表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4469/5089

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百二十一


―――治療を受けていたフリジアも、どうにかこうにか立ち上がる。

全身が痛むし、骨のあちこちに亀裂が入っていた。

だが、無理をすれば歩けはする。

戦闘の緊張感が抜けたせいで、痛みのはげしさは深くもなるが気にしない……。




―――ミアとビビアナのところに、行きたかったからだ。

それがフリジアにとって、いったいどれほど大きな意味を持つことか。

親友たちが悲しんでいるのなら、このやさしい少女はそばに立ちたい。

ふたりにすがりつくようにして、フリジアは抱きついたよ……。




「ミア、お帰り……無事に帰って来てくれて、とても嬉しい」

「……うん。あいつは、女神イースといっしょに消えた。私が、殺したよ」

「ああ。レナス……レナスは、きっと本望だったはずだ」

「そうだと、思う。女神イースも、怖くて危険なヤツだったけれど、やさしくもあった」




―――ミアの率直さに満ちた言葉を、理解するのは当事者以外には難しいだろう。

女神イースや『カール・メアー』の巫女戦士たちは、この場にいる大勢にとって敵だ。

自分たちを大いに苦しめた敵に対して、『やさしい』なんてね。

政治的には混乱を招くから使うべきじゃないけど、『今はまだ』ミアは子供だから……。




―――周りの戦士たちに聞かれても、見逃してはもらえるよ。

遠くない『未来』において、ストラウス家の『姫』という地位を得るまではね。

『竜騎士姫の再来』がいるとすれば、それは間違いなくミアになる。

ソルジェのような大男を、どう間違っても『姫』と呼ぶのはありえないセンスさ……。




―――『竜騎士姫の再来』になったときには、政治的な責任も多く背負う。

ガルーナ王の妹姫になるのだから、政治的な勉強もやがては必要だ。

言葉の多くに気をつけなくてはならないけれど、今はまだいい。

ビビアナもフリジアも、この『やさしい』という言葉の意味を理解できたしね……。




―――やさしくて、恐ろしい者だった。

『正義』を心から貫こうとする存在には、多くの場合で共通する特徴のひとつだよ。

『正義』はおよそ、他者のためにあるのだからね。

女神イースとレナスは、利他的な心の持ち主だった……。




―――世界を良くするために、殺し合っただけのこと。

それは猟兵の価値観では、とても素晴らしい体験だ。

ミアからは両者に対してのリスペクトが感じられ、ビビアナはそれに怒ることはない。

叔父を死に至らしめた原因とも言える、今回の敵たちを彼女は憎んでいなかった……。




―――憎むべきかもしれないと、自分に言い聞かせようとしても難しい。

心というものを制御するのは、たやすいことじゃない。

ビビアナほどの知性があっても、いや彼女が賢いからこそか。

敵の掲げた『正義』にも正当性があったと、客観視できてしまうのだから……。




―――『狭間』であることは、この大陸の現状ではあまりにも大きなリスクだ。

両親を死に追いやり、レナスという襲撃者を呼び寄せた。

もしも自分がいなければ、などという想像が彼女の『家族』を喜ばないと理解していても。

自分の存在がもたらした、多くの悲劇があることを無視できない……。




―――ジーの一族を背負うつもりで、生きてきたのだ。

それが『狭間』である自分を、受け入れてくれたメダルドのためだと。

世間のすべてに嘘をつきながら、ビビアナは揺るぎない覚悟で生きてきた。

だが、メダルドの死が確定してしまったとき……。




―――その決意は、あまりにも脆く崩れていく。

ジーの一族は、メダルドの死と共に終わるべきなのかもしれない。

『狭間』である自分が、どれほど周りを不幸にしていくことか。

戦いに疲弊し切ったミアに、負傷したフリジア……。




―――このかけがえのない親友たちさえも、いつか破滅をもたらすかもしれない。

自分が呪わしい存在であると、認識したときにはあらゆることが怖くなるものだ。

正しくないことでも、ありふれている偏見が力を持つことは数多い。

『狭間』である自分に向けられる拒絶の悪意が、周りを苦しめるかも……。




―――ジーの一族は、『人買い』なのだ。

その事実も、変わることはない。

これまでの罪科を、償うための方法を賢くて悲しい知性は見つけている。

『狭間』の『人買い』は、この地で生まれようとしている結束に水を差す……。




―――両親と、叔父からあたえられた愛情に報いるために。

何度もアタマのなかから追い払って来た言葉があって、それがまた現れている。

「私なんて死ねばいいんじゃないか」、そっちの方が周りは幸せではないだろうか。

この大陸で、『狭間』として生きる者の多くはその苦悩に憑りつかれてしまう……。




―――ミアが持っている、『政治的な可能性』にも誰より気づいてもいた。

ソルジェ・ストラウスの妹姫に、自分のような『狭間』の『人買い』が近づく。

そんなことはリスクでしかなく、政治的なリスクというものが何を招くのか?

