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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百八十五


―――アリーチェは、満足していた。

女神イースと話すことになると言われ、ぶたれたように強ばるレナスに。

自らの力を込めた剣をひとつ、手渡していたよ。

レナスの指を広げて、ていねいに握らせてあげるんだ……。




―――レナスには、権利が与えられている。

その剣を振り回すことで、武装を解除したアリーチェに挑めるんだ。

今度こそ、一太刀を通せるかもしれない。

もちろん勝てるかは分からないけれど、少なくとも意地を通すことは可能となる……。




―――権利と力を手渡されても、レナスは強ばり怯えている。

『狭間』のことが大嫌いで、アリーチェのことはとくに嫌いだ。

赤い竜に乗ったのだ、血まみれのルルーシロアじゃない。

自分たちを倒したミア・マルー・ストラウスでもない、もっと嫌いな存在……。




―――『プレイレス』全域と、その周辺にいた人々たちを『汚染』した『冒涜者』だ。

女神イースの威光を穢されたと信じるのなら、『カール・メアー』の戦士として。

その剣を一太刀でも、叩き込んでやるべきだったのに。

反射的に手放したくなるんだ、どうしてかは自分でも分からない……。




「『自由』は、意外と難しいことだもんね。でも。大丈夫だよ。どんな使い方だって、していいの。この剣を、どうぞ。どんなことを選んでも、私はあなたを嫌いになれないの」




―――分からない言葉だったよ、アリーチェが何を言いたいのかを理解できない。

それでも半ば無理やり、子供ならではの無邪気な純粋さが剣を握らせる。

男の子は本能的に剣に憧れて、巫女戦士ならば自らの信念の化身とすべきもの。

レナス・アップルの手に、剣は託されたんだ……。




「がんばってね。聞きたいことも、言いたいことも。ぜんぶ、ぶつければいいんだ。それをやれる最後のチャンスだから。ぜーんぶ、ぶつかり合えばいいの。怖がらなくていい。女神イースは、とっても、やさしいんだから!」




―――多くの子供たちに、それぞれの幸せな世界を創ってあげた。

それだけで十分だよ、アリーチェにとってはね。

女神イースは、知りうる限り『いちばんやさしい神さま』かもしれない。

おじいちゃんは別腹として、そんな結論に至らせたんだ……。




―――ニコリとした笑顔を浮かべ、アリーチェは砂浜を歩く。

どこまでも隙だらけだから、戦士ならば斬りつけるべきだった。

でも、アリーチェは斬られることはなかったんだよ。

ゆっくりと夏の暑さの砂浜を踏んで、たくさんの子供たちがいる海へと向かう……。




―――女神として、どんな振る舞いをすべきなのか。

最も新しく、そして最も幼い女神さまにとって。

そんな些細なことを、気にしている余裕はないんだよ。

夏の海で遊ぶ子供たちを前にすれば、彼女がすべきことはもはやひとつだけ……。




「みんなー!私も、混ぜてー!!」




―――信じていれば、怖がる必要さえなかったんだ。

考えることも、まってくもって必要じゃない。

ちょっとした素直さで、自分がそこにいるのだと主張してみればいい。

アリーチェは、大勢の子供たちの前で両腕を元気いっぱいに振っていた……。




―――やっぱり夏の海は、とても懐の深い空間だったよ。

『狭間』の子であっても、受け入れてくれる。

子供たちはアリーチェの期待に応えてみせたよ、拒むことは一切ない。

いっしょに海で遊ぶことを、歓迎してくれていたんだ……。




「うん!いっしょにあそぼう!」

「こっちにきて!こっちにきて、あなたはわたしたちのチーム!」

「なにして、あそびたいの?」

「およぐ?みずかけっこ?おいかけっこ?それとも……ぜんぶ!」




―――生きていたころのアリーチェでも、こんな出来事はなかったかも。

だってね、『狭間』という存在はとても嫌われているから。

親たちが嫌うから、ちゃんと子供たちも幼くして習得してしまう。

差別すべき対象だと、『狭間』を嫌うようになるからね……。




―――でも、この海では違ったんだ。

どの子も、アリーチェという『狭間』がいっしょに遊ぶことを許してくれる。

憎しむべき理由を忘れてしまったのか、それとも違う理由からかもね。

姿かたちが違うからといって、子供たち同士が遊んじゃいけない理由はない……。




―――夏の海は、やっぱり魅力的なものだった。

暑さを和らげてくれる、涼しさがそこにはあって。

それでいて、どこか冒険の心をくすぐってもくれる。

泳ぐだけでも心地良いし、どんな遊び方だって自由に受け入れてくれるんだから……。




―――生きていたころには、確かにここにいる全員を縛り付けていたものがある。

でも、今このときにはなくなっていたんだ。

堅苦しいことなんて、気にする必要はもはやなく。

ただただ子供たちは、夏の海で遊べばいいだけのこと……。




―――それを見ているレナス・アップルの目は、どういうわけか泣いている。

その涙に対して、どんな意味合いをつけてあげるのかはレナスに委ねられた。

とても『自由』で、とても罪のない者たちが目の前にいる。

逃げるように見上げた空は、とても青くて吸い込まれそうだった……。




『……さあ。レナス・アップル。私に聞かさてくれ。私に聞いてくれ。お前の心のなかにある、すべてのことを』




―――奇跡を創り、燃え尽きそうな女神はもはや小さい。

威厳のなくなった幼い無垢な声で、この地獄みたいな世界を生き抜いた者に言った。

これが最後の時間、女神の遺言と最後の赦しの時間。

空に吸い込まれそうにうなだれた者は、剣を抱き寄せながら口を開く……。





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