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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百九十五


―――歌がどこからやって来るのか、それを問うた者は少なからず。

それと同時に、明瞭な答えを得られた者は多くはいない。

難しいからじゃなくて、すこしばかり理解しがたいからだよ。

レナスは威厳ある父親の声を使い、空を揺らした……。




―――それは彼の実際の父親よりも、ドワーフの職人あたりに似ている。

当然だろうね、この低く揺れる深い音というものは。

やさしかった彼の父親よりも、怒鳴ることが仕事のひとつだと信じる親方仕事に向く。

うなる雷のように、聴く者の腹の底まで揺らしていたよ……。




「あら。それは、ドワーフの歌い方ですね」

「はい。ダメでしょうか?」

「いいえ。私は、その歌い方も好きなのよ」

「そうですよね。この厳父階級の音には、ドワーフのそれが相応しいんですから」




―――人種差別主義者たち、というわけもでないのが難しいところだね。

レナスは短慮と怒りから、衝動的に差別主義めいたものに憑りつかれてはいたけれど。

リュドミナに至っては、そういう感情さえもないんだから。

ただの善意であり、ただの正義の齟齬の結果にすぎないし……。




「ドワーフの歌声は、この音に適しています。よく、学べていますよ。これは、私の祖父が怒鳴っていたときを思い出せます。老いた牧羊犬のように、低くて長く、うなるのよ」




―――ドワーフの声には、そんな感情まで持っていたらしい。

愛する『家族』をも、連想させる音だったと。

純粋な音楽の達人としての価値観も、彼女は有していたわけだ。

もっと邪悪な背別主義者だったら、解釈が楽になっていいんだけれどね……。




―――慈悲のために、殺すなんて。

めちゃくちゃな考えのくせに、とってもやさしい人たちでもあるから困るよ。

『カール・メアー』らしく、ややこしいんだ。

ドワーフの楽団で、オーボエでも演奏すれば良かったかもしれない……。




―――それだけで、彼女は何かの罪科を選ばずに済んだと思う。

ちょっとした違いさ、本当に困ったものだよ。

レナスとリュドミナは、今はとても無邪気だ。

生きているうちに、もう少しと願ってしまうのは生者のおごりだろうか……。




―――今度は女エルフの歌い方を、レナスは真似た。

幻想的なまでに、透明感のあるあの声質だよ。

尼僧として生きようと試みた、男として生まれた者は研究熱心だったわけだ。

最も女らしい声を求めて、研究していたんだね……。




―――それは空の音さ、どこまでも広く透き通りながら響いたハミング。

乙女の音を、レナスは完璧にこなしたよ。

今までで、最も上手に。

リュドミナもとても嬉しそうな笑顔で、拍手をしてくれた……。




「すごいわ。さすがは、レナスね」

「……少々、照れます。どこか、劣等感もあったんです。私は、本物の女にはなれなかったですから」

「いいのよ。それでいいの。だって、そこから……歌はやってくるのだから」

「……はい。私たちらしい、場所だと思います」




―――どこから歌が、来るのかだって。

ボクは答える義務はない、それはもう少し先で出会えばいいのだから。

音楽の師弟は、ニコニコしているよ。

敵として出会ったことは、もうずいぶんと昔な気がする……。




「姫君の声は、用意できたようね。次は、どうするのかしら?やはり……もちろん」

「はい!騎士の声が、相応しいと思うのです」

「お姫さまには、騎士の声がとなりにいた方がいいものね」

「は、はい!」




―――ああ、青臭い恋心の間の抜けたこと。

垢抜けない田舎臭さで、身勝手な妄想を呼び起こす。

リュドミナが恋の猛者なら、気づけたのかもしれないね。

誰かの騎士になりたかった者がひとり、歌い手をやっている……。




―――人間族の男の声だね、力強さと華やかさがある。

それでいて繊細で、お姫さまのとなりにはピッタリかもしれない。

これはきっと、うちの団長さんだとか。

アリーチェのご両親も喜ぶだろう、かつてエルフを娶った騎士がふたり……。




「男性らしくもあり、どこか気品もありますね。あなたは、この声が得意だったのに。いつも、遠ざけてしまっていました」

「は、はい。申し訳ございません」

「いいのよ。許してあげます。『今』このとき聴けたなら、十分ですから」

「はい。どうにか、ギリギリで……間に合いました」




―――はかなき者たちの、無欲なこと。

僧侶はもっと、現世を生き抜き欲深くあった方がいいかもしれない。

こんな歌の生まれ出でる場所で、出会ったからといって喜び過ぎは良くないよ。

その純粋さを、好んでいたから信心深くあれたのかもしれないけれど……。




「次は伝統に従って、大臣賢者の声のはずね」

「もちろんです。選ぶべきは、ただひとつ。不撓不屈、どんな悲しい運命からも岩のように逃げない者たち……」




―――巨人族の男の声さ、決まっているね。

賢さと忍耐を、どの種族よりも合わせ持つと言えば彼らを差し置いてはいけない。

冷静なくせに、温かくて。

それいでいてしぶとく強く、静かに耳へと残ってくれるんだ……。




「幼いころに、会いました。彼は、旅する僧侶の従僕でした。とても重たい荷物を運びながらも、不平のひとつも言いません。まるで、大きな山脈のようなのです」

「あなたは、たくさんの……いいえ。つづけましょう。まだ、足りませんから」

「はい。子供の声を、選びます」




「あら。伝統とは異なるけれど。その順番でも、問題はないわね」

「だったら、良かったです」

「聞かせて。それは、もちろん……」

「ケットシーの女の子を、真似るべきですよね!」




―――豊かに弾む、愛おしい可能性の音域だ。

誰もがその明瞭さと、幻想と現実のあいだを行き来する元気の良さに魅了される。

ミアも、竜騎士姫に使えた名前を捧げた黒髪の乙女もうなずくさ。

ああ、見事な声が空に弾みながら伸びて広がる……。




―――リュドミナも、天才だよ。

彼女の拍手が、レナスの能力を引き上げていく。

ケットシーの呼吸も心音も、口腔の構造も理解し尽くしていた証。

まったくもって、詠唱の長たるや……。




―――さて、最後の声を選ぶべきときがやってきた。

リュドミナの魔法の拍手が止んで、今はただじっと見つめて待っている。

とてつもなく、勇気がいるからね。

歌の生まれ出でる場所から、それを『カール・メアー』の者が探るのは……。




―――ただひとつ、救いがあるとするのなら。

ビビアナ・ジーは、生きている。

かつて殺してしまった者や、すでに死んで女神となった少女とは違ってね。

豊かなる境界の僧侶、男と女のはざまにいる最近のレナスが目指した声……。




「『ハーフ・エルフ』の声は、とても……僧侶らしいのです。私も、目指した場所でした」




―――歌の生まれ出でる場所は、もちろんあるよ。

あらゆる歌い手たちが、ちゃんと伝えて来たけれど。

その意味が、しっかりと伝わったかまでは定かじゃない。

記憶から、いつだって歌が生まれた……。





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