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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百八十二


―――幼い頃から、少しは理解していたつもりだ。

しかし、『狭間』の苦しみは理解しているとは言い難い。

貴族の父親と、気高いエルフの魔術師である母親がそばにいて。

結束の強い、傭兵じみた騎士団が守ってくれていたから……。




「私は、『狭間』の子たちの苦しみまでは、知っていなかったかも。ひどい目に遭うんだね。『狭間』だったら、あれだけ憎まれてしまうんだ。悪いこと、してもいないのに」




―――アリーチェは、間違いなく恵まれている。

『狭間』でありながら、周りから守ってもらえた。

『姫さま』も、彼女をかわいがったんだ。

奴隷貿易を仕切っていた、ライザ・ソナーズのことさ……。




―――帝国貴族であっても、こっそりとだが『狭間』を可愛がることさえある。

アリーチェには、不思議に思えた。

例外であるからこそ、率直な疑問をぶつけられる。

どうして、そこまで『狭間』を嫌いなのか……。




『……ヒトは、異質な者を拒むからだ。どれほど取り繕っても、それは本能のように、行動を支配する。同じ種族であつまり、異なる種族を排除する。お互いを分けるようになるのだ。そうすることで、安心を得られる』




―――千年の観察の結果を、端的に女神イースは教えてあげた。

レナスの苦しみの日々を見つめていれば、納得もできる。

地上は人間族と亜人種、そして『狭間』のなかで争いばかりしていた。

それでも、アリーチェは絶望することが不可能だ……。




「だって、私がいたもんね」




―――それは例外ではあったけれど、特別なことだとアリーチェは思わない。

バハルとセリーヌという、偉大な両親のおかげかもしれないね。

彼女は正しい、現実にありふれた現象を受け入れなくてもいい。

彼女は、すべき道が見えた……。




「変えれば、いいだけだもん」




―――世界を変えてしまえばいい、やさしい神さまらしい意見だ。

女神イースは、それがどれほど困難な道なのかを知り尽くしている。

千年のあいだ、世界は変わらなかったというのに。

でも、女神イースも選んでしまったのだ……。




―――ソルジェを妨害する道ではなく、目の前にいる子供たちを助けることを。

それは、事実上の委任に他ならないよ。

苦しみながら、自分を壊していくレナス。

彼女を最も壊してしまったのは、罪なき子供を焼いたときだ……。




―――そういう苦しみは、永遠に残る。

ヒトの焼けたにおいは、記憶の底にこびりついているものだ。

単純なソルジェでさえも、セシルのことを忘れられない。

命の焦げてしまった、あの黒く焼け焦げたにおいを……。




「ああいう苦しみを、背負わせないためにするには。みんなが、もっと仲良くなればいいんだよ。無理じゃないもんね。知ってる。ヒトってね、器用なんだから!」




―――多くの革命家たちや、学者が気づくことさ。

世の中を変えるためには、「分からせてやればいい」と。

アリーチェは、いくつかの考えをまとめた。

そのアイデアのなかには、間違いなく残酷なものも含まれている……。




「『狭間』を、いじめる人たち全員を、千年のあいだ焼いちゃうとか」




―――無邪気な者の罰は、容赦がないこともある。

アリーチェに、大きな悪意はないんだ。

だって、戦士の家で育ったんだからね。

荒っぽいことも、当然のように受け入れられるよ……。




―――『敵』に対して、容赦なんてしない。

それは、むしろ失礼なことだと古い騎士道は説きもしているほどだから。

肝心なことは、それがおそらくある程度は有効だということだよ。

『狭間』に『究極の力』を授ければ、彼らはいじめられなくなる……。




「けっきょくは、力の問題だもんね」




―――戦士としての血は、正しくて乱暴者の発想だ。

その答えに至ったのも、至極当然だろう。

だって、かつて焼かれた罪なき『狭間』の子のそばに。

今の力と意志をもったアリーチェがいれば、レナスを焼き払って止められたから……。




―――悪を、焼き尽くす。

罰をもって、世界を変えてしまう力。