戦という殺し合いを、呼び寄せるよ……。




―――『狭間』の地位が大きく改善し、融和の象徴になる可能性はあった。

だが、『人買い』という職業はどう転んでもそうはならない。

いつかミアを、不要な戦いに巻き込むリスクになるかも。

心の陰りは、良くない想像力を強いるものだ……。




―――ビビアナは、とても落胆していた。

大泣きしたい気持ちであっても、悲しみに歪んだ顔でそれだけは耐える。

勝利に水を差したくない、まだ戦いは続くのだから。

それに涙や弱さを嫌う者は、乱世ではあふれている……。




―――やさしさが目減りするような時代ではあって、他者への同情や理解よりも。

強烈な悪意や怒りの方が、肥大しているのも事実だ。

涙はこの勝利への冒涜として判断されるかもしれないし、弱者は敵を招く。

ジーの一族が強ければ動かなかった敵さえ、行動させることにもつながるんだ……。




―――とてつもなく賢いからね、言外に求められている態度を把握してしまえる。

そんなことを気にする必要がないとは、ビビアナには思えない。

ストラウス家と、自分たちのあいだには強い絆はすでに結ばれたのだから。

『人買い』ジーの一族は、『自由同盟』の英雄たちとつながってしまった……。




―――『政治的な演技』だとか、個人が背負うべき範囲を超えた『配慮』も必要だよ。

政治がどれほど狂暴で偏屈なものかを知らない無防備なフリジアも、ここにはいる。

フリジアも女神イースと一騎討をしたことで、戦士たちからは一目置かれてはいるが。

『カール・メアー』という立場は、『自由同盟』のどこでも嫌われているんだから……。




―――『人買い』と『カール・メアー』が、ストラウス家の姫君と『仲良し』。

それはもちろん政治的なリスクではあるよ、世の中というものは難しいんだ。

ソルジェには誰も文句を『言えない』、あまりにも腕力と立場が強いからね。

でも、『ほころび』は少ない方がいいのは政治ではある……。




―――ビビアナは、多くのことを考えて計算してくれたんだ。

メダルドの死や自分の運命を嘆いて、泣いてもいいのにね。

それでも必死に耐えて、ミアを抱きしめている。

「涙ひとつ流すべきではない、それは政治的リスクをより強める」と自らに誓った……。




―――もしも、この状況と態度を彼女のご先祖であるジーの一族の者たちが見たら。

ビビアナに対して、最大限の賞賛をしたに違ない。

ジーの一族が研究してきた、心理操作とビジネスの奥義を彼女は理解しているからだ。

この場の最適解を見い出し、涙さえもガマンして『最大限の利益』を目指すなんて……。




―――商人として取れる、最高の社交術を彼女はしているのさ。

このまま、ずっと抱きしめあっておきたいはずなのに。

あえてミアを解放し、「私は大丈夫だからストラウス卿のそばに戻って」と言ってくれた。

ミアは警戒任務があることを思い出し、うなずいたんだ……。




「うん。ふたりとも、またあとで!」




―――それでいい、抱きしめ合っていたいはずだったろう。

それでも、この選択をしたことで政治的なリスクはずいぶんと下がったんだ。

世界はとても複雑な力関係で結ばれていて、それを読み解ける人材は何より貴重。

『竜騎士姫の再来』にとって最高の『政治的演技の指導者』を、ガンダラは見つけたよ……。




―――ジーの一族の研鑽は、これからも大きな実りを呼ぶだろう。

『人買い』をやめた、商売人としても。

そして、ミアを洗練された政治の達人に成長させた功労者としてもね。

ガルーナ王国の『未来』において、大きな利益を彼女はあたえてくれるのさ……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