第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その四百十九
―――戦いの終結は、新しい戦いの始まりでもある。
ゼファーは疲れた翼をあやつりながら、ゆっくりと地上に向けて降りていく。
戦士たちの歓迎の声を浴びて、誇らしげな笑みを浮かべた。
ガルーナの竜らしく、戦士たちからの賞賛に心を揺さぶられる……。
―――ソルジェも酒盛りでもしたい気持ちになっていただろうが、余裕はない。
ガンダラを見つけ出すと、無言のままにうなずき合った。
やるべきことを、やらなくてはならない。
勝利の演説をして士気を高めたのち、敵にそなえて防御態勢を再構築するのさ……。
「女神イースの脅威は去った!この『オルテガ』で、我々はふたたび勝利を得たのだ!」
―――若い戦士たちは、熱狂する。
帝国の崇拝する女神さえも、自分たちが倒したという事実はプライドを満たす。
多くの者たちは帝国との戦いの果てに、より深い夢を見たよ。
神さえ倒せるのならば、帝国という巨敵さえも倒せて当然ではないかと……。
―――この広大な帝国を、完全に掌握しているファリス帝国。
それを倒せるという確信を胸に抱ける者は、なかなかに稀有なんだよ。
夢みたいなハナシを信じるためには、奇跡が必要だった。
神殺しという奇跡を得ることで、戦士たちは自信を得られたのさ……。
「難敵であったが、我々を勝利した!女神イースの権能は、オレたちの全員を苦しめるものであったというのに、それを成し遂げられた理由は明白である!亜人種の力を吸われたとしても、人間族の力があった!人間族の力を吸われても、亜人種の力がある!誰もが死力を出し尽くしたからこその、勝利であった!!この力は、帝国などにはない!!オレたちだけが持てる最強の力だということを胸に刻め!!」
―――ソルジェは嬉しいんだよ、ゼファーの背から見回せた光景が。
あらゆる種族が、そこにはいたからね。
戦というものは、とても物騒ではあるよ。
でもね、それと同時に人々に本能的な協調と融和も与えられる……。
―――ストラウスの一族は、戦士だから。
竜騎士姫の時代よりも前から、殺して奪って守ってきたよ。
あらゆる種族を率いて、ガルーナの竜騎士は戦ってきた。
その伝統は形を変えながらも、こうして今このときまでつながっている……。
「種族の持つ境界を越えるぞ!!この長い歴史を持つ大陸でさえも、それを成し遂げた者たちはいなかった!!オレたちだけが、それを成し遂げているのだ!!それゆえに、大陸最大のファリスであろうとも、その帝国が崇拝する女神イースであろうとも、オレたちならば勝てるのだ!!この最強の力を生み出したものは、種族の共闘である!!」
―――帝国はとても大きいから、ボクたちの力をすべて合わせなければならない。
ヒトの歴史というものはね、戦いばかりだ。
権力と利益という、ふたつの目的のために。
あらゆる軍勢が終わらない殺し合いを、永遠に続けてきた……。
「『種族の共闘』なんてものは、何とも珍しい例外的なものだ!!オレも賢者ではないが、大陸の各地を戦いながら移り渡り、血と鋼を介して大きな学びを得た!!『種族の共闘』という『力』は、歴史上、ほとんどありはしないことだ!!だが、それを成し遂げた者は、どれだけ強いのかを、オレたち自身で証明してみせたのだ!!」
―――種族の違いというものは、憎しみや嫌悪の基本的な理由になるものだから。
誰もが他者を恐れるものだ、種族の違いは何とも大きな偏見の力を有している。
それを越えられた国家が、この大陸の覇権を掌握した日はない。
それが千年以上も続く、この大陸の歴史だったよ……。
「オレたちこそが、千年の歴史を書き換えた!!ここには、あらゆる種族の戦士が集まっている!!帝国から奪い返した『オルテガ』を守るために、種族も立場も越えて、力が集まったのだ!!奴隷であった者もいるだろう!!豊かな者もいる!!かつては敵同士であった者たちもいるはずだ!!『カール・メアー』の巫女戦士さえも、共に戦えた!!」
「この事実を、忘れるな!!すべての境界線を越えて、一致し、団結し、融け合ったからこそ、神殺しさえも達成できる!!共に戦った、戦友たちの姿を心に刻め!!死しても忘れることのないように!!自分自身とは異なる種族もいるからこそ、オレたちは最強でいられるのだ!!ここに集まった戦友たちの姿が、教えてくれている!!過去千年、誰もが成し遂げられなかったことを成し遂げる最強の軍勢は、オレたち自身なのだと!!」
「千年の歴史を、踏み越えるぞ!!今こそが、千と一年目の始まりだと理解しろ!!あらゆる種族の違いを越えて、オレたちこそが最強の群れとなるのだ!!すべての種族と、すべての土地、帝国の支配を許さぬすべての勢力が、オレたちの戦友となるのだ!!我々こそが、千年を破壊し、新たな『未来』を勝ち取る軍勢の一員である!!」




