐらいは、知っている……。




―――それらを思い出してまで、使い倒そうという熱心さだ。

もちろん変わった行いだけど、不可能な分析ではない。

一応は貴族であるストラウス家の学術と、最強の猟兵の感覚と知識。

あとは魔眼という特殊な感覚があれば、意外と容易いことかもね……。




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