第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その三百九十八
「運命は星の巡りにしたがって。変わらぬ愛で、時間を回す。『人買い』の兄と、かつて奴隷だったエルフのあいだに、新しい命が紡がれた。たとえ世界が呪ったとしても、神さまたちが許さなかったとしても。ふたりで、その命を守るのだ。ひとつの祝福を、迷わず選ぶ。命を捧げつつ、いつか『帰ってもいい場所』へと、命脈をつないだ」
「世界でひとつだけ、信じられる者がいた。やさしい弟のことだ。罪深い道を歩みながらも、賢き妻の機知に救われる。あなたのしたいように、生きればいいの。彼女の命が消え去ったとしても、言葉と愛は永遠だ。弟のことを、いつまでも守ってくれる。運命は星の巡りにしたがって。どんな孤独な結末でも、ひとりぼっちには、もうなれない」
「善と悪の矛盾を、いつも正義は突きつけた。正しいことをしたくても、選びきれないほどの数。すべての命が生きていてもいいなんて、そんな願いは圧しつぶされた。やさしいことは、弱さも伴う。正しいことが、やれなかったするのなら。せめて、抗うように。可能性を信じるのみ。『人買い』が、やさしい道を選ぼうと。矛盾だらけの世の中では、何一つおかしくもない」
「残酷な振る舞いを演じよう。自らの罪を知りつつも、目を背けながら道を進む。仮面と賢さに頼りながら、せめて、生き抜いてくれる道を、奴隷にあたえる。意地っぱりの、ひねくれ者のように。やさしい嘘を、つき続けた。魂は正しい方と、そうではない方に引っ張られ合って、引き裂かれそうなほどに痛くなる。それでも、耐えられた。思い出は、愛をずっと保存してくれる」
「ちいさな命は、生まれたけれど。世界は意地悪で、彼女が生きていることを呪うのだ。まだ罪のないはずの命さえ、誰も彼もが遠ざける。血を盗んだ者だと責め立てて、あらゆる災いの元だと、決めつけた。友達のひとりも、できないけれど。両親の愛は、命で守る。終わらない愛で守るため、命の灯が消えたあとも、守るため。戻るべき家への道を、命で作った」
「伸びぬ耳の魔法があって。おかげで、人間族に化けられる。魔法の代償はいつでも大きく。両親の命は燃え尽きた。弟は真実を知ると、その重たさに嘆いてしまう。悲劇のときに、誰しもが思った。時を巻き戻せたら、どれほどいいものか。それと同時に、運命のかたくなさも思い知る。そうだとしても、ふたりは同じ道を辿っただろう。愛し合い、この子のために命を使い尽くすのだ」
「死でも苦しみでも。可能性でさえも、勝てない愛があるとするのなら。それのために、弟が選ぶ道もひとつだけ。この嘘で偽ることが、この子の命を守るなら。真実でなかったとしても、幸せをあたえてくれるとするのなら。迷うことなく、ただその道を進む。罪深い嘘つきの道を突き進み、あらゆる罰も恐れない。愛する者ため、自分の命も使うのだ」
「罪のない子供は、叔父に応えた。嘘と偽りを使いこなす、賢い者として生きていこう。孤独と嘘がつきまとう、この命に意味があるとすれば。注いでもらった愛に、報いたときだけ。幸せになりたいのも、生き抜くことも。願いじゃなくて、義務なのだ。どんなに心が真実に引き裂かれそうになろうとも、私には生きる義務がある。幸せになる義務がある。真実でなかったとしても、そうすることが報いる答え」
―――六つの属性で、男も女の声も使いこなす。
レナスは変幻自在に、『人買い』たちの物語を歌っていくよ。
『人買い』が大嫌いなはずのレナスだけど、『今』は憎しみも怒りもやわらいでいる。
死んだ者たちは、とても自由だったんだ……。
―――リュドミナも、この時間を楽しむだろう。
やさしい笑顔は、きびしい詠唱長のそれじゃない。
ありふれて、どこにでもいる。
それでいて、とても素敵な笑顔で笑う者のひとりになれた……。
「星になった者たちの、願いに報い。時はゆっくり進んでいく。無垢な子供の背は伸びて、乙女となった。叔父を手伝う、一族の聡明さを受け継いだ乙女に。矛盾と仮面を使いこなしながら、愚かな貴族の求婚も断ってみせる。愛しい者は、別にいた。叔父は思慮深く、この乱世で家族を守ろうと必死に生きた。どんな不本意なことでさえ、見事に使いこなしていくと誓う」
「乱世は、欲深な敵を招き入れた。嫉妬に狂ったみじめな貴族が、蛇のように乙女へと近づく。守るための芝居の果てに、叔父の心臓は毒に呪われた。死が迫りつつあるとき、竜騎士たちに出会う。竜騎士と約束を交わした。大切な者を守ってくれと、一枚の銀貨で雇用する。空の傭兵は、命に報いることを好んだ」
「乙女の前に、黒猫がやってきた。共に母を亡くした者同士。心は自然と、惹かれていく。さみしさの音階は、いつも共鳴を巻き起こす。寄りそうことで、救いは生まれた。友達のいない、孤高な乙女も、ゆっくりと。両親の残した願いの通りに、変わっていく。けして、ひとりぼっちじゃありませんように。そして、魔法に導かれた者が、またひとり」
「女神の名のもと、刺客として現れる。異教を倒すため、信じる教義を脅かす、あらゆる敵を罰するために。炎のような意志のもと、奇妙な縁に絡め取られる。巫女は知っていく。純粋さだけでは、説明もできない複雑な。聖なる山にはない、混沌のような可能性。愛される者を見た。親に捨てられた者は、誰よりも親に愛された者と出会えた」




