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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百三




「……すごいことだよね。本当に、すごいことだ。レナスは、本当にいい子だった!」




―――赤い竜に乗る、『トリックスター』はちいさな手で拍手する。

オペラの技巧で歌われた、悲劇であり聖なる勝利である物語。

それを聴きながら、十分な満足を得たのだ。

ボクたちの『未来』を、勝手にレナスへ預けてしまったことは不問にすべきことかもね……。




「これを、どういう言葉で伝えればいいのかな。わからないけど。すごく、やさしい答えだよ。レナスはね、『あなた』に、たくさんのことを重ねているの。自分たちの人生を、壊した『人買い』のこともだし。それといっしょに、自分のお父さんのことも、重ねているの。だって、あなたが、とてもいい『お父さん』だったから!叔父さんだけど、お父さん!」




「たくさん、辛い目に遭ったのに。命がけで戦って、負けて……たくさんの痛みや、苦しみを抱えて、背負ってしまったのに。自分のためだけに、何だって叶えられる魔法の力を、私とイースがプレゼントしたのに。自分のためには、使わなかったんだ。すごく、大きな選択をしてくれたんだよ!それって、すごく、すごいコトなんだ!レナス、レナス。とっても、すごいよ!」




―――我らの幼い『トリックスター』は、レナスの答えに対して適切な言葉を知らない。

とても複雑な心の結果だから、当然だよね。

筆舌しがたい現象というものは、確かに存在するんだ。

言葉にして表現するのが、おこがましく感じてしまうほどに……。




―――レナス・アップルは、見事な選択をした。

『すごい』、この言葉に尽きるのかもしれない。

レナスのおかげで、ビビアナは父親を二度失う目には遭わずにすんだ。

レナスのおかげで、『自由同盟』が破滅的な打撃を被ることもなくなるだろう……。




―――『カール・メアー』としては、間違いなく『正しくない』ことだよ。

でもね、これは正しいことを『やさしさ』が上回った歌なんだ。

恨みも怒りもあるし、それを克服するのは誰にも不可能だったとしても。

生きて『家族』が再会することを、喜ばしいと思えた者の切なる願いだ……。




―――正義と敗北と死にさえも、たったひとりで勝った者がいる。

歴史上最高の歌い手のひとり、レナス・アップルだ。

幼い女神の惜しみない称賛の拍手のしたで、レナスとリュドミナは最後の任務を始める。

もう剣をひとりで持ち上げる力も残ってはいないけれど、ふたりなら果たせるさ……。




「……私は、恨まれるでしょうか……」

「いいえ。あなたの答えに、誰しも逆らうことはできません」

「よく、やれたでしょうか……負けて、裏切って……女神イースも守れず……何も、かも」

「失ってはいません。あなたは、自分の運命に打ち勝った。この答えに、『カール・メアー』も女神イースも、喜びをもって受け入れる……もちろん、この私も」




―――とんでもない敵だったけれど、素晴らしい師弟だったよ。

よくぞここまで、やってくれた。

こちらがリヒトホーフェンとの戦いで消耗し尽くしたタイミングで、仕掛けてくるなんて。

亜人種の全員から、致死性なレベルで魔力を吸い上げる女神の権能を使うなんて……。




―――『自由同盟』結成以来の、最悪の事態だったのは言うまでもない。

『パンジャール猟兵団』の猟兵として、団長に代わり拍手をしよう。

君らこそ、最大の敵だった。

わずかな戦力で、ここまでの戦果をあげたものなど他に知らない……。




―――望むのならば、英雄として語り継がれるべきことだ。

まあ、君たちはそんなことを望まないのも知っている。

願いは、何だろうね。

女神たちからの力を、誰かのために使ってあげた君たちの願いは……。




―――本当の本当の、最後がやってきたよ。

心のなかに、わずかでもあるとすれば。

願ってみるのも、いいことかもしれない。

女神イースも、我らがアリーチェもすでに力は出し尽くしている……。




―――けれど、願いや祈りを叶えてくれるのが。

神々だけだとは、限らないんだよ。

ヒトには、わずかだけど。

ほんのちょっとだけど、願いも祈りも叶えられる力があるんだから……。




―――空の星々よりも、わずかな力かもしれない。

女神たちにも限界があるから、あらゆる夢が叶うとは限らない。

それでも、ヒトが無力だと決めつけることはないんだよ。

とてつもなく巨大で残酷で意地悪な運命にさえ、負けないほどに強いんだから……。




―――どんな願いが、残っているだろう。

ヒトは夢を見る生き物だから、最後のその瞬間まで。

死んでしまったあとでさえ、夢を見られると信じている。

だからね、レナス・アップル……。




―――君は、最後の最後だからこそ。

新しい夢を見てもいいし、とても古くからの夢を忘れなくてもいい。

死の果てに、見る夢は何だろう。

永遠だとか虚無だとか、無限の終わりを前にしたときに……。




―――君は、終わりなき夢をひとつぐらい。

叶うかどうか、言ってみるべきだ。

神さまの奇跡は要らない、ただ試してみるといい。

あらゆる感情が心にあふれている今だからこそ、自由だと言っているんだ……。




「りゅ、リュドミナさま……っ」

「なんでしょうか、レナス?」

「わ、私は……壊されて、穢され尽くされたような、おぞましい者です……否定は、しないでください。実際に、そうなのですから。だから、すこし……私の言葉を、聞いてください」

「はい。どうぞ」




「とても、おぞましい存在です。そ、それでも……願いごとが、まだひとつだけ。あるんです。とても、分不相応で、おこがましい……でも……こ、この、永遠に……消えて、しまう前に……伝えて、おきたいんです」

「ええ、聞かせてください。レナス」




「わ、私と……っ。私と、ずっと、いっしょに……いてください。死んで、消えて、終わるこのときに。こんな願いを、私みたいにおぞましいものが、口にするのは、あまりにも罪深いのですが……でも、それでもっ。伝えたい。お、お願いです……っ。私と……この終わりのあとまで、永劫の……終わりだったとしても。その、果てまで……ずっと、いっしょにいてください」




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