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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百四十九


―――パロムの予想の通り、レナス・アップルは敵だった。


『彼女』とフリジアの関係も、『彼女』がビビアナに抱く八つ当たりめいた恨みも知らない。


それでも、当てたのは合理的な判断だからだよ。


合理的な判断が正しいのなら、ソルジェとゼファーも把握しているってことさ……。




―――舌打ちしながらも、ふたりは追いかける。


舌打ちしたのは、分かっていたからだ。


このレースに勝つのは、難しい。


『守備』を成功させたいときは、守るべき対象が多いほど不利になるからね……。




―――空に飛ばれないように注意しながらでは、完全な対処は難しい。


だからこそ、ソルジェは考え始めている。


まあ、一秒も経たずに答えは出せたけれど。


脅迫なんてするのは、弱者の選択だった……。




『見つけたぞ!!フリジア・ノーベル!!』


「……っ!?ビビ、逃げろ!!」


「……ま、間に合わない」


「そ、それでも逃げてくれ……っ」




―――猛烈な勢いで迫ってくる『ゴルメゾア』に、フリジアは親友を守るために行動する。


罪悪感もあるからか、躊躇のない自己犠牲を帯びた踏み込みだ。


ビビアナを背にして、疲れ果てた体を赤くおぞましい巨敵に晒す。


自分の身を、ビビアナのための盾にした……。




―――『オルテガ』の若い戦士たちは、突撃してくる巨敵から泣き叫びながら逃げる。


シモンは怯えてしまっていて、身がすくんで立ち尽くしていたけれど。


轢かれることはなかったよ、『彼女』の眼中に雑魚は映らないからね。


見つめているのは、フリジアだけだ……。




「こ、殺されるぞ……っ」




―――自分のとなりを通り過ぎた巨敵が、フリジアたちを殺すと判断した。


シモンの青ざめた顔は、恐怖ゆえのことなのか俊敏だ。


首を動かし、目を動かし。


乙女たちが殺されるかもしれない場所を、見つめていた……。




―――だが、想像力の見せた死の光景は起こらない。


『ゴルメゾア』は急停止し、フリジアとビビアナを轢き殺す直前で停止していた。


シモンはその事実に気づき、さらに恐怖する。


乙女たちが残酷な肉片に変わらなかったら、安心するべきだというのにね……。




「や、やはり……敵と内通しているのか……ッ」




―――疑り深さは、命を生き延びらせる。


シモンは誤解したし、曲解しようともしていた。


すべての状況に意味を与えるのは、けっきょくのところ個人の解釈次第。


彼が信じたいのは、『カール・メアー』とフリジアの不正だけさ……。




―――小市民の考えなど、『彼女』たちには関係ない。


『ゴルメゾア』の赤い体にある無数の目玉が、ギョロギョロと踊った。


ビビアナの盾となったフリジアに、それらの視線の半分が集まる。


残りの半分は、ソルジェとゼファーを警戒していた……。




『動くなよ、ソルジェ・ストラウス!!動けば、フリジア・ノーベルを殺してやる!!ビビアナ・ジーもだ!!』




―――もちろん、テロリストとだって交渉するよ。


ソルジェとゼファーも、『ゴルメゾア』と同じように石畳を爪で引っ掻きながら停止する。


ふたりの表情がポーカーフェイスだったことに、『彼女』はイライラした。


落ち着き払っているのは、余裕の表れだったから……。




『私を、軽んじるなよ!!信仰心に裏打ちされた覚悟は、血塗られた道を恐れることなどないんだからな!!』


「ああ。そうだろうな」


『……腹立たしい。余裕ぶりやがって』


「人質を取るのは、弱虫と雑魚の得意芸だ。ガッカリさせてくれるよ」




『好きに、言っておくがいい。とにかく、動くなよ。攻撃もさせるな。この背教者と、罪深い『人買い』の娘を殺されたくはないだろう』


「そう信じられる点については、評価してやるぜ。ふたりの価値を、よく理解しているってことだからな」


『やかましい。必要な言葉以外、口にするな』


