表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4450/5092

第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百二


―――レナスに託された女神たちの力は、『人買い』に対して使われる。

命を蘇らせると言われたとき、メダルド・ジーは喜んだろうか。

死を望んでいたとは言わないけれど、自分を交渉のために差し出した。

ビビアナを殺さないという約束を女神イースにさせるため、彼は生贄になったんだ……。




―――その約束を反故にされるリスクを、メダルドならば心配しただろうね。

この男にとっては、何よりも優先されるのがビビアナのことだから。

姪のためならば死ぬことさえも、彼は恐れてはいないんだ。

リュドミナはその事実を理解し、状況を見通すための答えを与えてくれる……。




「不安に思うことはありません。『人買い』よ。あなたと我らが主、女神イースとの契約は守られる。たとえ、あなたが生贄の身分から解放されたとしても。女神イースとその眷属が、ビビアナ・ジーの命を奪うことはないでしょう。だから、その点は恐れなくてもいい。恐れるべきは、そちらではないのですから」




―――安堵しただろうね、自分が生き返るせいでビビアナを死なせることにならなくて。

そうであるとすれば、絶対に生き返るような道を選ばなかっただろう。

だが、リュドミナの言葉は不安も呼んだ。

賢い『人買い』は、自分に課せられようとしている新しい運命におびえもする……。




―――世界の成り行きを、見せつけられることになるのだから。

亜人種と『狭間』たちが、人間族と調和できるのか。

それは大きな課題であり、失敗しないとは断言できないことだ。

千年間、誰も成し遂げていない世界が訪れるなどと……。




―――もちろん、誰にも確約することは不可能だった。

生きることで、背負わせられるのだ。

『人買い』の負の歴史をすべて背負い、死んでしまう。

それはある意味、心地の良い死に方でさえあった……。




「そうだ。お前が、死ぬことを許しはしない。死の安らぎを、享受するのを私は許さないのだ。たとえ、あの魔王と竜が、新たな道を築いたとしても。お前は、その道でも苦しむことになるだろう。変えられない過去が、獣となって。お前を心の内側から、喰い破ろうとするのだ。『人買い』よ、苦しむことが、お前の人生となる」




―――レナスは、正直だったよ。

これは慈悲でもあるし、恨みを晴らすための復讐でもある。

『人買い』ジーの一族は、『自由同盟』が勝利の道を歩むとき。

過去の罪科を背負うことになる、消せない過去がメダルドもビビアナも苦しめる……。




―――『自由同盟』が、敗北の道を辿ればさらに地獄を見るはずだ。

『狭間』が生きられない世界で、『狭間』であることが露呈してしまったビビアナ。

彼女をどれだけの悪意が、殺しにかかろうとするだろうか。

それを目撃するリスクを想像するだけで、メダルドは恐怖にすくみあがる……。




「死は、安らぎですらある。忘れるな。私は……『人買い』のお前に、安易な解決を手渡すことはない。とてつもなく、大きな生きることの苦しみを。お前に、背負わせてもやるのだ。望んだことと、背負う罪科。それらに引き裂かれながら、日々を過ごすことになる。それは、大きな苦しみの時間だ。『カール・メアー』の巫女が、強いるべき行いではない。私は、この期におよんでもなお、完璧ではいられないのだ」




―――剣の力で、意識が蘇りつつあるメダルドは当然だと思っていたよ。

レナスの人生が、どれだけ『人買い』に破壊されてしまってかを見ているから。

この時間も空間も可能性も、すべてが普通ではない場所で。

見せられて、共有してしまっているから……。




―――『人買い』であることの罪深さを、これまでも背負ってきただろうけれど。

レナスの悲劇は、あまりにも『人買い』であるメダルドを苦しめる。

許せなくて、当然なのだ。

それでも、レナスは許そうともしている……。




―――それこそ、奇跡そのものだ。

あれだけの恨みも、あれだけの怒りも。

完全な忘却をすることは、出来なかったとしても十分過ぎる。

レナスはあんな目に遭わされても、正しさよりもやさしさを選べるんだ……。




「それでも。お前は、きっと。私の選択に感謝する。愛する者と、共に過ごせるのだ。生きて、共に。それは、多くの幸福を、お前にあたえてくれるはず。笑顔を見るがいい。お前の愛する娘は、お前の帰還に喜ぶだろう。私の父親は、戻ってはこれなかった。でも、お前は、戻れるんだぞ。バラバラに引きちぎられた、家族とはちがう」




「お前は苦しい戦いの日々を過ごしながらも、大きな幸福を噛みしめられる。どれだけの者に恨まれたとしても。どれだけの悲劇を見ることになったとしても。愛する者のもとに、お前は帰ってやれるのだ。私の家族は、『人買い』と戦いのせいで、バラバラになった。死はやすらぎだが、絶望でもある。戻れぬ者の、椅子を見る。戻れぬ者の声を、聴きたくなる。死が、どれだけ残酷で。厳粛で。さみしいものなのか」




「『人買い』よ。生きて、会うがいい。戻るのだ。これが正しいかは、わからない。でも、これは、私が、成し遂げるべきことだと……信じられる。してやりたいから、してやるのだ。もはや敗北でも、勝利でもない。これは、私の叶えられなかった願い。『人買い』に奪われた切なる願いを、『人買い』よ、罪深きはずのお前に託す」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