第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その三百六十四
―――青い空中のなか、鏡合わせの『オルテガ』が見える。
女神イースと『ゴルメゾア』は、『雷』を放ってはいたものの。
それらのすべてが当たらない、ルルーシロアの踊るような軌道だけじゃない。
『風の踏み台』の影響があるのは、彼女たちもだった……。
―――風というものは、見えないくせに気まぐれなんだ。
女神イースと『ゴルメゾア』が浮かんでいるその場所も、風が吹き荒れている。
この場所で、最も強い『風の踏み台』がね。
ミアとルルーシロアには加護となったが、それは風を読み解いた者にだけ……。
―――風の奥義を読み解けない者たちは、この荒れる風に足を引っ張られていた。
ルルーシロアの飛び方が、優れていただけじゃない。
女神イースと『ゴルメゾア』の飛び方は、今までで最も不安定だからだ。
この大きな差が、命中精度を極端に低下させてしまっている……。
「ルルー!楽しいね!」
『なるべくして、なったな!』
―――ニンマリと、ふたりは笑っている。
敵の攻撃を避けながら、この状況を組み立てられたことの快感にひたるんだ。
ふたりの性格は、こういうところでもよく似ていたよ。
どちらも、『攻撃』的なスタイルを好むということさ……。
「戦場にあるもの、空にあるものを……ぜーんぶ、使っちゃうの。それってさ、すっごく。ぜいたくなコトだよねー。でもね、私たちには、許されるの。だって……だって。私たちは、クールで賢い、『空の女王』だから!」
―――『空の女王』という称号が、ルルーシロアの心をつかんでいたよ。
それは自覚していたことでもあるし、言葉として耳にすると思いのほか心地良かった。
ミアも、同じだよ。
『攻撃』的であることは、実はかなり支配的な性質の証明でもある……。
―――『守備』は、自分だけの判断力と行動力が強さを生んでくれるものだ。
それに対して、『攻撃』は連携と周囲の環境を利用し尽くすことで威力を作る。
クールで賢い『空の女王』たちは、風と敵の行動さえも支配した。
『風の踏み台』に足を取られたまま、あせって攻めた敵は速度を失っている……。
―――ルルーシロアの金色の瞳が、獲物をにらみつける。
それと同時に、ミアは別の方角を一瞬だけチラ見していたけれどね。
問題はない、ふたりのリズムは一致しているままだから。
ブーツでこするだけで、意志は伝わっていく……。
―――ルルーシロアが空に描いた軌跡は、女神イースに狙いを定めた。
それを察した『彼』は、悲鳴を上げながら献身を選ぶ。
女神イースのために、その身を盾にするのさ。
何とも彼ららしい献身であり、はげしい情熱を帯びた信仰心だ……。
『お守り、いたします!!多くの者の未来が、貴方には託されています!!世界は、悲劇だらけです!!こんなことじゃ、いけないんだ!!せめて、すこしだけも……世界を、やさしく』
―――亜人種を滅ぼせば、人間族は結束して平和になれる。
それは乱暴な理屈かもしれないし、こちらとしてはそもそも受け入れられないけれど。
ファリスという人間族の帝国と、ユアンダートという男が。
この大陸を支配しかけて、証明しつつあった傾向だ……。
―――ヒトの恐怖は、相手を理解できないから強まる。
そうだとするのなら、別の人種に対しては恐怖を抱きやすいのかもしれない。
すくなくとも、『カール・メアー』はそれを信じて選んだ。
やさしいくせに、残酷な解決策を選べるのは強さなのか自己矛盾なのか……。
「あいつがイースをかばうなら……敬意を、持って……仕留めるよ!!怒りじゃない。これは、気高い女王の一撃にする!!」
―――ルルーシロアにも、怒りがあった。
赤いニセモノの竜は、竜を冒涜していると考えていたからね。
ルルーシロアを讃えてくれた、ゾロ島のキケたちも『ゴルメゾア』は殺しかけたんだ。
怒りはある、あったはずなのに……。
―――敵に対しての、敬意を持つ。
その概念を、あらゆる獣の霊長に君臨する彼女は理解しつつあった。
同調しているミアが、それを相手に捧げているからだろうか。
それとも、『彼』の見せた献身に何かを見つけられたのかも……。
―――何であれ、怒り以上の感覚がルルーシロアに宿っている。
急降下していきながら、加速をさらに深めながら。
ルルーシロアは『空の女王』らしく、敵に敬意を持ったんだ。
真に気高い者の一撃は、荒々しい怒りではないものさ……。
―――『ゴルメゾア』の巨体に、白い彗星の一撃が命中する。
巨大な肉は、一撃で真っ二つにされていた。
不死身の再生力を持たぬなら、これは間違いなく致命的。
それでも護衛は、成功したと言える……。
『と、止められた……ッ』
―――死んだあとでも、命をかけて。
怖い戦場で勇敢に戦い続けるなんて、とても偉大な敵だった。
『ゴルメゾア』は、致死性の一撃を浴びつつも喜んでいる。
女神イースの護衛として、ルルーシロアを止められたから……。
―――無数にある目玉が、ひとつずつ光を失っていく。
不死身の魔法は終わりを告げて、本当の終わりがやって来るのだ。
女神イースが、ルルーシロアと絡み合う『ゴルメゾア』の背後で。
強大な『雷』を用意している姿が見えて、安心する……。
『これで……ボクたちごと、この竜を、つらぬいて―――』
―――消えていく瞳の光たち、そのひとつが見てしまった。
『空の女王』の片割れである、ミア・マルー・ストラウス。
そのケットシーの猫耳が、ピクリと動いていたんだ。
暗殺者としての経験が、そのわずかな兆しの意味を悟らせる……。
―――『攻撃』というものは、連携するものだから。
自分たちだけでなく、より多くを巻き込みながら戦う方法だ。
『彼』は空の果てに、影を見つける。
ソルジェとゼファーは、とっくの昔に『もうひとつのオルテガ』に到着していた……。




