第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その三百六十一
―――ミアは心から、この戦いを喜んでいた。
ルルーシロアも、全くの同意見だ。
ふたりのなかに、ものごとを解釈するための同じ角度がある。
女神からの攻撃を受けた直後であっても、それを実感できた……。
―――猟兵と竜、あるいは竜騎士と竜は本質的によく似ているからね。
ルルーシロアはようやく、自分とミアのあいだにある類似点を数えるようになった。
巨大な姿の持ち主ではあるけれど、実際のところはミアよりも年下の仔竜だ。
肉体的にも、そして精神的にも成長の余地があるということだよ……。
「観察するだけじゃない。相手の、考え方も読み解くの」
『ふん。えらそうに』
「聞いて。それがやれたら、もっと強くなれるから」
『……やりかたを、おしえろ』
「えへへ!きっとね、竜騎士姫とアーレスも、同じ会話をしたと思う!」
『しったことか。そんなのは、どうでもいい』
「うん。今は、相手の考え方の読み解き方だね。でも。いつか、竜騎士姫の物語も、ルルーに伝えるよ。それを受け継げると、ルルーも、私も、強くなれるから!」
『……さっさと、はなしをつづけろ!』
「オッケー。あのふたりは、心で結びついているの。お互いを、どこまでも信じ切っているから、あそこまで同調することだってやれる」
『きもちのわるい、れんちゅうだ』
「そうかな。心がつながり合うって、とても幸せなことだと思うよ」
『いちばんつよいやつは、いつだって、たったいっぴきなんだよ』
「ルルーらしい考え方だから、大好き」
『ひていされて、よろこぶとは。あほめ』
「ルルーの方が賢いから、しょうがない。でも、猟兵と竜騎士の知識を、あなたにあげられるのは私だけ。これは、運命だからお兄ちゃんにもやれないの!」
『さっさと、おしえろ!』
―――完璧な連携を、女神イースと『ゴルメゾア』は体現している。
さっきの『トリックショット』もあったせいで、こちらの警戒心は強まった。
ミアはルルーシロアに、回避に徹するように誘う。
言葉ではなく、ブーツで竜の肌をこするだけでね……。
―――ルルーシロアは、この消極的な判断を受け入れたんだ。
理由は、とても明白なことだよ。
彼女にとって敵を倒すことは、己をより強くするための方法と同じ意味だから。
戦いの場は、常に勉強の場所だ……。
―――女神イースと、『ゴルメゾア』の攻めを回避しながらも学び取ろうとしている。
ミアから、猟兵と竜騎士の知識を食べたいのさ。
ついに気高いルルーシロアも、受け入れている。
竜と竜騎士のつながりが、どれほどの力を生み出すのかを……。
―――ゼファーが、単独でルルーシロアに競り合ってみせた事実も大きい。
そして、他ならぬ目の前の敵が意味不明なつながりで連携を成したからでもある。
ルルーシロアは、『自分以外の誰かを受け入れた結果に得られる強さ』の実在を信じた。
いつもなら湧き上がってくるはずの怒りの衝動も、今はなかったのさ……。
―――竜は、とても合理的な生命だからね。
強さに対して、ある意味ではおぞましいほどに崇拝してもいる。
群れが弱体化すれば、それを滅ぼすための『グレート・ドラゴン』を呼ぶんだ。
これほど本能的に強さを愛する生命が、自ら目撃した強さを拒めはしない……。
「イースと、あの子はね。お互いに、合図を送っているの」
『……ことば、か?』
「ううん。リズム。言葉よりも粗っぽくて、そのおかげで、より精密に伝わる力もあるんだ。あっちは、それを使いこなしているの」
『どうすれば、うばえる?』
「マネするのは、かなり難しいよ。お互いを、しっかりと受け入れないといけない。ルルーは、そういうの、とっても苦手だからね!」
『うるさい。にがて、ではない。ふひつようなんだ』
「でも。使えると、もっと強くなれるのに?」
『……しくみを、おしえろ。そうすれば、わたしなら、こうりゃくできる』
「うん。コツは単純。動きが、そのまま指示になっている。あっちには、『カール・メアー』武術のリズムが、すごく染みついているから。それを利用して、赤い子は、イースに指示を出したんだ」
