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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百五十二


―――ヒトの心というものには、さまざまあった。


素晴らしいものもあるし、その逆もある。


どうしようもなく、弱くておぞましい心もあるんだ。


卑怯で残酷で、そのくせどうにも『ヒトっぽさ』にあふれたものが……。




―――シモンの行動は、あくまでも反射的なものだったよ。


分析もしたし、思考もしてはいたけれど。


善意と悪意の入り混じった、願望の表現でしかない。


つい魔が差したものでしかないくせに、あまりにも被害が深刻なものだ……。




―――そんなありふれた男の手に押され、ビビアナは地面に倒れてしまう。


悲鳴を上げたとき、その声を聞いてしまったとき。


シモンの一瞬で正気に戻っていた、『乙女を殺そうとしている自分に気づいた』からだ。


それはあまりにも恐ろしい行いであり、いくら誤魔化せたとしてもひどすぎた……。




―――彼もある意味では、被害者なんだ。


戦場という極限の緊張感のなかで、ヒトは真の意味で冷静ではいられない。


誰かに殺意を抱いて、その実行の方法を考え続けているなんて普通かな?


どう考えても異常な行為なのに、戦場ではあまりにありふれている……。




―――狂気に蝕まれた空間だからこそ、ヒトに憑りつくこともあるのさ。


戦場がヒトを殺させる、シモンのような凡人であればあるほど憑りつかれていく。


正気であれば、女の子を殺そうだなんて考えられる男じゃない。


多くの男がそうだけど、戦場ではちゃんと狂える……。




―――猟兵でも、職業倫理を保たせるのはこういった症状を防ぐためだ。


戦場の霊長であるという意味は、戦場を掌握して支配するという意味。


憑りつかれてしまわないように、ガルフも心配していたのさ。


シモンは被害者だ、もちろん加害者でもあるけれど……。




『な……ッ!!』


「ビビっ!?」




―――『ゴルメゾア』が叫び、フリジアも叫んだ。


加速した巨体は、なかなか止まれない。


予想していた距離感は破綻して、巨大で醜い怪物の脚がビビアナに迫る。


踏みつぶす軌道に入ったそれが、彼女の細い首の先にあるアタマへと落ちていく……。




―――ソルジェとゼファーでも、間に合わない。


フリジアでも、間に合わない。


シモンは罪科の重さに囚われて、恐怖に身がすくむのみ。


投げやりになっているビビアナも、身を避けようとはしなかった……。




―――罰かもしれないと、ビビアナは思う。


『人買い』ジーの一族は、ここで終わるべきなのかもと。


悪くない人生だった、両親とメダルドのおかげで。


『狭間』だなんて、厄介な立場の自分を家族は受け入れて愛してくれた……。




―――『狭間』で、『人買い』なのに。


親友までできたのだ、ミアとフリジア。


亜人種と『カール・メアー』と、心からの絆で結ばれるなんて。


奇跡そのものじゃないか、満足できる結果だ……。




―――悲劇を鑑賞するのも、嫌いじゃない。


悲しい現実が人生には待ち受けているものだと知れば、日々をたくましく生きられる。


『狭間』であることが、バレないように。


ジーの一族として、恥じることのない正しさで生きなくちゃ……。




―――正しさの意味は、とても揺れ動いてしまうものだから。


だって、奴隷にされていく亜人種を見れば悲しくなる。


『狭間』が亜人種を売るなんて、自分の母親もエルフなのに。


正しさの居場所は、本当にころころと揺れ動いてしまう……。




―――根無し草、居場所のない放浪者。


誰の仲間にもなれず、それどころか。


多くの者から、忌み嫌われる敵なのだ。


悲劇を鑑賞することが、必要である……。




―――悲劇を恐れることが出来たなら、彼女はバレないように努力できた。


悲劇の痛ましさに嫌悪することが出来たなら、彼女は職業倫理を保てたから。


『人買い』なんていうおぞましい仕事の最中でも、せめてよりマシな選択を。


邪悪なのは分かっている、おぞましく卑劣な嘘つきであることも……。




―――それでも悲劇を見れば、たくましく生きれた。


自分の偽りみたいな人生で、戦い続けなければならない課題が見える。


『よりマシな悪人でいる』のだ、周りの家族と自分自身のために。


それは魂をすり減らし、自分を生贄に捧げ続けながら行う終わりなき演技……。




―――それが、終わるとするのなら。


自分が、悲劇そのものになるというのなら。


その悲劇が、いつか自分を支えてくれた悲劇たちのように。


誰かを助ける力になるのなら、悪い終わり方でもない……。




―――すくなくとも、フリジアを助けられる。


きっと悲しんでくれるだろう、たくさん泣いてくれるだろう。


それはかわいそうなことだけれど、敵と心中するような真似をしなくていい。


やさしい親友を助けてあげられるならば、悪くない……。




―――だって、見ていれば分かるのだから。


フリジアは、たくさん傷ついている。


戦いでもそうだし、『カール・メアー』から離脱したことでも。


自分を形作る人生の多くを過ごした場所を、切り離すなんて……。




―――自分の体を、引き裂くような痛みだったに違いない。


救えなかった『彼』のために、命を捧げるような選択をするほどに追い詰められて。


そんなフリジアは、これで死なずに済むだろう。


自分を敵が踏みつぶせば、ソルジェ・ストラウスが怒るから……。




―――人質から離れた『敵』を、竜騎士と竜が見逃すはずがない。


だから、フリジアは助かる。


悪くない、親友のために死んで。


両親と叔父が待つ場所に行くのは、満足していい取引に決まっている……。




―――笑顔にだって、なれそうだ。


そう思ったけれど、その表情はやはり恐怖に引きつった。


死は厳粛であり、絶対であり。


もちろん、どんなときでも本能を怯えさせるものだから……。




―――強がりは叶わず、笑顔を選べず。


自分を踏みつぶすために落ちて来る巨大な脚を、乙女は見ていた。


黒い影が美しい顔を覆いつくして、戦場にそそのかされて起きた悪意は。


ひとつの結果を、赤い血で飾った……。





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