第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その三百六十五
―――狙ってもいたし、狙わされてもいた。
ソルジェがそうであるように、ミアもまた最高の戦士のひとりだから。
ミアは言葉ではなく、その『戦い方』でこそ伝えていたんだよ。
兄に対して、絶好のタイミングで連携しろと……。
―――まさに、これこそ『空の女王』らしい戦い方だと言えるものだ。
『攻撃』に優れた才能をもつ彼女たちは、ソルジェとゼファーも連携に巻き込んでいた。
それらは自然な流れで組み合わさったものだけど、すべては大きな理解のなかにある。
最善の動きをしているだけで、必ずソルジェとゼファーは合わせてくれると信じた……。
―――戦いの場というものは、やはりその他の場所と比べて単調であり純粋だから。
強さを見せる力学に、すべてが引きずられていく。
ルルーシロアに最高の飛び方をさせたとき、ソルジェとゼファーは見切ったのさ。
必ず、敵のどちらか片方は追い詰めることになると……。
―――空で踊るルルーシロアの動きには、それだけ圧倒的なメッセージがあった。
ならば、自分たちが初撃になることを選ぶ必要はない。
追撃の役目を担い、確実に敵を仕留めればいいだけ。
ミアとルルーシロアに指揮されて、ふたりはこのタイミングで参戦していた……。
―――ソルジェは、喜んでいる。
ミアの成長は、猟兵としても竜騎士としても素晴らしいものだ。
兄として、それらを誰よりも喜んでいられる。
それと同時に、兄としてのプライドもくすぐられていたよ……。
―――そうたやすく、乗り越えられたくもない。
兄らしいというか、戦士らしいというか。
ひとりの猟兵として、竜騎士としてのプライドも刺激されている。
負けたくはないのさ、負けることに慣れた獣でいたくなどない……。
―――先ほどの突撃が、白い彗星だとするのならば。
こちらは、漆黒の流れ星。
ソルジェとゼファーは技巧を尽くし、『風の変数』を読解しにかかる。
集中を極め、敵を認識し自らの最善とは何なのかと心と体に問いかけた……。
―――彼らもまた、世界でいちばん強い獣でありたい者たちだから。
ミアとルルーシロアが、完璧な飛び方をすれば嫉妬だってする。
でもね、それは悪いものじゃない。
ふたりの能力を、さらに引き上げる最高の起爆剤にもなるのだから……。
―――全身、全霊。
すべての関節と筋肉を、使い抜く。
知識を燃料に、つながる意志で最速と最強を目指すのみ。
大きな翼が、気高さに満ちた……。
―――空を屈服させるような狂暴さで叩きつけ、風と空を貫いて加速する。
漆黒の流星に化けたふたりに、女神イースもようやく気づけた。
考えてしまう、どちらの竜を相手にすべきなのかと。
それは刹那に過ぎない迷いであったけれど、竜騎士と竜の前では致命的なミスだ……。
「ゼファー!!歌ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええッッッ!!!」
『GHAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHHHッッッ!!!』
―――加速しながら、歌ったのさ。
黄金色の『火球』に、流星の分ほど速さが加算されていく。
あれだけの超高速状態から、速度を殺さないまま『火球』を放てるなんて。
ミアは、ニンマリと笑う……。
「さすがは、お兄ちゃんとゼファー!」
―――ソルジェとゼファーには、ミアとルルーシロア以上の大きな力があった。
それは、コンビを組んでからの経験の長さだ。
多くの戦いを、ふたりは歩んで来たから。
お互いのリズムについて、どこまでも把握している……。
―――だからこそ、竜騎士の体重移動と。
竜の翼の連動を極めて、『火球』にはどうしてもつきものである『反動』を御せた。
爆発的な衝撃を見事に分散しなければ、自らの力で傷つく可能性さえあるのに。
経験は矛盾をも凌駕する新たな力学を、創発してしまうものだった……。
―――才能そのものは、どちらのペアが上なのかは甲乙つけがたいところもある。
ミアはケットシーを経由して伝わった、竜騎士姫の技巧に『向いている』のさ。
ソルジェは人間族だし、そもそも大男だ。
竜騎士姫の戦い方を、『完璧に真似る』ことに関しては劣るだろうね……。
―――それでも、だからと言って才能の劣りにまで結びつけることは出来ない。
ソルジェの竜騎士としての技巧と知識には、オリジナルの要素もあるからだ。
本当の天才というものは、創発に優れているものだからね。
あらゆる既存の要素を、無意識的に新たな形へと組み替えて行く能力のことさ……。
―――ソルジェはね、女である竜騎士姫の体とは違うから。
だからこそ、それを完璧に真似るのは難しい。
ストラウス家が伝えて来た技巧は、ミアの方が向いているんだよ。
でも、竜騎士姫の魂はソルジェに似ているかもね……。
―――竜騎士姫は、ガルーナの竜騎士の技巧を一新した存在だ。
だからこそ、再現されたその技巧がその後の竜騎士の技術体系を支配した。
『かつてより優れた技巧』だからこそ、ここまで受け継がれている。
つまり、竜騎士姫の本質は『革命者』だ……。
―――ストラウス家が伝えて来た技巧を、より進化させられるかもしれない。
伝統は確かに大事なもので、しかもとてつもない天才の遺産であればなおのこと。
それでも、技巧と知識はいつでも進化を望む。
アーレスの血を受け継いだ竜たちは、竜騎士姫の時代の竜とは異なる生物だ……。
―――その数を減らしたとしても、より強力な進化を果たしている。
もしも、竜騎士姫がこの時代に生きていたら。
かつての技巧と知識だけで、満足したとは限らないということさ。
今のソルジェは、竜騎士と猟兵のハイブリッドでもある……。
―――女神イースが、集めた『雷』を『火球』に向けて放った。
それらの力は衝突し合い、強烈な爆破を生み出している。
互いの威力が相殺して、引き分けめいた形となったが。
空を焼き焦がすような爆発の向こう側で、ゼファーは次の攻めを組み立てている……。
―――その身を、ひねるように回転させていた。
ルルーシロアが見せたのと、同じようなものさ。
『風の踏み台』は、爆撃の熱量のせいでかき混ぜられている。
一瞬で読み解くことは不可能に近いが、ソルジェには見えていたのさ……。




