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5月2日書籍版発売!!元・魔王軍の竜騎士が経営する猟兵団。(最後の竜騎士の英雄譚~パンジャール猟兵団戦記~)  作者: よしふみ
『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』

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第四話    『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』    その三百四十六


―――そこで朽ち果てていくものは、命と可能性の残骸だ。


どれだけ悲しんだとしても、どれだけ惜しんだとしても。


ひとつの可能性が、終わってしまっている。


もちろん、あらゆる事象に価値を与えるのは個々人の解釈次第だよ……。




「や、やった!!やったよ、やった!!バケモノが、死んだよ!!」




―――歓喜の声さえも、そこにはある。


シモンにとっては、自分を殺すかもしれない凶悪な『繭の怪物』が死んだだけ。


彼からすれば正しい反応であるし、腕を振り回して喜びを表現してもいい。


もちろん、すべて個々人の解釈次第だった……。




「ざまあみろ!!バケモノめ!!わ、私の故郷から消え失せろ!!そのまま、き、消えてなくなってしまえ!!」




―――ビビアナの体が、まるで鞭でも打たれたかのように震えていた。


敵意ある喜びなんてものは、乙女の心を不安にさせても当然だ。


叔父の命を終わらせてしまった罪悪感のせいで、怒鳴る気持ちにもなれない。


ボロボロに憔悴した顔を、泣き顔の親友に見せるだけ……。




―――フリジアは、ビビアナのためにしてやれる行いを見つけた。


すべてを元通りに戻すことは不可能だけど、怒ってはやれるから。


ビビアナをギュッと強く抱きしめたあとで、彼女から離れる。


歩いていくよ、喜びの声を上げるシモンのもとに……。




「おい。殴らせろ」


「は……は、はあ!?」




―――すわった眼を見ると、本気の度合いが伝わるものだ。


シモンは肩を震わせながら乱暴な宣告をした少女が、本気だと認識する。


いい判断かもしれない、猶予を与えておかなければ。


巫女戦士の鍛えられた拳のせいで、殴り殺してしまったかもしれないからね……。




―――十分な殺意を帯びた拳が、シモンの顔面に着弾した。


前歯が何本か折れていき、シモンの体は彼の故郷の石畳に倒れ込む。


赤い血と、折れた白い歯を吐いていた。


だからといって、フリジアの気持ちが改善することはない……。




「ど、どうして……ッ」


「黙って、いろ。もっと、殴られたいのか?それとも、蹴り殺されたいのか」




―――子供時代を思い出していたよ、いじめられていた時代を。


シモンは、恐怖で押し黙ったんだ。


それは、とても自然な反応と言える。


だって、フリジア・ノーベルは本気の殺意を持っていたから……。




―――彼女自身も、ちゃんと分かってはいる。


こんな感情は、考えれば考えるほどに八つ当たりに過ぎない。


シモンは死の恐怖から解放されて、喜んでいるだけ。


それが悪いことだとすれば、ヒトは生きていけないだろうね……。




―――理不尽な、八つ当たり。


ただの暴力で、正当性は足りないかもしれない。


でもね、フリジアは後悔しないんだ。


だって、メダルドの破滅を喜ぶ笑い声を止めてやれたから……。




―――どす黒い、良くない感情だと思う。


一体どんな顔で、あのシモンのことをにらみつけているのだろうか。


今の自分を誰にも見せたくはない、とくにビビアナには。


自分だって見たくないほどに、怖い顔をしているに決まっているのが分かる……。




「こ、こ、ころさ……ないで……っ」




―――いじめっ子なんてものじゃない、フリジアの顔はもっと怖いものだ。


フリジアは理解している、この状況の原因は誰だったのか。


それもまた解釈の次第だけど、直接的な引き金は目の前で転がっている。


シモンが介入してこなければ、『繭』を確保できていた気がしてならない……。




「お前が、ビビを……さらおうとなど、しなければ……っ」


「や、やめたまえ。い、言いがかりだよ。き、君たちだって、納得していたはずだ」


「うるさい。黙れ」


「お、落ちつけ。落ち着くんだ。そ、そうじゃないと、じ、『事故』が起きてしまいそうだよ。そ、そんなのは誰のためにもならない!!非生産的だよ!!」




―――商人らしく、弁論に頼るつもりらしい。


フリジアは、その言葉が気に食わない。


その態度が、そもそもイライラさせてくる。


商人の言葉に誤魔化される前に、戦士らしく暴力で解決した方が救われた気がした……。




―――不毛な真実ではあるけれど、『正義』はおよその場合で暴力が保証する。


目の前にいるシモンなんて、半殺しにしていれば良かったのは確かだ。


自分たちを不幸にしようとする者は、戦場では敵に過ぎない。


怒れるフリジアに怯えるようなヤツに、それほどの根性があるはずもない……。




「お前、ごときのせいで……ッ」




―――フリジアも若く、まだ子供の範囲にいる。


だからこそ、誰かのせいにするのを好むものだよ。


状況の解決にならなくても、当たり散らしたくなる。


いじめるにはちょうどいい相手が、すぐそこに転がっているときはね……。




―――シモンは、理解する。


『カール・メアー』の巫女戦士の機嫌を損ねるのが、どれほど恐ろしいものか。


帝国貴族や帝国兵さえも恐れる、異端審問官の一員なんだからね。


彼女は異端審問の『拷問術』を修得してはいないが、シモンはその事実を知らない……。




―――シモンのアタマにあるのは、『カール・メアー』の悪名だけだ。


亜人種を焼き殺したり、異端とみなされた帝国貴族を処刑したり。


残酷な拷問で、彼女たちは彼女たちの求める事実を追求する。


死の化身そのものであり、誰もが恐れるべき拷問の達人だった……。




―――いじめっ子だとか、父親の言葉に傷つく青年だ。


『カール・メアー』という、『本当に怖い存在』に対して耐えられるのかな。


もちろん、そんなことはない。


彼は『カール・メアー』の権威に屈し、その場に土下座して震えるだけ……。




「こ、殺さないで……っ。し、死にたく、ない……ご、拷問もやめて……怖い目に、あ、あいたくないんだ……」




―――前歯を失ったばかりで、すこしばかり流暢さに欠いた命乞いだったけれど。


フリジアの怒りを抑止するには、幸いなことに機能していた。


気が強い男に生まれなかった幸運に、感謝すべきかもしれない。


今のフリジアの前で、失言や挑発はすべきじゃないからね……。




―――ああ、もちろん。


こんなものは、すべて八つ当たりに過ぎないけれど。


怒りを解決するためには、すこしは役に立つ。


だって、シモンが介入しなければ『繭』を確保するのは難しくなかったんだから……。




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