『……それは、つまり……』
「長いあいだ、同じ経験をしているから、あれだけ連携出来ちゃうの。時間がかかるね」
『……くそ。わたしには……』
「使えるよ。ルルーは、何だってやれるんだし。私が、ずっとそばにいてあげるから」
『……ずっとは、いらん。うっとおしい』
「えー。そうじゃないと、覚えきれないよ。猟兵の知識も、竜騎士の歴史も。がんばらないと、そのうちゼファーに追い抜かれちゃう」
『……くそが。はらが、たつ……ッ』
「思っていた以上に、怒らなかった!」
『うるさい。だまれ』
「ルルーも、成長しているんだねえ。私、すごくうれしいよ!」
『なでるな!ふりおとすぞ!』
「あはは!ごめんね。でも、うれしいのは変わらない。今日は、とってもいい日だ。ルルーに会えたし……あのね。ついさっきね。ママにも会えたの!」
『ちかくに、いたのか』
「ううん。ずっと昔に死んじゃっているけれど、イースが会わせてくれたんだよ。ママはね、私のこと、大きくなったって褒めてくれたの」
『……やつは、どうして、そんなことをしたんだ?』
「神さまだからだと思う。イースは、すごく相手のコトを考える。やさしい神さま。『ギルガレア』のおっちゃんとも、似ているね」
『だれだ、それは』
「この逆さまになっている街を作った神さま。すごくやさしくて、心の底から悲しんで苦しんでいるヒトたちを、見捨てられないんだ」
『それを、わたしにはなして、どうする?』
「お互いを、よく知ればいいだけ。ルルーと私ならね。ちょっとずつ自分や相手を知るだけで、もっとスゴイ連携がやれるようになるの。だから、必要なんだ。私たちは、自分を伝え合う必要がある。今よりもっと、強くなるためにね。私たちだけの、リズムを創るために、それは、どーしても必要なの!」
―――強敵に追い回されながらでも、ミアは笑顔で楽しんでいる。
ルルーシロアは、まだ気づいていないだろうね。
ミアの声を聞けば聞くほどに、ブーツから伝わってくる『言葉』が明瞭になっている。
お互いの心のなかにある、同じ角度は共鳴し合うために使うものさ……。
「何を見て、喜ぶのか。どんなことをして、楽しくなれるのか。そういうのを知っておくとね、それを利用して自分たちもだし、それだけじゃなくて、どんどん相手を理解できる。つまりね。自分たちを知ると、敵のコトも、ずっと理解できるようになるの。戦場はね、極限に引きずり込めば込むほど、素直になれる場所だから!みんな、つながっているの!」
―――本を読むときと同じでね、世界にも隠された文脈がある。
目に見えるように書いてはいないけれど、形づくるための力が隠れているのさ。
ミアは、それについて上手く言語化するほどの大人びた知恵はない。
でも、ルルーシロアは竜だから語学力の達人でもある……。
―――ヒトの言葉さえも理解して使いこなせるのだからね、竜は語学の天才なんだ。
ルルーシロアはミアよりも先に、今まさに獲得しようとしている感覚を名付ける。
『解釈すればいい』、見たままの姿に込められた意味を賢さで引きずり出すのさ。
他者や環境という『外』に対して、本気で興味を持っていないとやれない奥義だよ……。
―――これは、竜と竜騎士だから伝わったというよりも。
ミアとルルーシロアだからこそ、伝わったのさ。
真の『解釈』の力は、経験や歴史がいる。
ふたりは戦場を通じて、お互いの多くを伝え合っているのだから……。
―――戦場で育った、誰よりも純度の高い猟兵だからこそ。
竜の本能にも似通った価値観さえも得られて、自分をより多く竜に伝えられる。
『もうひとつのオルテガ』は、それをするには最適な場所でもあった。
今のミアは、竜騎士姫と仔竜ザードの物語も覚えているんだ……。
「ルルー。私たちは、誰よりも強くなれるよ。だって、そうなりたいって願っているんだから。ルルーにとって、いちばん大切なコトを、私は知っている。ルルーは、さっき知ったよね。私がママを、どれだけ大切にしているか……だから、それを知ってくれた今は。きっとね。ちょっと前よりも、ずっと強いよ。竜騎士姫と、ザードみたいに!」