「ああ、いいとも」




―――アーレスの口調を、ソルジェは真似ている。


いつもは無意識的に、今は意識的に。


知恵ある古竜を頼りたいと考えて、『次の一手』に備えた。


知っているよ、パロムと『曙』の動きを魔眼はちゃんと見つけているからね……。




「……その声、レナスか」




―――フリジアはパロムたちに気づいていないが、『彼女』の存在には気づいたよ。


複雑な感情を抱え込むことになり、どんな表情をすればいいか眉毛が困っていた。


怒りも悲しみもあるが、死と破滅を願うべき相手かは分からない。


ビビアナを人質にした点は、恨んでいるというのにね……。




『そうだ。私は、戻ってきたぞ』


「しつこい、ヤツだ」


『死ぬに、死ねない。私とこの子たちこそが、女神イースを守るのだ』


「……っ。死んだあとでも、戦い続けるなんて間違っているぞ」




『うらやましいんだろう。背教者は、殉教者である私たちに嫉妬をしている!』


「……そ、そんな感情じゃない!」




―――フリジアは、嘘をついた。


どこまでも純粋な殉教者である『彼女』に対して、もちろん嫉妬ぐらい持つよ。


フリジアだって、『カール・メアー』から離脱した今でも女神イースの信者だ。


『カール・メアー』でなくとも、イース教徒という自負は捨てられていない……。




―――『蟲』の力で再生させられた、強制的に創り出された女神について。


あれを『本物』だと心のすべてで否定できたなら、こんな苦しみはなかったかも。


フリジアにとって、女神イースはとても大きな存在だ。


殉教者を『うらやましい』と思ってしまうのも、当然だよ……。




『お前こそが、『カール・メアー』そのもののはずだ。私のように、残酷な『人買い』のせいで『男』の部分を削ぎ落とされたわけでもない。純粋に、女として生まれた。お前は親に捨てられたが、うらやましいことに、『カール・メアー』の中で純粋に生きられたんだぞ!!』


「うらやましい、だと……っ」


『そうだ。認めてやろう。お前が、誰よりも『カール・メアー』そのものになれたはずだと、嫉妬をしていた。それなのに……ああ。滑稽だぞ。お前の間抜けな堕落が、私への嫉妬を抱かせている!!』


「う、うるさい。そんなのでは、ない……っ」




―――なけなしの自尊心が、嘘をつかせた。


子供じみた、あるいは若い尼僧じみたケンカだったかもしれない。


何とも幼稚な感情のつつき合いで、それだけに理論武装は解除されてしまう。


傷ついていたフリジアの心に、『彼女』の言葉の毒牙は深く突き刺さっていた……。




―――ソルジェは、冷静だったよ。


『彼女』たちの会話に、すこしばかり興味があったのと。


『仕込み』のために、『彼女』が感情的になるのを望んでいるからだ。


竜太刀を振って、周りの戦士たちを抑止させる……。




『聞こえたぞ!!歌っただろう、願い、祈った!!』


「……あ、あれは……」


『ガキの頃みたいに、みじめで弱く、誰のためにも何の役にも立てなかった頃みたいに、大聖堂で泣いているみたいに……ッ!!』


「……そ、そうだ。それは、当然だろう……っ。ビビが……ビビから、親を奪ってしまったのだ!!」




―――その言葉は、ソルジェにも動揺を与えてしまう。


顔はポーカーフェイスのままだったけれど、ビビアナの足もとにある金色の残骸を見た。


『繭』はその形状をあまりにも変えていたが、魔眼はメダルドの魔力を読み取れる。


だが、その魔力の大半はすでに失われてしまっていた……。




―――歯ぎしりを、禁じ得ない。


メダルド・ジーに対しては、特別なリスペクトと友情があったからだ。


助けてやりたいと願っていたし、それをやり遂げる気でいた。


怒りに任せて、暴れたくなってしまうものの……。




―――忍耐を使いながら、観察を続行する。


メダルド・ジーの魔力は、まだ残っているのだから。


あきらめる必要があるなど、信じなくていい。


ビビアナの泣き顔を見れば、竜騎士らしい道を選ぶべきだ……。





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