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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百五十三


―――無力な時もありはするもので、それは猟兵であっても同じこと。


誰もが望まない悲劇でさえも、世の中には起きるものだ。


悪意の力学がひしめき合っている、戦場という空間ではなおさらね。


それでも、ヒトの意志はバカには出来ないものだよ……。




―――いくつかの願いが、この場所にある。


間に合わないと悟ったとき、ソルジェとゼファーは魔眼に頼っていた。


状況を観察しようと、ふたりが知覚を重ね合わせていたからだろう。


ゼファーの感覚がソルジェに加わることで、その呪術の完成を高速化させた……。




―――金色の呪縛、『ターゲティング』が刻み付けられる。


ビビアナの頭部を、押し潰そうとしている『ゴルメゾア』の脚に。


幸運なことだった、つまり偶然ではあるが実力の内とも言えるよ。


勝負運を持っていなければ、戦場の霊長とは言えないのだから……。




―――『ゴルメゾア』も、じつはこの瞬間に努力をしている。


ビビアナを殺すつもりはないからだ、人質に使うという理由からだけじゃない。


契約があるのさ、女神イースまで守っていた契約がね。


それは『彼』にとっても、『ゴルメゾア』にとっても絶対的な権威だった……。




―――メダルド・ジーとの、契約がすべてを縛っている。


『ビビアナを殺さない』、メダルド・ジーが身を捧げた理由がそれだ。


ミアやフリジアのことも、その契約には含まれているけれど。


商人の一族らしく、契約上手と来ている……。




―――『ゴルメゾア』は、女神とメダルドとの間で交わされた契約を守りたがった。


それは自我以上の、絶対的な忠誠を強いられる感覚だ。


『彼』が面影ではなく本人であったなら、この忠誠心さえ衝動で壊せたかもしれない。


でも、現実はそうじゃない……。




―――人格と呼ぶには、心と呼ぶには既に遅いものだ。


レナス・アップル自身はとっくに死んでいて、『彼』はその残滓にすぎない。


だからこそ、男の子だった頃の感覚に乗っ取られもしている。


本人だったら、そんな歴史はとっくに封殺しているのにね……。




―――女神の傀儡のようなものであり、だがそれゆえにヒトよりも純粋だ。


『ゴルメゾア』の全身を構成している、『蟲』に命じられる。


ヒトの限界を超えて、ヒト以下の面影ゆえに抗えた。


ビビアナを踏まないように、契約を守ろうと全力になれた……。




―――『人買い』の娘なのに、『彼』は守ろうとしている。


そんな自分に感じたのは、矛盾だったろうに。


自分が本当にしたいことのひとつに、ビビアナを殺すという選択もあったはず。


『彼』の憎悪と痛みは、あまりにも深さがあったから……。




―――それでも、信仰心の傀儡は努力する。


もちろん、止まりそうにない。


ビビアナの加速は鋭すぎたから、追いかけるには全力を出すしかなかったから。


どうにもならい、『彼』だけでは……。




―――助けられる者は、この場にいない。


『助けられる者たち』ならば、ここにいた。


フリジアの叫びが響くとき、最後のピースがはめ込まれる。


極北から来た乙女は、相棒と共に全身全霊を尽くしていた……。




「『曙』おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」




―――伏兵として、こっそりと。


パロムと『曙』は、この場に潜入していた。


ソルジェも知ってはいるよ、会話に夢中な『彼』とは違い視野は広く保てていたから。


彼女の実力まではともかく、ビビアナ救助のために動いていたのは見えていたのさ……。




―――誰よりも近くに、『霊槍』モードにしたユニコーンを背負った彼女がいた。


賭けたわけでもないし、命じたわけでもない。


ただ必死に、それぞれが動いた結果に過ぎなかった。


戦場は悪意という合理的なもので作られているけれど、善意はいつも読めない……。




―――ソルジェも狙ったわけではない、『霊槍』と呪術の相性なんてね。


『ターゲティング』の金色の呪印が、『霊槍』を導くなんて知りもしなかった。


パロムが『風』でも放ってくれたなら、幸いだと思っていただけさ。