アリーチェは、それが『とても手っ取り早くて有効』である事実を知っていた。

正直なところ、危ないところだったかもね……。




―――アリーチェが、レナスの人生を見ていなければ。

今後は『そういう方針』で、世界を変えるために暴れようとしたかもしれない。

正しいことではある、強くなれば『狭間』も差別されないんだから。

彼女は周りから無条件に迫害され続けるだけの『狭間』ではなく、愛された子だ……。




―――『狭間』の友人たちを持つボクからすれば、それは問題ない選択にも思える。

いじめられていた者たちが、ついに反逆の力を手に入れるなんて正しいことだから。

それでも、そういう選択は血みどろだったろう。

争うだけでは、おそらく解消できない溝がある……。




『力に頼れば、やがて力が尽きたときに、元通りとなる』

「……そっか。そうかも。でも、でも。それじゃあ、どうすればいいのかな?」

『私の選択は、尽きた。亜人種も『狭間』も消し去り、それらの差を失くすという解決方法は』

「それは、私たちからすると、サイアクの解決策だね。お父さんも、怒る。お母さんと出会えなくなっちゃうもの」




『ならばら、お前たちが見つけるべきだ。私の成すべき道ではない。お前や、ソルジェ・ストラウスたちが、どうにかしろ』

「丸投げされちゃった。女神イース、ずるい!」

『倒されたのだ。力でな。敗者を踏み越えて、行くべきだ。勝者たちよ』

「なるほど。それも、たしかにそうだ」




―――戦いについて、肯定的な考えをする。

ちいさくて細い腕を組みながら、アリーチェは歩いた。

泣きながら怒り、壊れながらも女神イースを復活させていくレナスを追いかけながら。

女神イースも、その後を追いかける……。




―――脚に力が、入っていなかった。

追いかけるのも、ようやくだ。

最後の時間が、近づいている。

女神イースは多忙だ、この時間の裏側で多くの子供たちに世界を与えてやっていた……。




―――幸福な、終わり方かもしれない。

母性を強めている女神イースは、アリーチェにも母親めいた感情を抱いた。

女神の先輩として、何か助言をしてやりたくなる。

だが、どうにも難しいことだ……。




『私は、失敗してしまったから』




「そうだっけ?だって、たくさんの子供たちを、喜ばせてあげられてるよ」




『……救われる言葉だな。私は、あんなに必死なレナスたちの願いを、叶えてやれなかったのに』




「戦いは、勝ったり負けたりするものだから。気にしないように。あなたが負けても、あなたを継いだ者が勝てばいいんだもの!」




『私の、後継ぎか……』




―――それは、間違いなく。

目の前にいるのだと、女神イースは直感した。

この戦いは目的を変えて続くのか、どうにも都合がいい解釈でもあるが。

だが、そうだとするのなら……。




『許されるかも、しれないな』

「許されるって、誰に?」

『レナスたちに。私は、裏切ってしまった。期待に沿えなかった』

「みんなで戦って、みんなで負けたんだから、しょうがないよ。みんなの責任」




『……みんなの、責任か』

「そのとおりでしょ。だからね、気にしないの。そんなことで、悩むヒマがあったら、いい答えを考えないとね!」




―――前向きで、純粋で無垢で狂暴でもあるくせにやさしい。

そういう子供そのものみたいなアリーチェは、立ち止まった。

自分と同じ『狭間』を、レナスがまた見つけたからだ。

もちろん、ビビアナ・ジーだよ……。




「『人買い』の娘ごときに!!」




―――運命は、レナスの心を逆なでしたよ。

『人買い』を誰よりも憎み、『狭間』を嫌おうとしている。

そんなレナスにとっては、そのどちらでもあるビビアナは最大の敵だ。

複雑な運命を見ながら、アリーチェは「うーん」とうなる……。




「なるほど。レナスには、どうしても認められないんだね。なるほど、なるほど。でも、でも……でもさ、女神イース」

『どうした、アリーチェよ?』

「なんだかね、このあたりに……答えが、いる気がするの!!」

『答えが、いる……?』




「うん。分かってきたぞー。私が、感じ取ったのは……あの子だもん。ビビアナ・ジーのことを、ソルジェに頼んだの!!」




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