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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その四百


「巫女は見届けていく。『人買い』の歴史のひとつが、終わりを迎えるときも。乙女やその叔父が、自ら選び取った道ではなかったが。巫女にはそれも仮面だったと見抜いてみせる。ヒトは素直になれぬもの。本音を隠し、周りを安心させるためにこそ、仮面を用いるものだった。伝統を背負う者は、正義を曲げてはならぬもの」




「賢き者は、演技を好む。仮面の力を使おうとして、仮面に使われることも多くある。やさしき者たちの本音は、やはり仮面の下だ。巫女は知恵でなく、心で見抜いてみせた。『人買い』の道から解放されたとしても、その一族は気高く見える。正しいことを、やさしさが超えてみせる瞬間は、乙女を勇気づけてもくれた」




「変わっていける力が、そこにはあったのだ。親の愛さえ知らない者も、仮面の下で疼いた痛みに導かれたら、やさしくなれるかもしれない。世界を旅したわずかな時間で、巫女は生まれ育った場所を超えたのだ。友情のための、剣であればいい。盾になればいい。偽りの心で、この仮面をまとうのではない。信じる力で、これを使いこなすのだ」




「おだやかな夏の海が見える場所で、巫女は奇跡に出会えた。乙女は愛する者に、受け入れられた。『狭間』の血でもいいのだと。あらゆる常識が教えてくれた、千年の教義が伝えてくれた、当たり前の拒絶が、目の前で打ち崩される。変わらぬ千年の終わりの始まりに、巫女は立ち会っていた。誰よりも、『カール・メアー』らしい者の運命だ」




「いざ、定めに挑むとき。女神が裏切りの罰をあたえようとも、それに耐えねばなるまい。恐ろしき者が現れる。正義の怒りに燃える、復讐の剣。乙女を人質に取り、巫女に罰を押しつけた。友情のためならば、どれだけ罪科を背負えるか。残酷な罰のなかで、巫女は友情を信じていく。大きな苦しみは、同時にやさしさも育んだ」




「敵であってもいいはずの者に、手を差し伸べる。あわれな魂だと、思い出せたからか。それとも、無数の孤児たちの魂に同情したからか。すべては、運命の糸のもと。ひとつの繭のなか。理不尽な悲しみに襲われた者を、ただ守ろうとする者がいる。慈悲深く、聖なる母の心を持てたのだ。悲しい子供たちのために、その命も定めも捧げられる」




―――女神イースが、そうしたようにね。

フリジア・ノーベルも、それをやっていたのさ。

親の愛を知らない彼女だったけれど、そんなことは関係なかった。

多くの痛みや出会いが、彼女の最も大切にしていた者と同じ母性に至らせた……。




―――『カール・メアー』で育てられた、最も純粋な者がそうなったのはね。

とても宿命的なものであり、彼女たちの勝利のひとつだろう。

ほかならぬレナスとリュドミナが認めているのだから、何よりの証拠じゃないか。

ヒトと女神のあいだにいる、聖なる尼僧たちは勝利したんだよ……。




「我らはヒトと女神のあいだにあって、あらゆるヒトを楽園へと導く者。罪深く彷徨い、痛みのなかで叫びをあげる者たちに、真なる慈悲の道をしめす。我らが大願は、果たされた。自覚もできぬ定めの果てに、巫女はすべての試練に打ち勝ったのだ。怒りの炎の剣も、今はしずかに。あらゆる命の安らぎを祈る」




―――レナスも、そのはげしくて痛ましい不幸な人生に。

ちゃんとした、答えと意味を見つけられた。

レナスが愛して選んだ、女神イースと『カール・メアー』の道は。

フリジアとの交流と、女神イースの見せたやさしさで新たな解釈を得られた……。




―――女神イースが言ったとおりに、レナスたちの苦しみには意味と価値がある。

大いなる挑戦も、その失敗と死にさえも。

これは『正義』の勝利ではなかったと思うけれど、やさしさの勝利だ。

あらゆる障害は取り除かれて、あとはただ歌い手たちだけが残る……。




「……聖なる女神よ。おあたえください。ただ、静かに祈れる場所を。あらゆる死せる者たちと、あらゆる生ある者たちのために。命を持って生まれた、あらゆる者たちのため。おだやかで、しずかな、歌と祈りが響く場所にお導きください」




「それでも。憂鬱な孤独は、好みません。赦されるのならば、愛する者たちと。永久にいっしょでいられる場所を。私は、もはや孤独である必要はありません。肉体のくびきから解き放たれた。迷いある現世を旅することもない。敬愛する師と、私を愛してくれた父母たちとともにいられる、おだやかな静寂へと還ります」




「もしも、私の罪が赦されずに、地獄の痛苦を背負うべきならば。その道を拒むこともありません」

「……その罰があったとしても。孤独をあなたには、あたえない。私も共に、行くからです」




―――子供みたいな笑顔を、レナスは浮かべていたよ。

レナスだけでなく、リュドミナもね。

聖なる歌の師弟は、死後も永遠に。

あらゆる者のために、祈りの歌で遊ぶのさ……。




―――そこが天国であろうとも、そこが地獄であろうとも。

慈悲深い女神イースが、どんな裁定をするのかは。

信者じゃないボクでも、分かっているんだけれどね。

いずれにせよ、歌い手たちは笑顔のまま……。




「……最後の、力を使いましょう。リュドミナさま」

「……ええ。あなたに託された、この剣を……あなたの、願いのままに」




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