パロムが『ぶん投げた』それが、金色の呪印に反応し加速するなんて……。




―――奇跡は、善意というわけの分からないものが起こすものだよ。


多くの者の必死さが重なり合ったおかげで、『霊槍』に化けた『曙』は間に合った。


『ゴルメゾア』の巨大で、圧倒的な重さを持つ脚のひとつに命中する。


魔眼でも追い切れなかったほどの速さだったから、ゼファーは驚いていた……。




―――赤い、赤い。


ビビアナのすぐ近くで、『ゴルメゾア』の脚のひとつが吹き飛ばされていく。


血と肉が爆ぜて、『蟲』も吹き飛んでいった。


ビビアナは、メダルドの声を聞いた気がした……。




「……叔父さま……っ」




―――昔々、悲劇を見ることで救われた子がいた。


この世には、多くの悲劇が重なり合うようにあって。


その悲劇は多くの者を傷つけもしたけれど、戦うべきものを教えてもくれた。


死は、とても恐ろしくておぞましいものだよ……。




―――それを最大の不幸と呼ぶべきなのかは、分からないけれど。


死はあまりにも絶対で、取り返しのつかないものだ。


メダルドが悲しいのは、妻も兄も兄嫁も死なせてしまったから。


死が呼ぶ孤独の強さになんて、耐えられるはずもない……。




―――死ぬな、メダルド・ジーの声はそう言った。


ビビアナだけに聞こえたけれど、彼の魂がここにいたらそう言っただろう。


無責任に保証してあげられるよ、その声はきっと真実さ。


悲劇が嫌いな男が最愛の『家族』に捧げる言葉に、多くのパターンはない……。




―――『霊槍』は、強烈な威力となっていた。


『ゴルメゾア』をのけぞらすほどで、『白夜』の一撃にも近づけていたかもしれない。


まだ『曙』の技巧は、それほど高められてはいないからね。


『白夜』なら突き刺さった瞬間に、咆哮と衝撃を放てていただろう……。




―――想像以上の超高速での衝突で、『曙』も驚いていたから追撃は出来なかった。


まあ、問題はないさ。


竜騎士と竜に、一瞬『も』与えてくれたのだからね。


ゼファーは走っているし、すでに『ゴルメゾア』の懐に入っていた……。




「かち上げろ、ゼファー!!」


『おっけええええええええええええええええええ!!』




―――最も単純で、最も原始的な暴力のひとつが炸裂していたよ。


そうだ、『体当たり』という技巧だ。


ゼファーの圧倒的な速度と、巨体が帯びた重量が『ゴルメゾア』に衝突する。


『ゴルメゾア』の巨体も、吹き飛ばされていたよ……。




―――『曙』は、どうにか無事に逃げていた。


『ゴルメゾア』の脚から引っこ抜けて、宙に舞っていたのさ。


パロムは、あわてて救出に向かう。


相棒が化けた『霊槍』を地面に激突させる直前に、どうにかキャッチした……。




「せ、セーフっ」


『ひ、ひひいんっ』




―――安堵を得て、ビビアナを見た。


ビビアナは無事だ、美しい黒い瞳をぱちくりさせている。


『人買い』の娘であるが、そんなことはどうでもいい。


だって彼女は、『戦友フリジア・ノーベル』の友なのだから……。




「ビビ!ビビっ!!」




―――フリジアが、ビビアナに駆け寄り抱き着いていた。


大泣きしながら、親友の無事を確認する。


触りまくって、ほおずりまでしていたよ。


全身でビビアナが生きていることを、確認したいのさ……。




「フフフ。『曙』、良き仕事をしましたねえ、私たち!」


『ヒヒイン!』




―――いい仕事だったよ、笑顔になっていい。


フリジアとビビアナに自慢しに行こうと考えた彼女が、一歩踏み出したとき。


ゼファーが地上に倒れ込む『ゴルメゾア』に、蹴爪の一撃を叩き込んでいた。


そのせいで、地面が揺れてしまうほどだ……。




『ぐ、ふう……ッ!!』




―――再生能力の欠如した状態の『ゴルメゾア』の頭部を、踏みつけた。


いつでも踏みつぶせるが、ゼファーは『ドージェ』に確認している。


ビビアナを守れて安心したソルジェには、余裕があり。


確かめてみたい『実験』も、あったんだよ……。




―――追い詰めた、完全に『ゴルメゾア』を追い詰めた。


となれば、この怪物が選択する方法はひとつだけ。


まだ、ソルジェはあきらめていない。


実験の結果次第では、不要な悲劇をひとつ消し去れる……。





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